吟遊詩人は好敵手

にわ冬莉

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第5話

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「いよいよ明日、討伐開始だ」

 シュリがグラスを片手に言った。
 いつも引き上げと同時に姿を消してしまうアシルも、今日は揃っての食事に応じていた。

「討伐は、早いもん勝ちだ。だが今回挑むドラゴンがそう簡単な相手ではないってことだけは知っててくれ。なにしろ国を代表する精鋭部隊が蹴散らされたんだからな」
「えっ?」
「そうなんですか?」
 トビーとリリーナが驚きの声を上げる。

「初めは城の近衛師団を出した。ドラゴンに接触は出来たが、討伐には至らず。それで民間に依頼した。ここはかなり強い連中の集まりで、間違いないだろうとの見立てだったんだが……残念ながら逃がしてしまった」
 チラ、とアシルを見るも、無反応だった。

「元々、ドラゴンはカナディア大陸中央にあるネロム山脈、ドラゴンの谷に生息している。わざわざそこから出て来るなんてこと自体珍しいんだ。迷子なのかなんなのか、ともかくアルゴンの外れ近くまで接近してきているわけだ」
 テーブルに並べられた皿を並べ、簡単に地図のようなものを作って説明する。大陸西側のアルゴン王国。ネロム山脈からいくつかの山の連なりを経てアルゴン王国まで……。本来なら獣や魔獣との壁の役目を担っているはずの小さな山々が、防波堤ではなくなってしまったのだ。

 軍事国家でもないこの穏やかな国が危険に晒されているとあって、国王も対策を練ったのだろう。他に道がないのもわかるが、この懸賞金ありでのドラゴン討伐はハッキリ言って安易で無意味だ。ごろつき連中を纏めて送り出したとしても、まずドラゴンとまともにやり合える人間がどれだけいるのか……。

「さっきも言ったが、討伐はかなり大変だ。というか、無理に近いと思ってる」
 シュリが言うと、その言葉にトビーとリリーナが噛み付く。
「無理って……、」
「やってみなけりゃわからないじゃないですかっ!」
「まぁ、そういうやつらがたんまり参加するわけだが。まずドラゴンに辿り着く前に、森に棲んでる獣たちを相手しなきゃならん。精鋭部隊は魔方陣でドラゴンまでピンポイントだったらしいが、俺たちは自力だ。ネロム山脈の方から来てるとするなら、魔獣も相当混じってるだろう。それに加えてドラゴンの力が圧倒的だ。噂では、普通のドラゴンとは桁違いだと聞く」

 なにかが、おかしい……と。

「なんで私たちは魔法陣で直接じゃないの?」
「それはな、リリーナ。ドラゴンの出現に触発された魔獣そのものが危険度を増している状態にある今、道中にいる魔獣を全部まとめてやっちまおうって腹だ。上の考えることはいつだって合理的で理不尽なのさ」
 シュリの言葉に双子が顔をしかめる。

「で、作戦だが」
 ズイ、と顔を前に出し、シュリ。トビーとリリーナがそれに倣うと、アシルも面倒臭そうに顔を近付けた。全員の顔を順に見つめながら、シュリが口にした作戦は、至って簡単かつ明瞭だ。

「俺たちは後から行く」
「へ?」
「え?」
「……」
 トビーとリリーナがシュリを見つめ、アシルは沈黙した。

*****
 
 今にも雨が降り出しそうな嫌な天気だった。

 広場にはゴテゴテとした甲冑に身を包んだ者や、振り回すのが大変そうな大きな武器を持った者などが、我こそはと集結し始める。隣国から駆け付けた猛者はワーワーと自分の武勇伝を語り、周りを白けさせていた。

「おいおい、マジで来たのかよ」
 シュリたちの元に来て悪態をついているのはメイスを手にした男……ブライとそのメンバー。ついこの前までシュリがいたパーティーだった。
「よぉ、ブライ。武器だけは立派だな」
 シュリが返すと、ブライがムッとした顔で
「お前、口の利き方には気を付けろよ」
 と言い放つ。

「よぉ、ユーフィちゃん、今日も可愛いな。まるでダークスネイクみたいだぜ」
 褒めてるのか貶してるのかわからない言葉でそう言うと、杖を手にした赤毛の女性が眉をしかめた。
「吟遊詩人の癖に相変わらず言葉の使い方知らないのね、シュリ」
「構うな、ユーフィ」
 ブライが口を挟む。

「で、この若いのが俺の代わりか? 見たところ僧侶っぽいな」
 シュリが傍らに立つ青年を見て言った。
「ああ、ライモンはお前の何倍も役に立つ男だよ。下手な口説き文句で女の尻を追いかけ回すような奴よりは百倍いいぜ」
 ブライがそう言ってライモンの肩に手を置いた。ライモンは緊張した面持ちでシュリを睨みつけた。
「あなたが……シュリさんですか」

「ライモンっていったか、無理すんなよ。ダメだと思った時は迷わず逃げろ。ブライの言うことまともに聞いてたら怪我するぞ」
「なにっ?」
 ブライが拳を握る。
 一触即発の二人を前に、トビーとリリーナはハラハラしていた。アシルは我関せずである。割って入ったのは細身の剣を腰に下げた長身の男性。

「二人ともいい加減にしろ。もうすぐ時間だぞ」
「おお~、アルジムも久しぶりだな。元気そうだ」
 シュリが言うと、アルジムはシュリには目もくれず
「行くぞ、ブライ」
 と言って背を向けた。
「フッ、お前とはもう話もしたくないってよ、シュリ! まぁ、せいぜい頑張って生き残れよ。付け焼刃の面子でどこまで出来るか知らねぇがな!」
 ははは、と笑い声をあげ、去って行く。

「……ムカつく」
 最初に言葉を発したのはリリーナだ。毒舌モードらしい。

「なんなのあの人たち! ほんと失礼!」
「でも、付け焼刃なのは間違いないよ、リリーナ」
 肩を落とし、トビー。
「なに言ってるの! 今からそんなことでどうするのよ! 私たちはドラゴン退治に行くのよ? 気持ちを強く持ちなさいよ!」
 腰に手を当て、トビーを叱咤する。
「はは、リリーナは強いな」
 シュリが言うと、リリーナはキッとシュリを睨み付ける。

「一体何があったの? なんであの人たち、あんなに意地悪なのですかっ?」
「……あ~、まぁ、俺のことが嫌いなんだろうよ」
 誤魔化すように頭を掻く。

「そんなことより、いよいよだぞ。いいか、無理はするな。ヤバい相手が来たときは、アシルが前に出てくれるからな」
「はっ?」
 急に名指しされ、アシルが声を上げる。
「なんで俺がっ」
「俺たちと森でひと汗かいた後、ダンジョン行って力試ししてたんだろ?」
 ふふん、とシュリが鼻を掻く。

「おまっ、知ってたのかっ」
 焦るアシルと、そんなアシルを見て驚く双子たち。
「そうだったんですかっ?」
「アシルさん……」
「ばっ、別にお前らのためじゃねぇ! 俺は役に立たない自分の力を高めるために、だなぁっ、」
 顔を赤らめるアシルに、リリーナが詰め寄る。きゅ、とアシルの手を握り、
「ありがとう」
 と、目を潤ませた。

「いや、その、やめてくれっ」
 照れまくるアシルを横目に、シュリが爆笑する。
「くっ、あはは! 伝説と言われた男がこんな若い子相手に真っ赤になってるとか、ないだろ!」
「笑うな!」

 そうこうしている間に、討伐開始の笛が鳴る――。
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