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ホイップたっぷり、さくら待ちラテはいかがでしょうか。

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「警察も同じです。ユーカリには青酸系の毒が含まれていることは広く知られていますが……状況から、毒物はシアン化合物と判断してしまったのですよ。シアン化合物の中毒死体を見慣れていれば、一見して違いがわかるでしょうが、幸いなことに、この国では頻繁にそういう死体はでませんからね」

 毎日のように凶悪事件が報道されていても、世界的に見れば、平和な国であることに違いはない。

「ーーと、言うこともできますが。司法解剖ができなくても、近隣の医療機関の医師に相談くらいはしているはずです。専門家から見れば、シネオールの中毒とシアン化合物の中毒の違いは明確です。少なくとも、シアン化合物ではないことは分かります」
「そうなんですか?」

 紗川は頷くと、タブレットに表示されているPDFを指した。

「シアン化合物による中毒死ではないと分かったら、警察はどう動くでしょうか。まずは容疑者の周辺に毒物があるかを調べます。毒殺の場合はその入手経路が重要になるからです」

(そうか)

 三枝は気づいた。
 日本は確かに科学捜査が遅れているのかもしれない。
 しかし、検挙率は高い。
 理由は明白だ。それができる専門家がいなくてもどうにかしてしまえるだけのノウハウを警察が持っているからだ。
 司法解剖ができないならば、化学的な捜査ではなく入手経路を抑え、容疑者の逃げ道を塞いでいけば良い。
 ぞくりとした。

(俺、絶対お巡りさんだけは敵に回さない人生を送ろう……)

「ところで爾志君、動物園の土産物売り場にはユーカリの香りがするアロマオイルが売っているのでしたね」
「はい、そうです」

 紗川が静かに微笑んだ。

「警察には、事務の人が夏休みのイベントでアロマオイルを扱っていたことを話しましたか?」
「俺が言ったわけではないですが、人となりを聞かれた時にみんな話してたと思います。あと、退職してアロマテラピーのお店をやるってことも」
「そうですか」

 紗川はそれまでとは比較にならないほどの笑みを浮かべると、唐突に爾志の頭に手を置き、一気にぐじゃぐじゃにした。

「えっ」

 別に時間をかけたセットをしているわけではないだろうがそれでも、いきなりやられたら驚く。三枝も言葉が出ない。

「あ、あの……」
「犯人と、この以来の意味が分かりました。これで合格でしょうか?」

 全く意味がわからない。
 三枝は紗川と爾志を見比べた。
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