ダルマパンツの王子様

藤島紫

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ダルマパンツの王子様

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木陰モザイクを泳いであの人のもとへ。
土産物屋の軒先に並ぶ、片目のダルマを尻目に、私はただまっすぐに進む。
目的地は参道の半ばにある一軒の蕎麦屋。
そこに通い詰めて今日で一週間と一日。
WEBの口コミは星四つの人気の店で、週末はもちろん、平日も込み合っている。
ランチタイム終了間近の15分がねらい目だ。

友達フォルダに更新がないまま、大学生になって最初の夏休みを迎えた。
引っ込み思案でも、人づきあいが嫌いなわけでもない。
ただ、大学にうまくなじめず、気づいたら一人だった。
名前を呼びあうほど親しい人はいないから、同じ学科で顔と名前が合致する人はいない。

王子を除いて。

王子の名は、藍田陸翔。
私は、藍田君を王子と呼んでいる。
王子と呼ぶ理由は単純だ。
壇上の彼が王子様みたいだったから。
大学の入学式、藍田君は新入生代表だった。
真っ黒で重めの前髪の影に見え隠れする彼の目元は、ほのかに赤かった。
意外と可愛い人かも、と思った。

けれどそれだけ。

事実、彼に声をかけたことはない。
アルバイトの帰りに寄った蕎麦屋で三角巾をつけている彼を見かけた時。
私のアルバイト先に彼が来た時。
私と彼は、常にどちらかが客でどちらかが店員だった。
私は温泉でアルバイトをしている。
アルバイト先から王子のいる蕎麦屋まで、徒歩八分。急げば七分。
距離が近いから、私が彼のいる蕎麦屋に行くのも、彼が私のいる温泉に来るのも不思議ではない。
客として彼を迎えたとき、驚かなかったといえばうそになる。
一方的とはいえ、知人だ。
温泉で異性の知人に遭遇しても動じずにいられる性格なら、とっくに友達百人できている。
当然、私が客の立場でも同じだ。
事実、人気の蕎麦屋で王子が働いていることを知ったとき、私は残念に思った。
知人が働く店に客として足を運ぶのは少し緊張するからだ。
だから、二度目はないと思った。
そう、リピートはありえないはずだった。

あれさえ、拾わなければ。
王子の「あれ」。

王子が温泉に来た日。
私はあれを拾った。

王子の、あれ。
王子のパンツ。

温泉という場所柄、下着の落とし物は珍しくない。
しかし、黒地に赤いダルマ柄の派手なパンツは滅多にない。
新入生代表をつとめた王子とダルマパンツ。
全く結びつかない。
中高と女ばかりの環境で育ち、父親以外の異性は遠い存在だった。
当然のことながら男性のパンツには全く縁がない。
会計を終えた客のポケットから布が落ちたらハンカチだと思うのが自然ではなかろうか。
パンツかもしれないと警戒するのは一般的ではないと思う。
あの時、全く警戒せずカウンターを回り込み、無造作にその布を拾って持ち上げた。
ダルマの金魚のような目に睨まれ、その布が正方形ではないと気づいた。
逆さ富士の形のハンカチなど、聞いたこともない。
いや、たとえ女子校育ちでもそれがハンカチではないとすぐに気づく。

女性用のそれより布は多いが、間違いなくパンツだ。

男性用の。

プリントのダルマから「なぜ拾ったのだ、変態か?」と言われたような気がした。
ダルマの目は黒いのに、白眼視されている気さえした。
よく見ると黒い目玉の中にはやはり黒のマジックで「阿」と重ねてあった。
印刷とは異なる油の光り方でわかった。
参道の先にあるお寺では、ダルマは目に「阿」の文字を入れるらしい。
阿吽の呼吸の、阿。
仕事を教えてくれるベテランのおばあさんが教えてくれた。
温泉の受付の隅にも、ダルマが飾ってあり、確かに「阿」と書いてあった。
ダルマ市でお坊さんに書いてもらったそうだ。ベテランのおばあさんは、どれだけ長い時間並んだのかを話してくれたが、あまり覚えていない。

