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閑話

夢の現は世界の次元

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目を開くと、そこは見知らぬ大地だった。

ただ、1つ分かるのは、これは現実では無いということだろう。

俺は、何処かの山の上から森を見下ろしていた。



視線の先には、万にも及ぶ魔物の大群が存在する。

それぞれが、俺と同等かそれに近い力を持っているようだ。

しかし、負けることは無いだろう。



魔物達を見ながら、俺はそう判断した。



「・・・・・・・・・ま!・・・・・・・・・・兄・・・・・ま!」



しかし、俺は顔を魔物の大群に向けた。

その先には、俺の妹、リリナが魔物に襲われて怪我をしている。

泣きながら俺の名を呼ぶリリナの瞳は、不安と恐怖で一杯になっている。



「リリナッ!!」



俺は、全力で地面を蹴った。



「”閃光””反撃””重力”」



三つの魔法で、魔物への対処と速度を上げた。

一瞬でリリナの前に辿り着き、そして魔物の身体を”炎剣”で切り裂く。

幸いにも、魔物達は突然現れた俺の強さに恐怖したのか、周りに溶け込んでいった。



しかし、俺は冷や汗で一杯だ。

俺の索敵内に存在する、俺の数倍の力を持つ者。

そしてそれは、確実に俺のことを見ている。



それだけが、今の事実だ。



「お兄様!!」



そこへ、リリナが走って来て抱きつかれた。

何時もなら物凄く嬉しいのだが、今はそんな時間が惜しい。

俺は、睨むように上空の遥か遠くを見つめた。



刹那、俺の目前に青年が立っていた。



「ッ!!?」



その青年は、白い髪に碧い瞳を持ち、俺の身体を見ている。

そして、その身体を変貌させた。

黒に近い紫の肌に変化し、そして角が二本生え、目が深紅に染まる。



その額に五芒星が刻まれる。

その姿は、魔王の類よりも遥かに高位の”魔”の者だろう。

俺の警戒は一気に上昇した。



しかし、警戒した位では何の問題も無いほどの力量さがある。

青年の威圧でリリナは気絶したお陰で、泣くことは無いようだ。

俺ですら、立っているのもギリギリの状態である。



先程の姿が俺の数倍を誇っていたなら、今の彼の姿はその数千倍だ。

俺が万いても傷を付ける程度で死に絶えるだろう。

それほどの絶対感と全能さを感じる。



「怪我は無いか?」

「・・・・・・・・・・・・・・大丈夫、です」



突然話しかけられたが、なんとか答えられた。

しかし、この青年は何なのだろうか。

そこで、俺の索敵から魔物の反応が消えていることに気付いた。



つまり、この青年は俺の近くにいることで魔物から遠ざけてくれているということか。

俺は警戒を緩めて、青年を見た。

未だ子供の姿な俺だが、それでも立派な戦士だ。



「感謝します」



そう言って頭を下げた。



青年はそんな俺を見て、フッ、と笑った。

その顔は、歳相応のように見えて、俺もさらに緊張を解いた。



「こんな子供が、僕に近いのは驚きだよ」

「近い?」



急に現れたその言葉の疑問に、俺は聞き返していた。



「僕の種族は”邪神”。破壊と混沌、憤怒から生まれた醜い存在だ。そして、三回目の人生でもある」

「!?」

「きみは、二度目の人生のようだね。なら、僕の力をあげよう。決して後悔しないように」



そう告げた青年は、俺の額に手を触れた。

そして、何かを呟いてから、一瞬で消える。

その短い時間だったが、俺には彼が良い人だと感じた。



それと同時に、強くなったのも感じる。

別に、新しく何かを覚えたわけではない。

ただ、俺の存在が大きくなり、そして経験が増えた感覚だ。



きっと、俺の人生を手伝ってくれる。

俺にはそんな予感があった。

そこで、意識は沈んでいく。



もしも、また会う機会があったのなら、その時は、しっかりと礼を伝えたい。

そう思って、俺の視界は途絶えた。
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