上 下
2 / 32

2.パパの大きな手と、ハンバーグ

しおりを挟む
 その後は最悪だった。
 ママとはもう話をしたくなかったから押入れの中に閉じこもった。わたしが一人になりたいと思ったら、こんなところしかない。布団と布団の間に埋もれながら、わたしは待っていた。「そんなに嫌だったら転校しなくてもいいのよ」って言いに来て欲しかった。
 でも、ママは来なかった。
 夕飯の時間になったけど、わたしは押入れから出なかった。パパの声が聞こえる。今日は残業しなかったのかな。こんな時間にパパがいることはめったにない。でも、今出て行ったら何かに負けるような気がする。
 わたしは、手をぎゅうっと握った。
 ふすまの向こうは、楽しそうだった。
 わたしのことなんて気にしてないの?

「きゃー、リエのおへやもあるのー」

 リエが大喜びしてる声が聞こてきて、涙が出てきた。リエはまだ学校に通ってないからあんなふうに喜べるんだ。
 幼稚園はもともと駅の近くにあるし、きっと転校なんて関係ない。お友達も近くにたくさんいると思う。
 悲しいのも反対しているのも、わたしだけ。
 そんな風に思うと凄くいやな気持ちになった。悲しくて涙が止まらない。
 来年はクラス替えがないからみんなもう修学旅行の約束をし始めている。バスの席だって一緒に回るグループだってもう約束してある。
 お誕生日会だって、そう。今更、みんなとの約束を破るなんてできない。
 当たり前のようにしていた来年の約束。
 わたし、どうなっちゃうんだろう。
 もしもこのまま転校したらってことを考えたら、どんどん不安がこみ上げてきた。
 新しい学校の子達だってグループは作っているはずだよね。修学旅行の約束も、バスも、きっと、もう決定してる。
 そうしたら、どうなっちゃうんだろう。
 ひとりぼっちかな。
 また涙がこみ上げてきた。
 遠くでリエのはしゃぐ声がする。
 ばか。きらい。だいっきらい。

「ミキ」

 するっとふすまが開いてパパが覗き込んできた。

「今夜、ミキの好きなハンバーグだよ。残しておいた。出ておいで」

 パパの大きな手がわたしの頭を撫でる。小さい時みたいだ。
 小さい子の扱いしないでっていつも思うのに、今日はなんだかそんな風に思えなかった。
 一人はいやなの。
 もう、出ておいでって言って欲しかったの。
 ひっこしするなら、転校するって、分かってるけど、でも、いやだったの。

「おなかがすいただろ?」

 わたしは頷いて、わざとゆっくりと押入れから出た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ことみとライ

雨宮大智
児童書・童話
十才の少女「ことみ」はある日、夢の中で「ライ」というペガサスに会う。ライはことみを「天空の城」へと、連れて行く。天空の城には「創造の泉」があり、ことみのような物語の書き手を待っていたのだった。夢と現実を行き来する「ことみ」の前に、天空の城の女王「エビナス」が現れた⎯⎯。ペガサスのライに導かれて、ことみの冒険が、いま始まる。 【旧筆名:多梨枝伸時代の作品】

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

ナイショの妖精さん

くまの広珠
児童書・童話
★あの頃のトキメキ、ここにあります★ 【アホっ子JS×ヘタレイケメン 小学生の日常とファンタジーが交錯する「胸キュン」ピュアラブストーリー】 「きみの背中には羽がある」 小六の和泉綾(いずみあや)は、幼いころに、見知らぬだれかから言われた言葉を信じている。 「あたしは妖精の子。いつか、こんな生きづらい世界から抜け出して、妖精の世界に帰るんだっ!」 ある日綾は、大っ嫌いなクラスのボス、中条葉児(なかじょうようじ)といっしょに、近所の里山で本物の妖精を目撃して――。 「きのう見たものはわすれろ。オレもわすれる。オレらはきっと、同じ夢でも見たんだ」 「いいよっ! 協力してくれないなら校内放送で『中条葉児は、ベイランドのオバケ屋敷でも怖がるビビリだ!』ってさけんでやる~っ!! 」 「う、うわぁああっ!!  待て、待て、待てぇ~っ !!」 ★ ★ ★ ★ ★ *エブリスタにも投稿しています。 *小学生にも理解できる表現を目指しています。 *砕けた文体を使用しています。肩の力を抜いてご覧ください。暇つぶしにでもなれば。 *この物語はフィクションです。実在の人物、団体、場所とは一切関係ありません。

子猫マムの冒険

杉 孝子
児童書・童話
 ある小さな町に住む元気な子猫、マムは、家族や友達と幸せに暮らしていました。  しかしある日、偶然見つけた不思議な地図がマムの冒険心をかきたてます。地図には「星の谷」と呼ばれる場所が描かれており、そこには願いをかなえる「星のしずく」があると言われていました。  マムは友達のフクロウのグリムと一緒に、星の谷を目指す旅に出ることを決意します。

図書室ピエロの噂

猫宮乾
児童書・童話
 図書室にマスク男が出るんだって。教室中がその噂で持ちきりで、〝大人〟な僕は、へきえきしている。だけどじゃんけんで負けたから、噂を確かめに行くことになっちゃった。そうしたら――……そこからぼくは、都市伝説にかかわっていくことになったんだ。※【完結】しました。宜しければご覧下さい!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

時間泥棒【完結】

虹乃ノラン
児童書・童話
平和な僕らの町で、ある日、イエローバスが衝突するという事故が起こった。ライオン公園で撮った覚えのない五人の写真を見つけた千斗たちは、意味ありげに逃げる白猫を追いかけて商店街まで行くと、不思議な空間に迷いこんでしまう。 ■目次 第一章 動かない猫 第二章 ライオン公園のタイムカプセル 第三章 魚海町シーサイド商店街 第四章 黒野時計堂 第五章 短針マシュマロと消えた写真 第六章 スカーフェイスを追って 第七章 天川の行方不明事件 第八章 作戦開始!サイレンを挟み撃て! 第九章 『5…4…3…2…1…‼』 第十章 不法の器の代償 第十一章 ミチルのフラッシュ 第十二章 五人の写真

処理中です...