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運転者にはノンアルコールのカクテルを。

パーティーの夜に 4

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 紗川は彼女の問いかけには答えず、二杯目のカクテルを注文した。
 ほっそりした女の指が紗川のグラスに伸びてきた。

「チェリー、食べないの?」

 グラスのふちをたどる彼女の指先は綺麗だった。

「食べないならさ、貰っていい?」
「どうぞ」

 彼女はチェリーをおいしそうに食べた。
 話を聞いているうちにショパンのCDは一回りしてきたようだ。
 再び「雨だれ」が店内に響く。訪れたときは満席だったが、空席が目立つ。
 この分なら、木崎が来ても座る場所に困る事はなさそうだ。二人席を確保してもらうのは難しくはないだろう。
 ふと、ポケットの中で振動を感じた。
 会話の最中に他者に連絡を取る非礼を詫びて、携帯電話を取り出す。
 液晶には木崎からのメッセージの冒頭表示のほか、最新ニュースがいくつか表示されていた。
 木崎のメッセージには、遅れていることへの詫びと共に、意見を聞きたい事があると書かれていた。
 紗川はそれに短く返事をすると、内ポケットにしまった。

「もういいの?」
「はい。失礼しました」

 ふうん、ため息のような相槌を打った女は「お代りしようかなぁ」と呟いていていた。
 飲みすぎではないかと言う代わりに紗川は先程得た確信をそっと口にすることにする。彼女がどの程度、酒に強いのか分からないが、これ以上酔うのは得策ではないだろう。

「そういえば、髪の長い女優がいましたね。先ほど本川越駅前で宣伝カーで盛んに宣伝していました。貴女のような、長く美しい髪の方でした」
「……何それ。もういない人みたいな言い方だなぁ」
「先程、殺されていたとニュースが届いていました」

 彼女は短い沈黙の後、口角を上げた。

「あ、そうなんだ」

 紗川は彼女の黒い瞳の奥を探るように見つめた。
 照明が抑えられている店内だからだろうか。その瞳は深く、くらい。

「一つ、伺いたいことがあります」
「なに?」

 暗い瞳のまま答える彼女の声は、こわばって聞こえる。
 だからこそ紗川は柔らかに目を細めた。

「髪、邪魔になりませんか? オープンカーを運転するには不向きですよね」
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