2 / 10
第2話
しおりを挟む
爽風は不安からチラチラとスマホを見ており、勉強が手につかなかった。
中間テストがある。だから勉強しなくてはならない。
爽風は『蛯名 蝶の遺した物語 ~吾亦紅~』の評価がずっと気になっていた。爽風が書き、今朝出版された本だった。彼女はテストを控えている高校生であるため、マスコミの取材は家族によってセーブされていた。
爽風はプゥッとため息をついた。
正直、出たい。
だって、あの本だけじゃ蝶っぽい感じがしない。話を作ったのは蝶だけど、書いたのは私。正直、蝶がどんな言い回しで語ったのかを思い出せない。
普通だったら、普通だったら、思い出せる。普通だったら鮮明に思い出せる。
だのに、何で私は思い出せないんだろう。夏休みに急いで書いて良かった。じゃなかったら……。
爽風は勉強に集中することを諦め、小説を手に取った。
***
――あの、川辺に会っただけの人のことばかり考えてしまう。あのジャック・ブレンダン、という人。
初めてだった。あたしを見て、「美しい」と言った人は。
仕事中は忙しいから、考えずに済んだけど、ふとした拍子に。――。
クリスティーヌは外套を着て、外に出た。
――1週間のあの日と同じ時間になった。もし、また川辺に行けば会えるかしら?――。
川辺に着くと、クリスティーヌは辺りを見回した。
*
ジャックは川辺に座り込んだ。
――あれから、1週間、毎日ここに通った。だけど、あれから彼女を見ることは無かった。愚かだとは分かっているが、なぜ通ってしまうのだろう?――。
ジャックはため息をついた。
「あ」
鈴のような声が聞こえた。
思わずジャックは声のした方向を見渡し、声の持ち主を見つけ、息を呑んだ。
――彼女だ。クリスティーヌがここにいる――。
ジャックは立ち上がり、クリスティーヌに近付いた。言いたいことがたくさんあった。
クリスティーヌの青い瞳がこちらを見ている。
――なんと美しいのだろう――。
「久しぶり」
声に出すと、ジャックは後悔した。
――あまりに馴れ馴れしい――。
クリスティーヌは固まるが、笑顔を作る。
――せっかく会えたんだから、こんなことで台無しにしたくない――。
「いい天気ですね」
「ですね」
――なんてくだらない返事だ――。
ジャックはクリスティーヌの隣に座った。
「あの、ご趣味はなんですか?」
クリスティーヌは首を傾げる。
「特にありません」
「そうですか」
沈黙。
ジャックは何となく気まずくなった。
――これじゃあただの朴念仁だ――。
意を決し、クリスティーヌの手に自分の手を重ねた。白いが荒れた手をしている。
クリスティーヌの顔を見てみると、顔を赤く染めている。
ふと思いついたジャックは大胆な行動に出た。クリスティーヌの頬を手で包み込み、耳元に口を寄せ「君は美しい」と囁いた。
クリスティーヌは面食らい、赤い唇を金魚のように動かしたが、すぐに冷静さを取り戻した。
――そんなはずがないわ。こんなブサイクが美しいはずがない――。
「そう」
驚くほど冷たい声だった。
ジャックは彼女の気を悪くしてしまったと思い、頭を掻いた。
クリスティーヌはジャックを見つめた。横目で、気づかれないように。彼の黒い瞳を見つめ、ため息を吐き、立ち上がった。
「そろそろ行かないと。あなた、噂が立つわよ。日曜日の昼間から女と居たら」
***
ここの部分を作った時、蝶は何を考えていたの? どう感じていたの? その時、蝶の目には何が映っていたの?
中間テストがある。だから勉強しなくてはならない。
爽風は『蛯名 蝶の遺した物語 ~吾亦紅~』の評価がずっと気になっていた。爽風が書き、今朝出版された本だった。彼女はテストを控えている高校生であるため、マスコミの取材は家族によってセーブされていた。
爽風はプゥッとため息をついた。
正直、出たい。
だって、あの本だけじゃ蝶っぽい感じがしない。話を作ったのは蝶だけど、書いたのは私。正直、蝶がどんな言い回しで語ったのかを思い出せない。
普通だったら、普通だったら、思い出せる。普通だったら鮮明に思い出せる。
だのに、何で私は思い出せないんだろう。夏休みに急いで書いて良かった。じゃなかったら……。
爽風は勉強に集中することを諦め、小説を手に取った。
***
――あの、川辺に会っただけの人のことばかり考えてしまう。あのジャック・ブレンダン、という人。
初めてだった。あたしを見て、「美しい」と言った人は。
仕事中は忙しいから、考えずに済んだけど、ふとした拍子に。――。
クリスティーヌは外套を着て、外に出た。
――1週間のあの日と同じ時間になった。もし、また川辺に行けば会えるかしら?――。
川辺に着くと、クリスティーヌは辺りを見回した。
*
ジャックは川辺に座り込んだ。
――あれから、1週間、毎日ここに通った。だけど、あれから彼女を見ることは無かった。愚かだとは分かっているが、なぜ通ってしまうのだろう?――。
ジャックはため息をついた。
「あ」
鈴のような声が聞こえた。
思わずジャックは声のした方向を見渡し、声の持ち主を見つけ、息を呑んだ。
――彼女だ。クリスティーヌがここにいる――。
ジャックは立ち上がり、クリスティーヌに近付いた。言いたいことがたくさんあった。
クリスティーヌの青い瞳がこちらを見ている。
――なんと美しいのだろう――。
「久しぶり」
声に出すと、ジャックは後悔した。
――あまりに馴れ馴れしい――。
クリスティーヌは固まるが、笑顔を作る。
――せっかく会えたんだから、こんなことで台無しにしたくない――。
「いい天気ですね」
「ですね」
――なんてくだらない返事だ――。
ジャックはクリスティーヌの隣に座った。
「あの、ご趣味はなんですか?」
クリスティーヌは首を傾げる。
「特にありません」
「そうですか」
沈黙。
ジャックは何となく気まずくなった。
――これじゃあただの朴念仁だ――。
意を決し、クリスティーヌの手に自分の手を重ねた。白いが荒れた手をしている。
クリスティーヌの顔を見てみると、顔を赤く染めている。
ふと思いついたジャックは大胆な行動に出た。クリスティーヌの頬を手で包み込み、耳元に口を寄せ「君は美しい」と囁いた。
クリスティーヌは面食らい、赤い唇を金魚のように動かしたが、すぐに冷静さを取り戻した。
――そんなはずがないわ。こんなブサイクが美しいはずがない――。
「そう」
驚くほど冷たい声だった。
ジャックは彼女の気を悪くしてしまったと思い、頭を掻いた。
クリスティーヌはジャックを見つめた。横目で、気づかれないように。彼の黒い瞳を見つめ、ため息を吐き、立ち上がった。
「そろそろ行かないと。あなた、噂が立つわよ。日曜日の昼間から女と居たら」
***
ここの部分を作った時、蝶は何を考えていたの? どう感じていたの? その時、蝶の目には何が映っていたの?
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
欲望
♚ゆめのん♚
現代文学
主人公、橘 凛(たちばな りん)【21歳】は祖父母が営んでいる新宿・歌舞伎町の喫茶店勤務。
両親を大学受験の合否発表の日に何者かに殺されて以来、犯人を、探し続けている。
そこに常連イケおじホストの大我が刺されたという話が舞い込んでくる。
両親の事件と似た状況だった。
新宿を舞台にした欲望にまみれた愛とサスペンス物語。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる