吟遊詩人は好敵手

にわ冬莉

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第8話

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「今のってっ」
 ユーフィが手にした杖を無意識に掲げる。

「来るぞ」
 シュリが強く、言い放つ。全員が身構えた。

「ユーフィ、リリーナ、全員を護るようにシールドを張れ! アシルはドラゴン相手に使えそうな魔獣を準備! ブライ、アルジムはドラゴンの一発目をやり過ごした後で一気に斬りかかってくれ! ライモンは二人の援護だ! いいなっ?」
 次々に指示を出す。

「シュリさん、俺はっ?」
 名を呼ばれてないトビーが手を挙げる。
「トビーはちょっと待ってくれ。お前には特別任務がありそうなんだ」
 ニヤリ、と笑う。
 と、次の瞬間、

「今だ、シールド!」
 シュリが命じるとリリーナとユーフィが杖を掲げ『シールド!』と叫ぶ。更にシュリが『アフクセィシ』と小さく呟いた。同時に火球が飛んでくる。

 ドゥンッ!

 とシールドに当たり、弾け飛ぶ。
「防いだ!」
 ユーフィが笑顔を見せる。

「シールド解除! アシル頼む! ブライ、アルジム、行け!」
 シュリが号令をかけると同時に、ブライとアルジムが駆け出す。
「ファングサーバル、イデア! ゴールドゴーゴン、エナ!」
 アシルが手にした宝玉から、牙の長い大柄な魔獣と翼の生えた金色の蛇のような獣が現れる。

「うっそ、ゴールドゴーゴン!?」
 ユーフィが叫ぶ。
「さすが伝説とまで言われたテイマー。恐れ入るね」
 シュリが顔を引き攣らせる。一生に一度、出会えるかわからないような大物だ。それをテイムして意のままに操ろうというのだからすごい。

「エクセリクシィ」
 シュリが呟くと、二体の魔獣が光を放つ。
「……おい、今のって、」
 アシルが驚いてシュリを見た。、だ。
「オッサン、好きなだけ暴れさせろ!」
「……わかった」
 アシルがニッと笑い、命を出す。

「イデア、首を狙え! エナは皆の援護をしつつ足止めを!」
 アシルの言葉を受け二体がドラゴンへと向かう。速い!

「ライモン、ブライとアルジムに加護を!」
「は、はいっ」
 ライモンが目を閉じ、暗唱を始めた。
「神の名のもとに、ブライ・チェスとアルジム・テヴィに加護を授けたまえ」
「ディナミ」
 重ねるようにシュリが呟く。

「うおおおおお! なんじゃこりゃぁぁ」
「力がっ、湧いてきたぁぁ!」
 振り下ろされるメイスと長剣がドラゴンに容赦なく傷をつける。

 グァァァァッ

 しかしドラゴンとて大人しくやられているばかりではないのだ。すぐに体を大きく動かし、二人と二体を蹴散らそうと暴れ始める。

「ユーフィ、リリーナ、ドラゴンの動きを止めたい。足元を凍らせてくれないか」
「わかった」
「やってみます!」
 二人が力を合わせ、杖を掲げた。
「フリーズ!」
「フリーズ!」
「アフクセィシ」
 三人の声が重なる。ドラゴンの足元がみるみる凍りはじめ、その動きが封じられる。が、それは一瞬のこと。すぐに氷は溶かされてしまった。

「チッ、ダメか」
 舌打ちをするシュリを前に、アシルが宝玉を取り出す。
「どれだけ持つかはわからんが……。出《い》でよレッドエント、サラン!」
 呼び出したのは森の王者との異名を持つレッドエント。これもまた、一生に一度出会えるかどうかの大物である。それに……、
「ナイスだな、アシル! こいつなら熱耐性アリだ!」

「サラン、ドラゴンの足を押さえろ!」
「エクセリクシィ」
 巨大な樹のお化けのようなその体から、幾本もの蔓が伸びドラゴンの足に絡みつく。ドラゴンは暴れて熱を出すも、レッドエントが燃えることはない。
「ドラゴンの熱に耐えている……?」
 アシルがひとりごちる。いかに森の王者と評されようとも、相手はレッドドラゴンだ。正直、対抗できるとは思っていなかった。
(これが吟遊詩人の力だってのか?)
 にわかには信じがたかった。

「次が来るぞっ。ユーフィ、リリーナ、シールドを!」
「はい!」
「オッケー!」
 二人が杖を掲げ叫ぶと同時にシュリも呟く。ドラゴンが当てずっぽうに火球を吐く。半ば自棄を起こしているようだ。

「うわっ」
 アルジムが爆風で飛んだ。
「アルジム!」
 ブライがアルジムに気を取られ、一瞬ドラゴンから視線を外す、と、

 ヒュンッ

 ドラゴンの尾がブライを捕らえる。
 当たる! と誰もが思ったその瞬間、ブライの体が宙に浮く。ゴールドゴーゴンがブライを咥え、飛んだのだ。そのままアルジムの元へ降ろす。ブライはすぐにアルジムの状態を確認し、シュリに向かって
「アルジムは離脱!」
 と告げる。シュリは小さく頷くと、
「一気に決めるぞ」
 とトビーを見た。

「えっと、俺……? は、はいっ!」
 ただ見ているだけだった自分の名を呼ばれ、一気に緊張が走る。そんなトビーを見て、シュリは小さく『大丈夫だ』と背中を叩いた。
 覚悟を決める。

「いいか、トビー。あのドラゴンは自らの意思で動いてはいない」
「え?」
「は?」
「なんだとっ?」
 その場にいる全員が声を上げる。
「断言する。ほら、あいつの腕に小さな輪っかが嵌ってるの、見えるか?」
 シュリに言われ、全員が目を凝らす。確かに、言われてみれば何かがあるように見える。
「ドラゴンを操ってるあれを、壊すんだ」
「壊すって……」

 ドラゴンは大きい。人の背の五倍近くあるのだ。普通に手を伸ばしたとて、腕までは届かない。

「お前の身体能力はここにいるメンバー随一だし、おまけに身軽だ。俺がスキルアップするから、ドラゴンの動きをよく見て、隙を突いて腕輪を壊せ」
「……はい」
 ゴクリ、と唾を飲み込む。
「それと、アシル!」
「な、なんだ」
「腕輪が壊れたらあいつをテイムしろ」
「はぁぁ?」
 相手はドラゴンだ。そこら辺の魔獣とはわけが違う。
「オッサンなら問題ない。だろ?」
 パチリと片目を瞑る。
「……簡単に言いやがって」
 アシルが苦々しい顔で笑った。

「ユーフィとリリーナは火球に備えてシールドを! ライモンはブライとアルジムを救出だ! いいな?」
「くそっ、相変わらず上から目線で命令ばっかだな。ムカつくったらないぜ」
 ブライが遠くでぼやく。
 しかし、いいも悪いもない。今はやるしかないのだから。

「トビー、行け!」
「はい!」

 シュリに言われ、トビーが駆け出した。
 
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