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第1話
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「12歳の女の子、鮱名 蝶が亡くなった。死因は熱中症。
お盆の3日間、冷房のない室内に閉じ込められていた事による熱中症。両親は、母親と継父は、継父の実家に帰省していた。母親の鮱名 晴香と継父の鮱名 雅紀は保護責任者遺棄致死罪で逮捕された。」
翔太がこの記事を見た時、典型的な虐待事件だと思った。
再婚した両親。典型的な継子イジメから始まる、虐待だったのだろう。自分の子じゃないから、と憎く思い、手を上げた。悲しいことに典型的な事件。
子どもが12歳、と簡単に脱走できそうな年頃である件を除けば。12歳と言えば、小学6年か中学生だ。
両親はお盆の間丸々は帰省していた。鮱名 蝶が住んでいる周辺は恐らく住宅地。お盆とは言え、誰かがいるはずだ。鍵なら、内から簡単に開けることが出来る。なぜ脱走しなかったのか。
若く義憤に燃える翔太は首を傾げた。
*
報道から2ヶ月後、一冊の本が出版された。
「蛯名 蝶の遺した物語 ~吾亦紅~」
多くの本屋で入荷されたが、棚に並ぶことがなかった。
本は瞬く間に話題を呼び、ベストセラーとなった。
出版から1週間後、翔太はやっとのことで入手した。
本が届くと、翔太はレポートを書く手を止めた。部屋に籠もり、本を読み始めた。
***
クリスティーヌ・アダムス、という少女を見た時、釘付けになった。
ダークブラウンの髪、サファイアのようなの瞳、綺麗な顔立ち、15歳という年に似合わぬ大人びた表情。ほっそりした伸びやかな肢体。
何もかもが美しかった。彼女が欲しい、と思った。
クリスティーヌが僕を見た。
「あなたは誰?」
ジャックは言った。
「僕は、ジャック・ブレンダン。君を崇拝する1人さ」
「まぁ。そんなことを言われたのは初めてよ」
「僕の目に狂いがなければ、君はこの世界で最も美しい人だよ」
「変な人」
クリスティーヌは笑った。鈴のように軽やかで可愛らしい笑い声だった。
「クリスティーヌ」
1人の男が彼女を呼んだ。中年でかなりハゲていて、ブルドックのような顔だ。
「さよなら」
とだけ言うと、彼女は去っていた。
*
クリスティーヌは車に乗りながら、先程の男のことを思い返していた。
金髪でエメラルドのような目の青年だった。
父親、ドナルドは不機嫌な声を捻り出す。
「さっきの男は何だ?」
クリスティーヌは張り詰めた表情になる。
「知らない人よ。すれ違っただけの」
「本当にそうか?」
「本当よ。何を疑っているの?あたしはちゃんと知ってるわよ。あたしがブサイクだってことくらい」
ドナルドは満足げに頷く。
「それならいい」
***
翔太は仰向けでベッドに寝転び、本は胸の上に置いた。
何なんだ?この出だしは。
っていうかさっき「綺麗な顔立ち」って言ったよな。矛盾してないか?無自覚なパターンか?いや、ならなんで父親は黙認してんだ?それとも恋は盲目ってやつか?
っていうか、恋愛小説かよ。そもそも、あんな会話、普通しないだろ。いや、そもそも普通を知らないんだけどさ。
翔太は本を放り、呟いた。
「リア充爆発しろ」
お盆の3日間、冷房のない室内に閉じ込められていた事による熱中症。両親は、母親と継父は、継父の実家に帰省していた。母親の鮱名 晴香と継父の鮱名 雅紀は保護責任者遺棄致死罪で逮捕された。」
翔太がこの記事を見た時、典型的な虐待事件だと思った。
再婚した両親。典型的な継子イジメから始まる、虐待だったのだろう。自分の子じゃないから、と憎く思い、手を上げた。悲しいことに典型的な事件。
子どもが12歳、と簡単に脱走できそうな年頃である件を除けば。12歳と言えば、小学6年か中学生だ。
両親はお盆の間丸々は帰省していた。鮱名 蝶が住んでいる周辺は恐らく住宅地。お盆とは言え、誰かがいるはずだ。鍵なら、内から簡単に開けることが出来る。なぜ脱走しなかったのか。
若く義憤に燃える翔太は首を傾げた。
*
報道から2ヶ月後、一冊の本が出版された。
「蛯名 蝶の遺した物語 ~吾亦紅~」
多くの本屋で入荷されたが、棚に並ぶことがなかった。
本は瞬く間に話題を呼び、ベストセラーとなった。
出版から1週間後、翔太はやっとのことで入手した。
本が届くと、翔太はレポートを書く手を止めた。部屋に籠もり、本を読み始めた。
***
クリスティーヌ・アダムス、という少女を見た時、釘付けになった。
ダークブラウンの髪、サファイアのようなの瞳、綺麗な顔立ち、15歳という年に似合わぬ大人びた表情。ほっそりした伸びやかな肢体。
何もかもが美しかった。彼女が欲しい、と思った。
クリスティーヌが僕を見た。
「あなたは誰?」
ジャックは言った。
「僕は、ジャック・ブレンダン。君を崇拝する1人さ」
「まぁ。そんなことを言われたのは初めてよ」
「僕の目に狂いがなければ、君はこの世界で最も美しい人だよ」
「変な人」
クリスティーヌは笑った。鈴のように軽やかで可愛らしい笑い声だった。
「クリスティーヌ」
1人の男が彼女を呼んだ。中年でかなりハゲていて、ブルドックのような顔だ。
「さよなら」
とだけ言うと、彼女は去っていた。
*
クリスティーヌは車に乗りながら、先程の男のことを思い返していた。
金髪でエメラルドのような目の青年だった。
父親、ドナルドは不機嫌な声を捻り出す。
「さっきの男は何だ?」
クリスティーヌは張り詰めた表情になる。
「知らない人よ。すれ違っただけの」
「本当にそうか?」
「本当よ。何を疑っているの?あたしはちゃんと知ってるわよ。あたしがブサイクだってことくらい」
ドナルドは満足げに頷く。
「それならいい」
***
翔太は仰向けでベッドに寝転び、本は胸の上に置いた。
何なんだ?この出だしは。
っていうかさっき「綺麗な顔立ち」って言ったよな。矛盾してないか?無自覚なパターンか?いや、ならなんで父親は黙認してんだ?それとも恋は盲目ってやつか?
っていうか、恋愛小説かよ。そもそも、あんな会話、普通しないだろ。いや、そもそも普通を知らないんだけどさ。
翔太は本を放り、呟いた。
「リア充爆発しろ」
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