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第13話 アイドルだった私、問題勃発
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「本日は若い二人のためにお集まりいただきありがとう。乾杯!」
父、マドラ・エイデル伯爵の音頭で宴が始まる。まずは個々に好き勝手親交を深めるらしい。私は婚約者候補たちと話をすべく、グラスを片手に向かう。
「ちょっと待てよ」
声を掛けられ振り向くと、そこにいたのはランス。
「あら、ランス様、いかがなさいました?」
余所行き顔で話しかけると、腕を掴まれ壁際に連れていかれる。
「どういうことだ? 歌手でもない、約束はすっぽかす、ノアって名も、偽名とは!」
声を潜め、ランス。私は仕方なく素に戻り、簡単に自己紹介をする。
「初めまして。あなたの弟、アルフレッドの元婚約者のリーシャと申します。婚約破棄を受けた直後、倒れて記憶を無くしました。その辺の事情はご存じ?」
「……ああ、なんとなく知ってる」
まったく! だったら声掛けるな!
「更衣室での出来事は、アイリーンが仕組んだ悪戯なので、気にしないでください」
「それはっ、まぁ、あれだが。……そうじゃなくてっ!」
「なんですかっ?」
「あの時はダイナーの歌手だって、」
そうよね…、この人、私のミニコンサート見ちゃったんだよね。
「その件はくれぐれもご内密に。あれはハプニングと私の趣味がうまくマッチしただけですので」
「趣味?」
「ここでは歌ったり踊ったりはしませんから。あ、ダンスはこの後するけど」
チラ、とホールに目を遣る。男性陣がこちらを気にしているのが分かる。そりゃそうか、見合いの相手が、候補外の男と話してたら気になるよね。
「私お見合いの最中なので、失礼しますね」
踵を返す私の腕を、ランスが掴む。
「なにっ?」
思わず睨みつけてしまう。と、ランスが変な顔をして私を見つめてきた。変な顔、というのはつまり…、
「ノア、見合いなんかやめろよ」
ああ、嫌な予感。
「そういうわけには、」
「俺がもらってやる」
うわぁ……、やっぱりこの展開か。
「何を仰っているのやら? 弟のお下がりに手を出すなんて、あなたのご家族が、」
「いいや、俺が決めた」
「……あのねぇっ」
どこまでも貴族っぽい言いっぷりに辟易する。もらってやるとか、俺が決めたとか、そこに私はいないじゃないのっ。
「不服なのかっ?」
「もうっ、急にそんなこと言われたってっ、」
「お姉様?」
揉めている私たちの後ろから、声を掛けてきたのはアイリーンとアルフレッド。
「どうかなさいまして?」
ワクワクした顔で聞いてくるなっ。
「いいえ、なんでも!」
私はプリプリしながら答えた。
「お姉様、そろそろダンスを披露してくださらないかしら? 楽しみにしていたの」
ニヤニヤ笑いが気持ち悪い。絶対何かする気だ。わかりやすすぎる。
「そうね、そうしましょうか」
だとしても構わない。正々堂々受け止めてあげるわ!
アイリーンが音楽隊にすっと手を上げ合図を送る。と、曲が変わり、婚約者候補たちがフロア中央に並ぶ。参加者たちの注目が一気に集まった。
「見せ場ですわね。行ってらっしゃいませ」
そう言われた私は背筋をピッと伸ばすと、フロア中央へと向かう。
その時だった。
ビリリリリッ
「え?」
引っ張られる感じと共に背後から聞こえた嫌な音。
アイリーン、もしかして私のドレスの裾、踏んだ!?
「嫌だわお姉様ったら!」
ひときわ大きな声で、アイリーンが状況説明を始めた。
「まさかご自分でご自分のドレスの裾を踏みつけてドレスを破いてしまうだなんてっ!」
「……はぁ?」
「それではダンスを披露することなど出来ないじゃありませんかっ。それとも、初めからダンスをする気などなかったのですかっ?」
会場がざわつき始める。
「ちょ、あなたが踏んだんでしょうっ?」
私の言葉を聞いたアイリーン、キラリと目を光らせる。獲物を狙う肉食獣のよう。
そして次の瞬間、
「酷いっ! お姉様はダンスが踊れないことを隠すために、ご自分でドレスを台無しにしておきながら私のせいにするのですねっ?」
派手に泣き崩れたのだ。
……してやられた。
会場の雰囲気はもはや「私が悪者」の空気だ。幼いアイリーンを疑うものなどいないだろう。
会場の片隅でマルタが心配そうに私を見ているのがわかる。
妹の仕掛けた罠に、私はまんまと嵌ってしまったのだ――。
でぇ~すぅ~がっ、残念でしたぁ~!
ビリリリッ ビッ
フロアのざわつきが、増す。そうよね、私、ドレスを引き破ったもん。よく見たら切れやすいように継ぎ目のところの縫製が甘くなってた。おかげで綺麗に破けたけど。
ミモレ丈になったドレス。これはこれで可愛いじゃない?
私、引きちぎったドレスの端を投げ捨ててフロアの真中へ。ビックリして演奏をやめてしまった音楽隊に合図を送り、演奏を再開させる。相変わらずオーディエンスはざわついていたけど、そんなの関係ねぇ!
パッと婚約者候補たちに目を遣る。
さ、ここからが勝負よ!
……が、
「は?」
婚約者候補が全員、俯《うつむ》きやがった!!
誰一人、私と目を合わせようとしないってどういうことっ?
ちょっとぉ、あんたたちっ、なにビビっちゃってるのよぉ!
