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幼少期編

策士クルス?

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クルスさんがそう告げたあと、庭には静寂が訪れた。

俺も、体力と魔力の限界で眩暈がする。

どうやら、本気にしても限度があるようだ。



もっと、しっかりと修行しないと駄目なのだろう。

薄く笑みを浮かべて、俺はクルスさんを見上げた。

既に互いの剣は消え、俺の魔力も消えている。



晴天が照らす中、俺とクルスさんの荒い息だけが聞こえた。

やがて、先に治ったのはクルスさんだった。

その足の血を見て、俺は申し訳無い気持ちになる。



回復系の魔法を何一つ保有していないのが悔やまれる。

だが、回復系の魔力適正はかなり人数が少ないのだ。

街で聞いても、王都であるにも関わらず三人しかいないらしい。



しかも、その全員が城仕えの人なのだそうだ。

それでは、やはり会うのは無理だ、としか良い様が無い。

ただ、回復系の魔法を扱う本すらないのは想定外だった。



あれば、使うことが出来るはずなのだ。





「クルス、さん。・・・・・・・魔力、適正の、本って、あります、か?」





息切れしている俺がそう言うと、クルスさんは頷いた。

そして、先程の男性を見て頷くと、その男性は屋敷に入って行った。

それを見届けたクルスさんは、今度は俺に視線を向けた。





「まさか、五歳の子供に私が負けるとはな」



「クルスさんは、強すぎですよ」



「でも」



「でも」



「「良い相手でした(だった)」」





同じ言葉を言った俺とクルスさんは顔を見合わせ、笑みを浮かべた。

なんだか、少し照れくさい感じもするが大丈夫だろう。

ちなみに、無視されているカレンは不満そうな顔だがしょうがない。



こんな俺達を見て、周りの大人達は慌てながら移動を始めた。

中には、王城に向けて走って行く者もいる。





(大変そうだな~)





そんな大人達を見て、俺はそんな考えをしていた。

そこへ、男性が帰って来た。

その手には、分厚い本が握られており、なによりも魔力を感じる。



丁寧に渡された本を開くと、そこには魔力適正が大量に書き込まれている。





「それは、クルーティア家に代々伝わる魔力適正目録だ。世界中の魔力適正が自動で刻まれる」





そう言ったクルスさんは、本を懐かしそうに見つめた。

俺は、その中を一句一句慎重に見て回った。





  ◇◆◇◆◇◆◇





【複製により、”察知””炎散瞬華””重力”を取得しました】





【複製により、”回復””治癒””蘇生””復元””解毒”を取得しました。統合し、”再生”に変換します】





【複製により、”武器術”を取得しました。これに、”剣術”を統合します】





【複製により、”魔法”を取得しました。これに、全ての魔法系魔力適正を統合します】





【複製により、”限界突破”を取得しました。これに、全ての物理戦闘関連魔力適正を統合します】







  ◇◆◇◆◇◆◇





名前 リュウ・シルバー(佐藤 亮太)

LV 12



魔力適正 ”魔法” ”限界突破” ”付与” ”保管庫” ”複製” ”神力”



適正 複製 神力 氷抵抗 炎電 保管庫 絶空 取得 炎剣 強奪 反撃 

   弱毒 閃光 付与 対処 適応 焔炎



スキル 魔法技能 暗算 成長促進 武器術 成長補正 自然魔力 舞技 鑑定

    鑑定妨害 魔力適正 魔力剣



称号 女神の慈悲 女神の心 神々の黄昏 神の代行者 輪廻する邪神

______________________________________



日没のころになり、俺はようやく本を読み終わった。

全てを複製するには情報が足りなかったが、幾つか増やすことは出来た。

これだけでも、確かな進歩だろう。



満足した俺は、周囲を見渡したが、庭には誰もいなかった。

リリナがいないのは驚きだったが、とりあえず居場所は分かるので大丈夫だ。

俺の膝の上には、リリナからの置手紙があった。





__屋敷に泊まりますので、先に行ってます。





(は?)





