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現代から不思議の国へ:少女時代

閑話 捜索願いと火種

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 去年の今頃会ったイギリス人の女の子はどうしているんだろう?
 ただの客室係にペラペラと話す口の軽さと、ヴィンス・デイヴィスの子孫を名乗っている点が気になって入国審査の人に報告させてもらったけど。あの後ゴーディラックからヴァロワール共和国へと向かう船で見かけないから、殺されたか監禁されているんだろうな。可哀想に。

 年が明けてから、ゴーディラック王国への新年の挨拶のためやって来たヴァロワール共和国の使者たち。
 僕の出身を考えると彼らと接することなんて考えられなかった。ただ偶然、母がヴァロワール共和国出身だった。母ちゃんは僕が12歳の時に死んだ。その時ゴーディラックでフランス語を話せるのが俺と、何とかって伯爵だけだった。そこで僕はヴァロワール共和国からやってくる高官らを乗せた船の客室係に抜擢された。船の上にいてばっかの仕事だが、無事に結婚できた。嫁のジェーンは「旦那がほとんど家にいないのが夫婦円満の秘訣」とか失礼なことを抜かしやがった。12歳で働き始めてもう12年経ち、再来月には子どもが生まれる。
 これからはもっと働きがいも出てくるだろう。

 客が船室に収まり出港した。つかの間の休憩を楽しもう、とビールを飲んだ。勤務中のビールは効くぜ!
 楽しんでいると1人の高官が近寄ってきた。くすんだ灰色混じりの茶髪、栗色の目。長身。蛇模様の彫られたパイプタバコからはもくもくと煙が上っている。誰だっけ? 見ない顔だ。

「客室係。そちらの国にアケミ・エアリーを名乗る少女は未だ滞在しているのか?」と、高官は尋ねた。流暢なフランス語だ。
「はい。まだ滞在しております」

 嘘ではない。監禁されているにしろ、死んだにしろ、ゴーディラックにいるはずだから。
 高官は身分証を出した。英語だろうか? 文字はこちらと似ているが読めない。

「私はイギリスに駐在しているヴァロワール共和国の外交官だ。イギリスに住まうエアリー嬢の家族から捜索願いが出されている」

 外交官は1枚の書類を出した。
「アケミ・E・D・ガヴィーナ・エアリーを捜索するようヴァロワール共和国に指令が出た」
「ガヴィーナ……?」と俺は戸惑った。ありえない。
「そうだ。アケミ・ガヴィーナ・エアリー。それがどうした? 行き先に心当たりでも?」
「いえ。ただ、ガヴィーナはゴーディラック王国では第四王女だけが使用する名前で……」

 外交官は驚いたようにパイプタバコを口から離した。だが何も言わずまたパイプタバコを吸った。

「それに僕はアケミ・エリザベス・エアリーとしか聞いていなくて……」
「いちいちフルネームでは名乗らないだろう。彼女の行く先に心当たりはないのか?」
「いいえ」

 外交官は苛立ったように、パイプタバコの掃除をように言った。僕は不安に思いながらパイプタバコを預かり、係の者に渡した。いつの間にか外交官の周りには他の高官も来ていた。船に酔っているようだ。
 僕は意を決した。ここで何を言っても僕の責任ではない。エアリー嬢が入国した先で何があったのか、そこからイギリスとの戦争に発展したとしてもそれは僕の責任ではない。

「エアリー嬢はゴーディラック王国のかつて滅亡したデイヴィス王朝の末裔を名乗っておりました」
「その罪により勾留されているのか」
「はい」

 外交官は少し考え込むように歩き回った。

「エアリー嬢はゴーディラック王国の滅亡した王朝の末裔を名乗っている罪で逮捕された。そちらの国では第四王女を意味する『ガヴィーナ』がミドルネームに入っていたことが原因で疑念の目を強められ、今なお勾留されている」と外交官は大きな声で言った。「そう、イギリスには伝えれば良いか?」と確認した。

 周囲の高官らがざわついている。僕は頷くことしかできなかった。外交官は綺麗になったタバコを受け取った。

「其方の名は?」
「アシル・ニーパベズローです」
「そうか」と外交官は船室に戻った。
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