上 下
39 / 51
少年期

卒業

しおりを挟む
季節が移り変わり、時もまた、移り変わる。

子供だった少年は、何時しか青年となって、立派に育つ。

健気だった少女は、花の蜜を携えて成長する。



見守る者も、また成長し、世界も動き出す。

新たな種の入学する前日。

育った花たちは、卒業する。



それが、この学園という仕組みである。









今日、俺達は卒業する。

目前に広がる、大きなアーチと魔法の雨が、それを祝福してくれる。

入学してから五年。



十二歳まで成長した俺とカレンは、リリナより一足先に卒業となる。

リリナも、その才能から学年でトップを誇る実力者となっている。

それと同時に、かなり人気があるため、充実した毎日を過ごせているようだ。



俺はといえば、新しい適正やスキルはほぼ取得していないが、基礎的な能力は向上した。

といよりかは、階段を一気に吹っ飛ばしたくらいには成長した。

こう、前方に向かって拳を突き出すと、暴風が巻き起こるくらいには。



その代償として、二つ名が確定してしまったのは誤算だった。

それと、友人も少しだけ出来たのだが、それは割愛させてもらおう。

こうして、卒業する俺とカレンは、これから仕事がある。



正確には、”義務”があるといっても過言では無いだろう。

既に、各国の軍は動き出している。

此処、レビテント王国は今、二カ国からの宣戦布告を受けているのだ。





隣にある、<ゼスファイア帝国>から200,000の戦力が。

海の向こうにある、<リールフィット教国>から、180,000の戦力が。





これに対抗するために、レビテント王国は、俺とカレンの二人の戦力投入を決定した。

そのため、ゼスファイア帝国の全戦力との戦闘を俺とカレン、それと10,000の兵で行うことになった。

この兵の少なさは、俺の戦力とカレンの戦力を考えた結果だそうだ。



それと、多すぎると俺の魔法の被害があるから、だそうだ。

これには納得出来るので、俺は反対しなかった。

カレンは、少しだけ反対したようだが、国王に何かを言われて黙っていた。



とりあえず、そんな理由から、これから戦争に向かうのだ。

まあ、雰囲気としては”運動”なのだが。

カレンも、俺の”付与”と、自身の努力によってかなり強くなった。



騎士団長と魔道師団長の二人を目を瞑って倒せるくらいだ。

ん?何故そんな戦いをしたのかって?面白いからだよ。

子供が目を瞑って国の最高峰を圧倒するとか、どんな娯楽だよとか考えた訳だよ。



結果として、カレンも二つ名を頂いた訳なのだが。

黒帝リュウ・シルバー

白銀の華カレン・シルバー



まさに、差恥心が削られるね。





「じゃ、行こうか?」



「ええ」



「”限界突破”」





身体を虹色の粒子が包み、輝きを放つ。

その状態でカレンを抱っこして、俺は跳躍した。

目指すは国の国境砦だ。



そこに、配属された兵士達が待っている。





太陽が照りつける中、俺とカレンは戦争のために、空を飛行していった。

この戦争で、何が起きるのかは、誰にも分からない。



しかし、密かに神の思惑が混ざっている事は、太陽だけが知っていた。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



~帝国帝都~





「どういうことだ!?何故魔獣達がはッ!?」



「隊長!?」





叫び声を上げた隊長と呼ばれる男は、その心臓を貫かれて息絶えた。

それを見て悲鳴を上げた兵士は、気付くことすら無く他界した。

皆、死んだ。



兵も、家族も、貴族も、親も。

残されたのは、帝都と、1人の男と――何者かによって始まった戦争のみ。



その光景を見て、不気味に笑みを浮かべる影はたった一つ。

それは、近付く決戦に向けるように強い瞳を以って、1つの方角へと眼を向けた。





「サテ、ダレガアヤツナノカ・・・・・・・・・・・・」

















その魂は、世界を拒み。

その魂を、世界は拒む。

何時しか、黒く染め上げられた魂は、やがて惹かれるように憑く。



最も拒み、最も拒まれた存在に。

それは、もしかしたら、運命という言葉で表せるのかもしれない。

全てを生み出す者と、全てを壊したい者。



両者が出会うのは、すぐそこ。

そして、出会うのであれば、別れもすぐであると、それは道理。



さあ、私を魅せてくださいね?









             THE 少年期編 完
しおりを挟む

処理中です...