その時の私の頭は、パンツをもって行列に並ぶ王子の姿でいっぱいだった。
しかしすぐに、お坊さんがパンツのダルマに「阿」を書いてくれるはずはないと思いいたった。
考えるまでもない。王子が自分で書いたのだろう。
なにか願掛けでもしているのか。
だとしても何故パンツなのか。
王子とて人間なのだから、うっかりパンツを落とすこともあろう。
しかし清らかな湧水のしぶきを浴びたようなイケメン王子と、黒地に赤いダルマのパンツが結びつかない。
仮にダルマ柄が好きだとしても、競泳選手のようなぴったりとした形のパンツと、新入生代表挨拶でほのかに目元を赤くした彼とが一致しない。
落し物がダルマ柄のパンツと気づいた直後の私の混乱は、それはひどかった。
今通り過ぎたのは本当に王子だったのか。
別の人ではなかったか。
顔を知る同学科の人が王子だけだから、幻を見たのかもしれない。

いいやその前に、このパンツが使用済みか否かを確認する必要があるのではないか。
もし、すでに身に付けた後、脱いだものであれば洗濯をしたほうがよかろう。
そのままでは不衛生だ。

とはいえ、どうやって使用済みか否かを確認すればいいのか。

その時、自分の胸元から硫黄のにおいが立ち上った。
アルバイト先を温泉にしたのは、仕事の後に湯をもらえるからだ。
この日も私は一風呂浴びた後だった。
入浴中もひたすら王子のパンツが頭から離れなかったから、ショックの大きさがよくわかるというもの。
後から思えば、これもよくなかった。
湯上りでぼんやりした頭が出した答えは、正気ではなかった。

パンツのにおいをかごう。

そう結論に至ったからだ。
一人暮らしの私を止める者はない。
私はダルマパンツを両手で広げ、目の高さに持ち上げた。
ダルマと目が合う。
洗濯をするか否か。
それこそが今の私に求められる選択と心から信じた。
そっと鼻をダルマに近づける。
ダルマ柄はプリントのせいか、鼻先に当たったときにつるりとして冷たかった。
静かに息を吸う。
埃っぽさと、樹木の土臭さ、それに加えてペンキのような化合物のにおい。
人の肌に触れた下着であれば、多少なりとも汗のにおいがするはず。
このパンツにそれはない。

(あ、新品だ)

パンツから鼻をゆっくりはなした私は、不思議な気持ちになった。
この時初めて、自分の心臓が全力疾走したときのように脈打っていたことを知った。
王子はこのパンツをはいていない。
洗濯せずに返却しても問題はない。
ほんの少し、洗濯してみたい気持ちもあったが、新品は新品のまま返すのがよかろう。
私はパンツを丁寧にたたんで可愛い花柄のビニール袋に入れた。

思えば、ひどく混乱していた。
大学で友達がいないのは幸いだったかもしれない。
もし、この時、友達がいたら、おおよそ正気とは思えない話を脈絡なく語る、精神の危うい女のレッテルを貼られたに違いない。
そうなれば、この先、四年間、腫物のように扱われ、友達はおろか、挨拶をする程度の知り合いすら絶望的だろう。
今の私は「影の薄い人」だが、「危険人物」ではない。
しかし、男性に免疫がないのは、痛手だった。
パンツを拾ったショックから立ち直るまで時間がかかったからだ。
蕎麦つゆに入れるわさびほどでも理性が残っていたら、返す機会を失わずに済んだのに。
落とし物コーナーの存在を思い出したのは、翌日のこと。
ワンルームに差し込む朝日に照らされた、花柄のビニールに入ったダルマパンツを見た時だ。
私は何ということをしたのか。
そもそも、拾ったパンツは温泉の「落し物コーナー」においてくればよかったのだ。
にもかかわらず、私は持ち帰った。
持ち帰った以上は、最後まで責任を持たねばならない。

それで思い至ったのが、王子のアルバイト先に伺うことだった。
ランチタイムが終わる直後は比較的すいている――これもベテランのおばあさんから教えてもらったことだ。
人気の蕎麦屋でも、平日のランチタイム終了間際はガラガラだという。
この情報は非常に有益に思えた。
私はダルマパンツ返却計画を立てた。
計画といっても他愛のない内容だ。
客が少ない時間に王子のアルバイト先を訪れ、注文の際にさりげなく返す、それだけだ。
単純だが、私が彼のパンツを拾ったことも、彼が私からパンツを受け取ることも誰にも気づかれずに済む。
最良の方法に違いない。
そう思ったのに、注文を取りに来たのが別の人だったり、王子がシフトに入っていなかったりと、なかなかうまくいかなかった。

