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臆病で人見知りな女の子のコンビニへの小さな大冒険

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 知らない人に話しかけるのは、夜中にトイレに行くのと同じくらい怖い。

 沙季さきはそう思っていた。
 もっとも、みんなそうじゃない、ということは知っている。ママは誰とでも話せるし、知らない人とだって仲良しになれる。お兄ちゃんは知らない人と仲良くなれないけど、話せる。
 自分が嫌になっちゃう。どんどん、どんどん。ママに言われて、お店の人に聞くことすら出来ない。

 *

 ある日、ママが風邪を引いた。夏休みに入ってからの過労とクーラーが原因だった。ママは洗濯物を済ませ、ベッドに入った。
「ママのお手伝い」をしたかった沙季はワシャワシャと食器を洗っていた。お昼ごはんを食べていたら出てきた食器だ。お兄ちゃんはリビングで寝っ転がってスマホ見てる。
 洗い物を済ませた沙季はプリンを買いに行こうと思った。沙季やお兄ちゃんが風邪引いた時によくママが食べさせてくれたから。
 こども部屋に行って沙季のお財布を見てみた。小銭がジャラジャラと入っている。数えてみたら500円玉が1枚。100円玉が1枚。50円玉が3枚。10円玉が1枚に、1円玉が8枚も入っている。
 プリンっていくらなんだろう? 分からないけど、お財布をポケットに入れてリュックサックを背負った。1階に降りて、お兄ちゃんに「コンビニに行ってくる」って言った。靴を履いた時、のど飴を買おうと思った。1番強いのど飴を買おう。
 そう思った時、急に気が重くなった。そしてお外に出た。
 1番強いのど飴ってどれなのか分からないから、お店の人に聞かないと。勘で選んじゃダメかな? ううん、ダメだ。1番強いのじゃないとママ治らない。
 
 7歳の沙季は不安と恐怖を背負ったままズンズン進んで行った。もうすぐでコンビニに着くという時、防犯ブザーを忘れたことを思い出した。大丈夫、怖い人が出たらコンビニに逃げればいいもん。

 コンビニに着いた時、真っ先にプリンを探した。いつもの見つけた。170円だから、100円玉と50円玉が1枚ずつに、10円玉2枚で買える。やった。プリンをカゴに入れた時、また心がズシっと重くなった。お店の人に聞かないといけない。
 レジに向かいながら、このままお支払いして帰ろうかな~、って思った。でもママは今病気夏風邪で苦しんでる。でも怖い。おばけより怖い。でも、でも……。
 
 沙季はクッと顎を上げた。ハキハキする声を出そうと思ったが、震え声だ。
「あの、1番効くのど飴ってどれですか?」

 お店の人は何かに悩んだ後、「これが効く」って教えてくれた。
 私はふわふわした頭のまま龍○散ののど飴を買った。

 どうにか家に帰ったあとママに渡したら、すっごく微妙な顔をされた。
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