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英雄と親友と令嬢と

破邪ノ英雄、移動する

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 淡い輝きを放つデュランダルは、その刀身を素早く閃かせた。



 _5階級単発技<閃光>



 一瞬の速度で攻撃された大剣の姿は、先ほどよりもボロボロになっていた。

 しかし、その状態でも負の意識は消えないようで、猛攻が開始された。

 硬直状態にあった俺は、最初の振り下ろしに直撃し、かなり下まで吹き飛ばされる。



 _まあ、この程度の威力だな。



 その攻撃が、予想通りの威力だった事に若干の落胆を覚えながら、すぐに上空に浮遊した。

 先ほどから、戦闘の余波が少なからず地上に向かっているはずなので、戦闘を長引かせるのは不味いだろう。



 そう判断した俺は、大剣の攻撃を防ぎながら唱えた。



「切り札の1つだ。『フラガラッハ』」



 その起句を告げた瞬間、右腕に握られるデュランダルとは別に、一振りの輝かしい剣が左腕に握られた。

 この剣は、デュランダルと同等かそれ以上の階級に位置する剣だ。



 2つの剣を交差するように構えた俺は、そのまま両方の剣に淡い”金の光”を灯した。



 _9階級秘儀技<ルフウィング>



 無数の羽が四方から切り裂くように、2刀の剣で縦横無尽に切り裂いていく。

 まるで、演舞でも見ているかのような光景に、離れた位置にいるシュンも魅了されている。

 第一として、シュンもレイの本気を見たことなど無いのだ。



 この力は知っているが、それでも見れば魅了されるのが当然である。 

 それ程までに、美しい光景であった。



「ハァッ!!!」



 短い声とともに、デュランダルが呼応するかのように輝いた。

 それと同時に、今までよりもさらに速い速度で腕が閃き、最後の一撃が大剣に直撃した。



 パリンッ!



 そんな、小気味の良い音が響いたと同時に、大剣は中腹から2つに折れた。

 幾度となく、同等の剣に打ちつけられたその部位は、かなり傷が付いていたのだ。

 剣が折れると同時に、輝きの失せた大剣は、地上に向けて落下を始める。



 それを見て、俺はその大剣を収納した。何時か、取り出す時は来るのだろうか。



「そういえば、今の剣は何て銘だったの?」



 俺の元に戻って来たシュンがそう聞いてくるので、俺は大剣をもう一度思い出した。



 _あの形状、あの切れ味、見た目、色合い、そうなると。



「多分、『デビル・クロス』という大剣なはずだ」



「ああ!あの、2対の悪魔によって鍛えられたっていう、あの?」



「恐らく、な」



 そう答えた俺は、眼下へと視線を向けた。

 戦っている最中から段々と高度は下がっており、今の状態では地上からも僅かに存在が視認できるだろう。



「そうだシュン。大事な話なのだが、俺達は”隠蔽、または偽装系”の技能は所持していないのだが。シュンは、地上ではどうしてたんだ?」



「僕の場合は、勇者として活動してたから、まったく縁が無いや」



「ああ、そうか。しかし、そうすると困ったな。誰か、信用出来てそういった類の物を扱っている人物に心当たりは無いか?」



「う~ん。あ、それなら此処アルン王国の公爵がそんな道具を持っていた気がするよ!」



「そうか。なら、とりあえずはその人物の元に向かうとしよう。何処にいるか分かるか?」



 そう問いかけると、若干の苦笑いとともにシュンは頷いた。



「じゃあ、転移でつれていけるけど、何処に転移する?」



「?公爵の前では駄目なのか?」



「……まあ、駄目じゃないね。確かに、レイのとりそうな行動だ。じゃあ、そうしようか。『転移』!」



 それと同時に、視界が一瞬白く染まり、世界が暗転した。





 ◆◇◆◇◆





 視界が回復した先は、何処かの部屋の中のようだ。

 無駄の無い装飾に、少しの紙の山が積まれている机。そして、視界の先には1人の少女と男性が向かい会っていた。



「ふむ。転移場所を間違えたのか?」



「いや、此処が公爵の部屋だよ。で、あの男性が公爵様。隣が娘さんだよ」



 今、俺とシュンの姿は2人には見えていない状態だ。何故なら、転移という魔法は”移動”の魔法だからだ。光と同じ速度で、その場所に向かってその人物の”記録”を送り込む。そして、その場所にその姿を形成するのだ。



 だんだんと光の粒子が集い始め、やがて俺とシュンの形を象り始めた。

 聴覚がまだ創られていないので不明だが、少女の方は酷く落ち込んだような、悲しそうな顔をしていた。

 しかし、俺達の姿が象られ始めると瞬時にその表情は消え、驚いたような、それでいて救いを見つけたような表情になった。



 _ふむ。この少女は、シュンの事を知っている人物か。



 この現象に対して警戒を一切見せない事から、シュンを”知っている”人物なのだろう。

 隣の椅子に座っていた男性も、少し驚いた顔をしていたが、希望を見出した表情をしている。



 _訳あり、か。まあ、俺には関係無いのだろう。



 そう完結した頃に、俺とシュンの姿は現れた。
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