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英雄と親友と令嬢と

公爵家で決闘を(2)

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 意外なことに、少年は長らく攻撃を仕掛けてくる。

 その小柄な身体の何処にそんな体力があるのかは疑問だが、この長時間をほぼ的確に攻撃する手を止めないでいる事は驚愕だ。



 戦いが始まってから、30分は経過している。



 _では、こちらから攻撃するか。



 意識を攻撃に切り替えると、少年は警戒を強めたように一度後方に跳躍した。

 やはり、判断力も高いようだ。



「参る」



 _<疾駆>



 突如、俺の足には淡い紫の輝きが灯り、その速度を急激に速めた。

 少年との間合いは、僅か1秒で埋められたのだ。少年の顔が、驚愕に変わる様を見た。



 _それは、命取りだ。



 心の中でそう呟き、俺は決闘を終わらせるべく木剣を振り下ろした。



「フッ!」



 流れるように木剣の軌跡は少年の頭部へと直撃した。

 と同時に少年はそのまま支えが切れたように気絶し、その場に崩れ落ちた。

 最後の攻撃だけは少し威力を込めてしまったが、大体狙い通りの力加減で出来た。



「終了!!勝者、レイ!!」



 そんな声が庭に響き渡り、今回の決闘は終了したのだった。

 まあ、少年の強さを訂正出来たことは良かったが、決闘自体には不満しかない。



 _何故、”決闘”なのに気絶以上は無理なのだ?



 ある意味逆ギレにも近い見解なのは、流石にどうしようもないが。




 とりあえず、決闘の終わった俺とシュンは先ほどの男性の部屋に戻って来ていた。

 そこで、入り口から進んだ場所にある、向かい合ったソファに座り、男性と対面している。



「先ほどの決闘は、流石でした。ピクリスト王子は、何かと沸点の低い方ですので、揉め事も多かったのです。それでも、その実力から咎めることは出来ずにいました。王子にも、良い薬おなったでしょう。ありがとうございます」



「いや。俺もレイニーンの技を久しく見れたのだ。礼を言われる程ではない。それよりも、用件があって此処に来たのだ」



「用件、ですか?」



 そう尋ねてくる男性に、俺は頷いて肯定した。



「悪いが、隠蔽か偽装の可能な魔道具をくれないだろうか?勿論、相応の礼はしよう」



「それは、どの程度の質が宜しいのですか?」



 _質、か。能力、特に技能は完璧に近く隠したいから、10か?



「すまないが、どのlvまでがある?」



「それなら、8までが揃っています」



「分かった。では、それを4つ頼む。報酬は、何が良い?」



「それでしたら、1つ。頼みを聞いてくれないでしょうか?」



「頼み、とは?」



「娘が、今年から王立の学院に通うことになっているのです。そこで、レイ殿には娘の護衛を頼みたい」



「期間は?」



「出来れば、卒業まで」



「…………分かった。俺も、知識を得たい所だったのだ。それで頼む」



 半分事実で、半分嘘だ。

 確かに、知識を入手したいという考えもあるが、最悪、それはシュンに聞けば解決する。

 アイツの場合は、良く分からないが何か創って渡せば教えてくれるのだ。



 _まあ、聖剣の類を渡せば国滅ぼしすらしそうだよな。



 では、何故頷いたのかと言えば、勘としか言い様が無い。

 この提案を受ければ良いような、そんな気がしたのだ。退屈な生活などつまらない。

 少しは刺激のある生活を楽しみたいのだ。



「それは良かった。では、宜しく頼む」



 そう答えた男性の顔は、本当に安堵していたのが少し面白かった。



 ガチャ、という音とともに背後の扉が開き、シュンも入って来た。

 先ほどまでは、何処かに行っていたシュンだが、今は物凄い上機嫌だ。何があったのか聞きたいところだが、あの様子だとはぐらかされて終わりだろう。



「レイ~!良かったね!おめでとう!」



 明らかに意味不明な言葉を言ってきても、幻聴だと考えるのが正解だ。そう、幻聴、だ。

 例え、どんなに気になったとしても、そんな素振りを見せれば調子に乗るに決まっている。



「これで、将来は安泰だよ!」



「よしシュン。OHANASIしようか?」



 興味を見せては駄目、なはず、だ。





 ◆◇◆◇◆





 とりあえず、シュンは持ち前の逃げ足で逃げられた。

 能力は半減しているはずなのに、何故かまったく追いつけなかったのだ。謎である。



 _まあ、本人は”ストーリー補正”とかいうお陰だといっていたが、どういう意味だ?



 そんな疑問を解決する糸口など無く、そのまま俺は先ほどの部屋にいた。

 詳しい話を聞こうと思ったのだ。



「それで、何の質問ですか?」



「学園にいる時は、どんな口実で?正確には、俺はどんな体でいればいい?」



「教師です」



「………………は?」



「教師です」



「え、あ、いや、教師?俺が、雑魚に教えるのか?」



「雑魚という表現は抉ってきますが、まあそうです」



「嘘だろ?何故護衛で教師という職業が?」



「その年で生徒は無理ですし、個人の護衛は認められてないので」



 口調が壊れてきてる気もするが、気にしていられない。

 大事なことだ。俺が教師?



「教師ってアレだろ?授業っていう名目で生徒を1人ずつ潰していくっていう__」



「何処の教師だよ!?」



「実体験__」



「君の過去怖くない!?」



「違う、のか?」



「違う違うよ!!普通に、座学と戦闘術を教えるだけだよ!?」



「あ、なんだ。つまり”座学猛毒調合”と”戦闘術暗殺法”を教えると?」



「ルビが違うよ!!そうじゃなくて!歴史と魔法に対する見解、魔物との実戦経験を積ませるの!!」



「それの何処が学園?」



「君の居た学園は学園じゃないよね!?」



「いや、学園ですよ?<魔王立対勇者戦争学園>」



「物騒過ぎた!?ナニソレ!?っていうか、勇者側の君が魔王の学園行ったの!?」



「毎日が戦争だった」



「それが当然じゃないの!?」




 まあ、とりあえず、色々と常識を身につける必要を感じた。
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