上 下
8 / 271

7

しおりを挟む
翌日の晴れた朝。昨日あった出来事を思い出しながら庵は軍の廊下を歩いていた。

前代未聞の配属、ありえない教育係━━━━まだ自分は夢でも見ているのかと思う出来事ばかりだ。

だが、夢でなく現実なのだ。なぜなら、廊下ですれ違う人が驚いた顔で自分を見るのだ。仲間と歩いている人達は小さな声で「あれが噂の・・・・」と言い合う声が聞こえる。

一夜にして有名人になった庵海斗は嘆きたい気持ちをぐっと堪えて、自分が配属された「第一室」と書かれた扉をノックして入る。

室長はまだ来ていなかったが、すでに夜神中佐は来ていて、書類作業をしていた。こちらに気付いて笑顔で挨拶をしてくれる
「おはよう、庵君。昨日は色々あったけどしっかりと休めた?」
「おはようございます。夜神中佐。お早いんですね。お陰様で何とか休めました」

嘘だ。あまりにも色々ありすぎて休めなかった。ベットに入ったけど眠れなかったのだ。多分、二時間寝られていればいいぐらいに休めてない。
「そうなの?顔は疲れているように見えるけど。大丈夫ならいいわ。今日から早速指導に入るけど宜しくね」

嘘だわ。多分あまり寝れてないよね。色々とありすぎて、頭の中グチャグチャでまとまらなかったでしょうに。
夜神は庵の言葉を聞いて嘘を見抜いたが、あえて何も言わなかった。本人がそのように言ってきたのだから、その通りに受け止めておくだけにした。

「今日は初日だから、庵君の実力を見てみたいと思うの。それで射撃・剣術・体術の三つを今日は見させてね」
勉強面も出来るなら見たいが、実際任務するときはこの三つが出来ないと戦えない。

更に「高位クラス武器」を取得したらその武器を扱えなければならない。それはまだ先の話だが、大学でも同じ事をしていたのだから、相手を倒す実力はなくても基本は出来てあたり前。

プロフィールとテスト順位だけでは、相手の本当の実力は分からないものだ。なので直に見て、今後を決めていく事にした。
「室長の朝礼が終わったら、まずは射撃からね。射撃訓練場の場所分からないでしょう?案内してあげるね」
なるべく、安心させるような声のトーンで、庵に微笑みながら今日の工程を説明していく夜神であった。


「━━━━以上が、上層部からの伝達事項である。分かっていると思うが、なるべく問題を起こさないように。特に虎次郎お前だ!お前の変な提案を数年前に出したばかりに毎年、どこの国でも同じような案件が多発しているようだ。なぜ、お前はややこしい問題ばかりを増やしていくのか。胃が痛いぞ」
長谷部室長は、毎年している国同士の合同演習の相手国の説明と、虎次郎の非難をして話を終わらせた。

「朝礼も終わったことだし、射撃訓練場に行こうか庵君」 
「はい。宜しくお願いします。夜神中佐」
「おっ、庵青年。今から射撃か?なら相澤も一緒に連れていけばいいんじゃね?相澤は射撃専門だからな。もしかしたら色々とアドバイスもらえるかもよ」
射撃訓練と聞いて虎次郎が相澤の名前を出した。確かにライフル銃とベルトには二つの銃ホルダーがある。何の銃かは分からないが銃を得意としているのだろう。きっとそのうちのどれかがSクラスの武器だろう。

「ついて行ってもいいのだか、今から任務に行かないといけない。またの機会にさせてもらえるだろうか?庵君」
「そんな!!ありがとうございます。お時間合えばぜひ宜しくお願いします」
「虎次郎?教育係は私なんですけど?私も銃ぐらい扱えるし。相澤少佐と比べたらあれだけど・・・けど、庵君大丈夫よ。訓練場には相澤少佐の師匠が居るから」
「師匠ですか?心強いですね。色々と指導してもらえると有り難いですね」
「あ━━━多分してもらえると思うよ。学生には気持ち悪いぐらいにベッタリと指導するからね。あの人は」
相澤は眉間にシワを寄せて、何故か遠い目をしながら呟いていたが、時間が迫っていたのだろう。慌て準備をして部屋を出で行った
「さて、私達も準備して行きましょうか」
「はい」
「いってらー庵青年頑張れよー」
簡単な準備をして、自分達も部屋を出で射撃訓練場に向かう。

一歩、部屋を出ると周りにいた人達が、驚きと好機の目を向けながら、二人の後ろ姿を見ていた

きっとこの視線はしばらく続くのだろう。すごく嫌だけど、分からなくもないんだよな。アンバランスな組み合わせ。自分でも自覚しているがやはり辛いな。中佐は大丈夫なんだろうか?

夜神の方をチラッと見たが、慣れているのか、周りの視線など気にすることもなく歩いていた。
これが慣れているのか、それとも気にしていないのかは不明だか、やはり凄い人なんだと庵は改めて思い二人で訓練場に向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄追追放 神与スキルが謎のブリーダーだったので、王女から婚約破棄され公爵家から追放されました

克全
ファンタジー
小国の公爵家長男で王女の婿になるはずだったが……

私が悪役令嬢? 喜んで!!

星野日菜
恋愛
つり目縦ロールのお嬢様、伊集院彩香に転生させられた私。 神様曰く、『悪女を高校三年間続ければ『私』が死んだことを無かったことにできる』らしい。 だったら悪女を演じてやろうではありませんか! 世界一の悪女はこの私よ! ……私ですわ!

捨てられた侯爵夫人の二度目の人生は皇帝の末の娘でした。

クロユキ
恋愛
「俺と離婚して欲しい、君の妹が俺の子を身籠った」 パルリス侯爵家に嫁いだソフィア・ルモア伯爵令嬢は結婚生活一年目でソフィアの夫、アレック・パルリス侯爵に離婚を告げられた。結婚をして一度も寝床を共にした事がないソフィアは白いまま離婚を言われた。 夫の良き妻として尽くして来たと思っていたソフィアは悲しみのあまり自害をする事になる…… 誤字、脱字があります。不定期ですがよろしくお願いします。

もふもふの王国

佐乃透子(最低でも週3更新予定)
ファンタジー
ほのぼの子育てファンタジーを目指しています。 OLな水無月が、接待飲み会の後、出会ったもふもふ。 このもふもふは…… 子供達の会話は読みやすさ重視で、漢字変換しています。

転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。 神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。 職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。 神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。 街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。 薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。

【完結】飽きたからと捨てられていたはずの姉の元恋人を押し付けられたら、なぜか溺愛されています!

Rohdea
恋愛
──今回も飽きちゃった。だからアンタに譲ってあげるわ、リラジエ。 伯爵令嬢のリラジエには、社交界の毒薔薇と呼ばれる姉、レラニアがいる。 自分とは違って美しい姉はいつも恋人を取っかえ引っ変えしている事からこう呼ばれていた。 そんな姉の楽しみは、自分の捨てた元恋人を妹のリラジエに紹介しては、 「妹さんは無理だな」と笑われバカにされる所を見て楽しむ、という最低なものだった。 そんな日々にウンザリするリラジエの元へ、 今日も姉の毒牙にかかり哀れにも捨てられたらしい姉の元恋人がやって来た。 しかし、今回の彼……ジークフリートは何故かリラジエに対して好意的な反応を見せた為、戸惑ってしまう。 これまでの姉の元恋人とは全く違う彼からの謎のアプローチで2人の距離はどんどん縮まっていくけれど、 身勝手な姉がそれを黙って見ているはずも無く……

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

処理中です...