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現代から不思議の国へ:少女時代
閑話 時の流れと圧力
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私ロイスがウィリアム・ド・ハイド様の乳兄弟としてお仕えするようになり、46年。文官としてウィリアム様にお仕えしてから約30年。ウィリアム様が逝去され、ご子息のヨハネス様にお仕えすることとなってから早9年。
「閣下、もう9の鐘がなりました」
私ロイスがペンを動かす手を止め、閣下に業務の終了時刻をお知らせしますと、閣下は「そうか」と呟かれました。
「収穫量が豊かであるため、我々は時の流れを忘れ、忙しさに身を委ねることとなるな」
「そうですね」
閣下のお父上であれば、言われずとも時間に気づき業務を終えたでしょうに。ですが閣下は20歳とお若いのですから……。
閣下は小さなジュエリーボックスを開き、煌々と輝くブルーダイヤモンドをそっと撫でました。
「ロイス。エリザベスについてフリーダかマカレナから話を聞いていないか?」
「ご自身でエリザベス様に会いに行けばよろしいのでは? 先日、マカレナに叱られましたよ」
「それは可哀想に」
「一人娘に叱られる父親の気持ちもお考えください。それはそうと、ご自身でエリザベス様のもとに訪れられてくだされば、自ずと仲も深まるでしょうに」
閣下はぐっと声を詰まらせましたが、私の知ったことではありません。懸想なさっておられるのなら、外堀を埋め婚約なさるより前になさることがあるでしょうに。
「確かにエリザベス様は驚くほどお美しいお嬢様です。ですがお美しい女性であると同時に17歳の娘さんです」
「17歳?」
「マカレナが昨日、聞き出したそうです」
あの2人は年が近さからか仲良くなるのが早いようです。
「彼女は2004年11月2日生まれだとか。それならもう17歳になっています」
「もう17歳になっていたのか……」
「閣下とエリザベス様、年のつれあいは取れていますから、不安にならず会いに行ってしまえばよろしいのです」
「年のつれあいについては以前から知っていたからな。だが懸念事項はそちらではない。彼女が国王陛下の側室として望まれていたことだ。瑕疵がついたため、我が伯爵家に嫁ぐこととなったが」
そのことについては私から申し上げることは何もございません。
閣下はブルーダイヤモンドを軽く握りました。
「婚約したとて、圧力により破棄されるかもしれぬ。婚姻まで彼女に近づかなければ悋気を起こされることもないだろう」
「ですがこのご婚約の際、閣下が陛下に対する忠誠心をお示しになったことで当面の間は大丈夫でしょう」
私はハァとため息を吐きました。この敵は排除できませんから。閣下はサファイアを箱に戻し、蓋を閉じられました。
「話は変わるがマカレナも来年で成人であったな」
「ええ。感慨深いものです」
「どちらと縁付くかはまだ決まっていないのか?」
「残念ながら未だに。あの子は女でありながら文官を志すような風変わりな娘ですから……」
「あの娘はおしゃべりで驚くほど好奇心旺盛だが、仕事が早くあらゆる知識に秀でた文官だ。どうしたものか……」
閣下はお若く周囲が見えていらっしゃらない時もございます。
「閣下、もう9の鐘がなりました」
私ロイスがペンを動かす手を止め、閣下に業務の終了時刻をお知らせしますと、閣下は「そうか」と呟かれました。
「収穫量が豊かであるため、我々は時の流れを忘れ、忙しさに身を委ねることとなるな」
「そうですね」
閣下のお父上であれば、言われずとも時間に気づき業務を終えたでしょうに。ですが閣下は20歳とお若いのですから……。
閣下は小さなジュエリーボックスを開き、煌々と輝くブルーダイヤモンドをそっと撫でました。
「ロイス。エリザベスについてフリーダかマカレナから話を聞いていないか?」
「ご自身でエリザベス様に会いに行けばよろしいのでは? 先日、マカレナに叱られましたよ」
「それは可哀想に」
「一人娘に叱られる父親の気持ちもお考えください。それはそうと、ご自身でエリザベス様のもとに訪れられてくだされば、自ずと仲も深まるでしょうに」
閣下はぐっと声を詰まらせましたが、私の知ったことではありません。懸想なさっておられるのなら、外堀を埋め婚約なさるより前になさることがあるでしょうに。
「確かにエリザベス様は驚くほどお美しいお嬢様です。ですがお美しい女性であると同時に17歳の娘さんです」
「17歳?」
「マカレナが昨日、聞き出したそうです」
あの2人は年が近さからか仲良くなるのが早いようです。
「彼女は2004年11月2日生まれだとか。それならもう17歳になっています」
「もう17歳になっていたのか……」
「閣下とエリザベス様、年のつれあいは取れていますから、不安にならず会いに行ってしまえばよろしいのです」
「年のつれあいについては以前から知っていたからな。だが懸念事項はそちらではない。彼女が国王陛下の側室として望まれていたことだ。瑕疵がついたため、我が伯爵家に嫁ぐこととなったが」
そのことについては私から申し上げることは何もございません。
閣下はブルーダイヤモンドを軽く握りました。
「婚約したとて、圧力により破棄されるかもしれぬ。婚姻まで彼女に近づかなければ悋気を起こされることもないだろう」
「ですがこのご婚約の際、閣下が陛下に対する忠誠心をお示しになったことで当面の間は大丈夫でしょう」
私はハァとため息を吐きました。この敵は排除できませんから。閣下はサファイアを箱に戻し、蓋を閉じられました。
「話は変わるがマカレナも来年で成人であったな」
「ええ。感慨深いものです」
「どちらと縁付くかはまだ決まっていないのか?」
「残念ながら未だに。あの子は女でありながら文官を志すような風変わりな娘ですから……」
「あの娘はおしゃべりで驚くほど好奇心旺盛だが、仕事が早くあらゆる知識に秀でた文官だ。どうしたものか……」
閣下はお若く周囲が見えていらっしゃらない時もございます。
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