この町で最年少の私はJC

神永 遙麦

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この町で最年少の私はJC

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 ――平凡な町。小さな町。平和で静かな町、起きる事件と言えばオレオレ詐欺。お互いがお互いを窺い続ける気配がする町。多分、お年寄りにとっても退屈な町。平和で、年寄りばっかりで、この町で言う「若者」は30代――。

 キュッと靴紐を結ぶと珠空みそらはキッと顔を上げた。
 
 ――正直、退屈。だから私の想像の中で、この町に伝説を作ってみた――。

 珠空は「行ってきます」と家から出た。
 ――伝説が満ちる町にふさわしく、今日はヒールのついた靴を履いた。ミッドヒールだけど、構わない――。

 向かいの家の一人暮らしのおばあさんが私を見て「あらまあ」と呆れ返ったような表情をした。挨拶をしたが、帰ってこなかった。あの家は屋根が朱色で、青空によく映える。けれど、歳月の流れなのかペンキが剥げている。
 きっと昔、旦那さんがぬったんだろうなぁ。あのおばあさんも昔は美人だったらしい、どんなタイプかは知らないけど。きっと旦那さんと愛し合っていたんだろうなぁ。でも旦那さんが亡くなって、もうペンキを塗ってくれる人がいなくなって……。業者さんに頼めばいいんだけど、旦那さんとの思い出を塗り替えたくないのかもしれない。中学生の私への当たりが強いのも、これから青春を謳歌していく年齢の私が羨ましいのかも。

 あそこの鴨居はいつも薄暗くてジメジメしている。「子どもだけで入るな。神隠しに遭うぞ」って100歳超えてそうなおじいさんに注意されたこともある。確かに不審者ホイホイっぽい所。あそこの神社、昔は公園だったんだって。ってことはたくさんの子どもが遊んだのか……今の年金受給者の方々が。
 きっと、たくさんの子どもと遊んだ思い出に縋りたい土地が子どもを誘拐してたんだろうなぁ。
 そんなことより、あの神社の隣が110番の家で良かった。

 トットコ歩いていると、石垣が横にあった。このまま行けば森に突っ込んでいく。なんて派手な夕涼み。
 石垣に手を置いてみた。ボコボコした感触だ。くっきりと穴が残っている。何か丸い物が食い込んだような。何の痕だろう?
 
「佐々木さんとこの子じゃないか」
 突然声を掛けられ振り返ると、大久保さんだった。
「こんな時間に1人で散歩?」

「はい、ちょっと夕涼みに」
 穴を擦りながら答えた。
 
「もう真っ暗だよ」と、大久保さんは呆れ返ったように呟いた。「送っていくから帰りなさい」

「はい。あの、この穴って何ですか?」
 
 そう尋ねると、おじさんは突然暗い表情になった。
「昔ちょっと怖い事件があったんだよ」

 ひゅっと背筋が凍った。予想はしてたけど、実際に聞くとちょっと怖い。

 *

 おじさんに送られ、家に着くと、風呂に入り直した。さすがに寒い。
 
 風呂の湯気を見ながら、何かが嫌になった。
 平和が1番だってことくらい知ってる。戦争や事件に巻き込まれるのって、平和な町で育った私なんかに想像も出来ないくらい苦しくて終わった後も引きずる人だっている。それくらい知ってる。でも正直、五人組のように互いに見張り合っていて、どこか冷たくて怖いことに満ちているこの町は何かが嫌だ。いくら平和でも……。このままだと、まだ14歳なのに私、窒息しそう。
 東京に行ってみたいなぁ。知らない人だらけの、知らない所だらけの、東京に。ロンドンやニューヨークでもいい。
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