そんな毎日が続き、今日は七日と一日。
七転び八起き。
八日目。

ダルマだけに、今日こそは成功するに違いない。
いや、成功させねばならない。
私は膝の上のバッグを強く握った。
失敗続きの七日間で、私はこの計画にはリミットがあることを知った。
経済的な限界だ。
この蕎麦屋、高い。
一番安い盛り蕎麦でもファストフードのセットメニューより高い。
一人暮らしの女子大学生が毎日食せるほど、敷居の低いランチではなかった。
だから今日こそ。
何としても、今日こそはパンツを返さねばならない。
勇気が湧くように、店内に充満する蕎麦の香りを体に取りこもうと息を吸い込んだ時だった。

「お待たせしました、盛り蕎麦です」

聞き覚えのあるのいい声がした。
つゆを纏った蕎麦が心地よく喉を滑るように耳殻を撫で鼓膜を震わせるそれ。
顔を上げると、王子がいた。
蕎麦の匂いをかごうと待機していた鼻孔は、王子の香りで満たされた。
青梅に似た、爽やかな空気に肺が満たされた気がする。
さすがは王子、下々のものとは匂いが違う。
いや、違うのはそこではない。
私の思考を切り替えなければ。
これ以上パンツを手元に置き続ける太い神経は持ち合わせていない。
ひもかわうどんならともかく、私の神経は口の中ですぐに切れる十割蕎麦より細く繊細だ。
うどんも美味しいけれど、七日間の挫折で私の神経はすっかり十割蕎麦クオリティーになっていた。

「ごゆっくり」

しかし私に背を向け厨房に戻ろうとする王子に何といえばいいのだ。
バッグ越しにダルマパンツを握りしめ、王子の背を見つめるも、声が出ない。
七日挫折して今日は八日目。
私の手にあるのは、無地のパンツではない。
ダルマだ。
ダルマが手の中にいる。
ダルマだってきっと、持ち主の元に帰りたがっているはずだ。

「すみません!」

 気づくと私は声を張り上げていた。

「何か?」

その場で足を止めた王子が、テーブル一つ分の先から私を見る。
こっそり渡すには遠い。この距離感で話すのは憚られ、うつむく私に王子の影が差した。

「この前もいらしてましたよね」

気を遣わせてしまった。
王子が私の横まで来てくれた。
ひょっとしたら、王子は私に常連客の可能性を見出しているのかもしれない。
好都合だ。
パンツを返すにあたり、全く考えなしだったわけではない。
私のパンツ返却計画は「予算」は想定外だったが、それ以外は完璧のはず。
世間話をしながら同じ大学なのだと明かし、笑いを交えながらパンツを差し出すのだ。
これなら、パンツを返すだけでなく、王子とも仲良くなれて一石二鳥。

「私、近くの温泉でバイトしてるんです」
「え? ああ、あそこの……いいお湯ですよね」

王子の笑みに、私は次の言葉を失った。
勝手に王子と呼んでいるけれど、彼は意外と親しみやすい人なのかもしれない。
こんなふうに笑いかける人とは思わなかった。
窓から吹き込む透き通った風が、王子の前髪を揺らす。
同時に、私の中である感情が巣をつつかれたスズメバチのように暴れ、護摩の火花のように爆ぜた。
この瞬間を逃してはならない。
今を逃せば、永遠にパンツを返すチャンスはない。
スマートに、さりげなく返却すれば、彼の中で私は親切な人の枠に入るはずだ。
あるいは、温泉で働いている人が落し物を届けてくれた、ただそれだけでいい。
無駄なおしゃべりをする必要はない。
仲良くなろうなどと、一石二鳥などと欲をかくのは失敗のもとだ。
二兎を追うのは敗北のフラグに他ならない。
強迫観念にも似た思いが私を突き動かした。

「パンツ、お返しします! ダルマのやつ!」

気づくと私は、王子にパンツを押し付けていた。
そっと見上げると、王子の顔が赤い。
失敗した。
花柄のビニールにたたんで入れているのだから開けなければそれとわからないのに、なぜ私はパンツと言ったのだ。
王子だって落し物がどうなったか気にしていたはず。
手つかずの蕎麦は惜しいけれど、それどころではない。
千円札をテーブルに置き、私は店を飛び出した。
ほかの店員たちが私を見ている。
どうしよう。
こっそり渡すつもりが、目立ってしまった。

「おつり……!」

王子が息を切らしている。
王子は私の手のひらにおつりを載せると「蕎麦、まだ食べてないですよ」と笑った。

「蕎麦、食べて行ってください」

王子の顔は赤い。
私の顔もきっと、赤い。
あのダルマと同じ色に違いない。
王子のパンツの赤。
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