音楽は続いている。
このままだと、ダンスが始まらない!
父、マドラ・エイデル伯爵の音頭で宴が始まる。まずは個々に好き勝手親交を深めるらしい。私は婚約者候補たちと話をすべく、グラスを片手に向かう。
「ちょっと待てよ」
声を掛けられ振り向くと、そこにいたのはランス。
「あら、ランス様、いかがなさいました?」
余所行き顔で話しかけると、腕を掴まれ壁際に連れていかれる。
「どういうことだ? 歌手でもない、約束はすっぽかす、ノアって名も、偽名とは!」
声を潜め、ランス。私は仕方なく素に戻り、簡単に自己紹介をする。
「初めまして。あなたの弟、アルフレッドの元婚約者のリーシャと申します。婚約破棄を受けた直後、倒れて記憶を無くしました。その辺の事情はご存じ?」
「……ああ、なんとなく知ってる」
まったく! だったら声掛けるな!
「更衣室での出来事は、アイリーンが仕組んだ悪戯なので、気にしないでください」
「それはっ、まぁ、あれだが。……そうじゃなくてっ!」
「なんですかっ?」
「あの時はダイナーの歌手だって、」
そうよね…、この人、私のミニコンサート見ちゃったんだよね。
「その件はくれぐれもご内密に。あれはハプニングと私の趣味がうまくマッチしただけですので」
「趣味?」
「ここでは歌ったり踊ったりはしませんから。あ、ダンスはこの後するけど」
チラ、とホールに目を遣る。男性陣がこちらを気にしているのが分かる。そりゃそうか、見合いの相手が、候補外の男と話してたら気になるよね。
「私お見合いの最中なので、失礼しますね」
踵を返す私の腕を、ランスが掴む。
「なにっ?」
思わず睨みつけてしまう。と、ランスが変な顔をして私を見つめてきた。変な顔、というのはつまり…、
「ノア、見合いなんかやめろよ」
ああ、嫌な予感。
「そういうわけには、」
「俺がもらってやる」
うわぁ……、やっぱりこの展開か。
「何を仰っているのやら? 弟のお下がりに手を出すなんて、あなたのご家族が、」
「いいや、俺が決めた」
「……あのねぇっ」
どこまでも貴族っぽい言いっぷりに辟易する。もらってやるとか、俺が決めたとか、そこに私はいないじゃないのっ。
「不服なのかっ?」
「もうっ、急にそんなこと言われたってっ、」
「お姉様?」
揉めている私たちの後ろから、声を掛けてきたのはアイリーンとアルフレッド。
「どうかなさいまして?」
ワクワクした顔で聞いてくるなっ。
「いいえ、なんでも!」
私はプリプリしながら答えた。
「お姉様、そろそろダンスを披露してくださらないかしら? 楽しみにしていたの」
ニヤニヤ笑いが気持ち悪い。絶対何かする気だ。わかりやすすぎる。
「そうね、そうしましょうか」
だとしても構わない。正々堂々受け止めてあげるわ!
アイリーンが音楽隊にすっと手を上げ合図を送る。と、曲が変わり、婚約者候補たちがフロア中央に並ぶ。参加者たちの注目が一気に集まった。
「見せ場ですわね。行ってらっしゃいませ」
そう言われた私は背筋をピッと伸ばすと、フロア中央へと向かう。
その時だった。
ビリリリリッ
「え?」
引っ張られる感じと共に背後から聞こえた嫌な音。
アイリーン、もしかして私のドレスの裾、踏んだ!?
「嫌だわお姉様ったら!」
ひときわ大きな声で、アイリーンが状況説明を始めた。
「まさかご自分でご自分のドレスの裾を踏みつけてドレスを破いてしまうだなんてっ!」
「……はぁ?」
「それではダンスを披露することなど出来ないじゃありませんかっ。それとも、初めからダンスをする気などなかったのですかっ?」
会場がざわつき始める。
「ちょ、あなたが踏んだんでしょうっ?」
私の言葉を聞いたアイリーン、キラリと目を光らせる。獲物を狙う肉食獣のよう。
そして次の瞬間、
「酷いっ! お姉様はダンスが踊れないことを隠すために、ご自分でドレスを台無しにしておきながら私のせいにするのですねっ?」
派手に泣き崩れたのだ。
……してやられた。
会場の雰囲気はもはや「私が悪者」の空気だ。幼いアイリーンを疑うものなどいないだろう。
会場の片隅でマルタが心配そうに私を見ているのがわかる。
妹の仕掛けた罠に、私はまんまと嵌ってしまったのだ――。
でぇ~すぅ~がっ、残念でしたぁ~!
ビリリリッ ビッ
フロアのざわつきが、増す。そうよね、私、ドレスを引き破ったもん。よく見たら切れやすいように継ぎ目のところの縫製が甘くなってた。おかげで綺麗に破けたけど。
ミモレ丈になったドレス。これはこれで可愛いじゃない?
私、引きちぎったドレスの端を投げ捨ててフロアの真中へ。ビックリして演奏をやめてしまった音楽隊に合図を送り、演奏を再開させる。相変わらずオーディエンスはざわついていたけど、そんなの関係ねぇ!
パッと婚約者候補たちに目を遣る。
さ、ここからが勝負よ!
……が、
「は?」
婚約者候補が全員、俯《うつむ》きやがった!!
誰一人、私と目を合わせようとしないってどういうことっ?
ちょっとぉ、あんたたちっ、なにビビっちゃってるのよぉ!
音楽は続いている。
このままだと、ダンスが始まらない!
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