金の滴

藤島紫

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紅茶の天使と 珈琲の魔王5

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 ミッシェル様は国籍こそ日本だが、見た目でそれとわかる人は皆無だ。
 プラチナの髪も碧色の瞳も天然の色彩で、どこにも黄色人種の特徴がない。
 それもそのはず。
 ご両親はともに欧州出身で、金髪碧眼の美男美女だ。お二人は日本に留学中に出会い、意気投合。結婚と同時に帰化したという。
 彼らが相当な日本好きというのはこのエピソードだけでも十分だが、息子に「連太郎」と名前をつけるあたり、現代の日本人との感覚の違いを感じる。 

「華子君、どうかした?」

 前を歩いていたミッシェル様が振り返り、私を見下ろしている。
 屋外にいるせいだろう。
 ミッシェル様のプラチナブロンドが美しく輝き、天使の輪が幾重にも重なって見える。

「ふあ……美の暴力……目が焼ける……」
「え? なに?」

 私の呟きが聞こえなかったのか、ミッシェル様がこちらに顔を近づけてきた。
 圧倒的な美を前にすると、騒々しい鳥の囀りすら聞こえなくなるのかもしれない。

「ちかいちかいちかい……」

 これ以上、ミッシェル様の美しすぎるご尊顔が近づいたら、私の理性が崩壊する。

「華子君、鼻から血が……」

 いけない。これ以上の出血は命に関わる。ミッシェル様の美に殺されてしまう。
 いや、むしろ、殺されたい。
 この美貌に殺されるなら本望ではないか。美によって殺される美人秘書。美に当てられて死んだなら、私の体は白雪姫よりも美しい姿で眠れるだろう。死因が林檎より天使の顔の方がロマンチックではなかろうか。異論は認めない。
 ああ、だめだ、死んではいけない。
 ミッシェル様の美しさを世界に知らしめる前に死んでは。
 生きてミッシェル様の美と、ミッシェル様の紅茶のおいしさを人々に知らしめなければ。
 生きよう。
 美しい天使のために。
 そう心に強く誓った時だった。

「山田、変態に構っている暇はない」

 ぐいっと鼻にティッシュを押し込まれた。
 美人秘書の鼻に無断でティッシュを押し込める無礼者はただ一人。

「諏訪乃社長!」

 殺意を込めて睨みつけるも、相手は素知らぬ顔だ。

「山田の顔に鳥の巣はありませんよ、華子さん」
「もちろんです!」
「二手に分かれたのは、効率的に動くためでしたが?」
「当然です!」

 ミッシェル様のお顔を見るのに忙しくしていても、やるべきことはやる。その程度、ミッシェル様の美人秘書として当然だ。

「それより、山田」

 諏訪乃は自分の背後を指さし、つづけた。

「元凶を見つけたぞ。こっちだ」





 撮影を終えた私たちは、騒音の元凶――つまり、鳥の声の原因を探すことにした。
 全員で手分けして店内を探したものの、鳥はおらず、また鳥の巣も見当たらなかった。
 それもそうだ。
 内装工事の遅れのため、一ヶ月以上も締め切っていたのだ。
 仮に店内に入り込んでいたとすれば、とっくに餓死している。
 そこで私たちは外側から探すことにした。
 鳥が店の外側に巣を作った可能性もある。
 カメラマンを見送った後、ミッシェル様と私、諏訪乃と友岡の二手に分かれて店舗を左右から回り込んで探すことにした。
 もちろん、私もミッシェル様ばかりを見つめていたわけではない。
 諏訪乃が回りこんだほうに巣があった、それだけだ。さぼってはいない。

「斎藤さん、大丈夫ですか?」

 ティッシュを詰められた鼻を両手で覆いつつ歩いていると友岡が声をかけてきた。

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