えっと、まあ理解は出来るのだが、それでリリナは良いのだろうか。

恐らく、俺が本に没頭している間に何かあったのだろうが、それが分からない。

いきなり、兄離れする年齢では無いし、誘拐でも無い。



ならば、リリナは何に釣られて屋敷に泊まることにしたのだろうか。

首を傾げた俺だが、とりあえず屋敷に向かった。

大きな扉の前に立ち、ノックをすると、すぐに人が出て来た。



カレンだ。





「あ、リュウ来たのね!どうぞ」





そう言って扉を少しだけ開けてくれたので、俺は中に入った。

中は、豪華では表せ無い広さを誇る玄関?だった。

驚愕し、言葉を失っている俺を見て、カレンは嬉しそうに笑った。



それが可愛いのだが、人の家で頭を撫でるのは駄目だ。

我慢した俺は、カレンの後ろに続いて屋敷の中を歩いた。

クルスさんらしく、中に無駄な金属や飾りは無く、歴戦の剣や防具が飾ってあった。



恐らく、昔クルスさんが使った武器だろう。

その剣や鎧の質の良さに少し感嘆する俺だが、廊下の長さの方が驚きだった。

入り口からかなり進んだのに、未だに廊下はずっと先に続いている。



前に行くカレンを見ると、彼女も面倒そうな顔をしている。

それを見て苦笑いした俺は、カレンが止まったので、止まった。





「此処が食堂よ。入って」





そう告げて、カレンは扉を開けて中に入った。

俺も中に続くと、中にはクルスさんとリリナ、そしてカレンと俺の四人しかいなかった。

まあ、そちらの方が気楽だからクルスさんの配慮に感謝だ。



クルスさんは俺に気付くと、視線でリリナに合図をした。

俺には意味が分からないが、リリナは笑顔で俺の前まで来て_





「んっ!?」





__キスをした。



その突然の行動に驚く俺だが、顔を離したリリナも頬を赤く染めて俯いている。

俺は、先程までリリナの唇が触れていた場所を触り、そのまま固まった。

かなり、いや、物凄く恥ずかしい気分だ。



俺は、それを誤魔化すように椅子に座り、クルスさんを睨みつけた。

クルスさんは、そんな視線など気にせずに、ニヤニヤとしている。

ただ、俺は知っている。



クルスさんのような戦いが好きな人物は、かなり大胆なことでも行う人物だ、と。

今回のも、クルスさんが何かをたくらんでいるのだろう。

俺はそう決め付け、目前の料理を食べ始めた。



既に俺とカレンの分しか残っておらず、カレンも俺の隣で食べ始めた。

料理はどれも美味しく、流石に貴族というのが分かる。

食べ終わった時、隣を見るとカレンは俯いていた。



その雰囲気が、子供なのに物凄く色気を感じて、愛おしく思える。

と、クルスさんとリリナが部屋を出た。

最後の瞬間、クルスさんが俺を見て口角を吊り上げていたのを見た。





(これが狙いか!)





俺は、自身の願いとは反対にカレンの顔を見つめて止まない。

その唇が、瞳が、髪が、全てが色気を放っていて、正気を失いそうになる。

もちろん、俺は子供なのだから一線なんてものは存在しない。



しかし、このままなら俺はカレンの唇を奪ってしまいそうだ。

それほどに、今のカレンは愛おしくて色気を放っている。

ふと、カレンの瞳に俺が映った。





「リュウ・・・・・・・・・・!」





その色気の篭った声で呼ばれた俺は、その唇を奪った。

途端、カレンの唇から何かがあふれ出てきて、俺の喉を通った。

次の瞬間、俺の意識は沈んでいく。



最後に見たのは、真っ赤になるカレンの姿と、物凄く悪い笑みを浮かべたクルスさんだった。





(くそ!駄目なのに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・嬉しいと感じる・・・・・!!)
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