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第16話 逃げの一手を考えろ!
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「ところで、あなた。名前くらい名乗ったらどうなの。名も告げない人を信じろって言うわけ?」
「そりゃそうだな。俺はキース。見ての通りハーフエルフの剣士……と、この格好じゃ分からないか」
少し尖った耳を触った青年キースは苦笑を見せ、ドレスの下から引き抜いた二本の短剣を見せた。どうやら、足に短剣用のホルダーをつけているようだ。
「いつも使うのは、こんな子ども騙しの剣じゃないが、まぁ、ないよりましかと思ってね」
「そう。あなた、マーヴィン司祭とはどういう関係?」
「何度か依頼を引き受けてる程度の関係だ。やれやれ、まだ俺が信用できないようだな」
困ったなと言って笑うキースは立ち上がると、ドレスに手をかけて脱ぎ始めた。
「何やってんの!? 変態!」
「ちょっと、淑女《レディ》の前で脱ぐとか、なに考えてるの!?」
ミシェルの叫びと、私の怒りの声がこだました。だけど、キースは動きを止めやしない。なんなの、このデリカシーのない男は!
「どうせバレたなら、俺がこれを着る意味ないだろ?」
「バレたって……」
「煙草を吸ってるとこを見られたからな」
キースは私たちの怒りの意味を全く分かっていないようで、ついにドレスが地面に落ちた。
「あー、やっと軽くなった!」
そう言ったキースをよく見れば、チュニックとズボンをしっかり履いていた。どうやらドレスの下に着ていたみたいね。
私とミシェルは同時に安堵の吐息をついた。
「しかし、困ったな。最後までごまかすつもりだったんだけどな」
「自業自得って言葉、知ってる?」
ミシェルがキースに呆れたと言わんばかりの眼差しを向けると、彼は「面目ない」と笑いながら脱いだドレスを丸めた。
「まぁ、幸いなのは当のお嬢さんの変装がバレてないってことだな」
「そうね。でも、ミシェルが魔術師なのはバレたわ」
「そこでだ。提案なんだが、二手に分かれないか?」
突然のキースの提案に、私とミシェルは「はぁ!?」と素っ頓狂な声を上げた。
この半妖精《ハーフエルフ》、何を突然言い出すのよ。戦力を分散するとか、魔術師ばかりのこのメンバーではあり得ない選択肢だわ。
「あり得ないわ!」
「まぁ、そう決めつけるなって」
にやりと笑ったキースの提案は、顔を隠したお嬢様が偽物とバレているなら、逆にそれを利用しようということだった。
「フードの女がお嬢様でないとすると、明らかな男以外が本物だって奴らも考えるだろうな」
パークスを指さしたキースは、次いで私たちに視線を送ってきた。
「だが、ミシェルだったけ? お嬢ちゃんは魔術師とバレてる。疑われるとしたら……もう一人、あんただろう」
「そうね。あと、頭がよければ、少年に扮したお嬢様を疑うって可能性もあるわ」
「だろうな。そこを上手く使わない手はないんじゃないか?」
「上手くって……」
私が眉間にシワを寄せると、キースはにやにや笑った。綺麗な顔をしている分、物凄く腹立つわね。
「その神殿の近くに、もう一つあるのは知ってるか?」
「知識の女神デアエンティアを祀る小さな拝礼用の場所ね。あそこは確か、年若い司祭夫婦が常駐しているわ」
「へぇ、そこまで知ってるとは、凄いな」
「誰か二人がそっちに向かって、追手の戦力を分散しようってこと?」
「そんなとこだ」
上手くいけば時間も稼げるし、追手の数も減らせる。もしもの時、反撃したり捕らえるとしても、追手の数が少ないと対処も楽になるだろう。
そう考えると、悪くない手に思えた。
「問題は、どう分ければ上手いこと敵を釣れるかだな」
「そうね……ねぇ、男だとバレたと言っても数十メートルの夜の森でのことよね。だったら、お嬢様を二人にするのはどうかしら?」
ふふふっと笑った私は、ミシェルとお嬢様、そして黙っているパークスに視線を送った。
「そりゃそうだな。俺はキース。見ての通りハーフエルフの剣士……と、この格好じゃ分からないか」
少し尖った耳を触った青年キースは苦笑を見せ、ドレスの下から引き抜いた二本の短剣を見せた。どうやら、足に短剣用のホルダーをつけているようだ。
「いつも使うのは、こんな子ども騙しの剣じゃないが、まぁ、ないよりましかと思ってね」
「そう。あなた、マーヴィン司祭とはどういう関係?」
「何度か依頼を引き受けてる程度の関係だ。やれやれ、まだ俺が信用できないようだな」
困ったなと言って笑うキースは立ち上がると、ドレスに手をかけて脱ぎ始めた。
「何やってんの!? 変態!」
「ちょっと、淑女《レディ》の前で脱ぐとか、なに考えてるの!?」
ミシェルの叫びと、私の怒りの声がこだました。だけど、キースは動きを止めやしない。なんなの、このデリカシーのない男は!
「どうせバレたなら、俺がこれを着る意味ないだろ?」
「バレたって……」
「煙草を吸ってるとこを見られたからな」
キースは私たちの怒りの意味を全く分かっていないようで、ついにドレスが地面に落ちた。
「あー、やっと軽くなった!」
そう言ったキースをよく見れば、チュニックとズボンをしっかり履いていた。どうやらドレスの下に着ていたみたいね。
私とミシェルは同時に安堵の吐息をついた。
「しかし、困ったな。最後までごまかすつもりだったんだけどな」
「自業自得って言葉、知ってる?」
ミシェルがキースに呆れたと言わんばかりの眼差しを向けると、彼は「面目ない」と笑いながら脱いだドレスを丸めた。
「まぁ、幸いなのは当のお嬢さんの変装がバレてないってことだな」
「そうね。でも、ミシェルが魔術師なのはバレたわ」
「そこでだ。提案なんだが、二手に分かれないか?」
突然のキースの提案に、私とミシェルは「はぁ!?」と素っ頓狂な声を上げた。
この半妖精《ハーフエルフ》、何を突然言い出すのよ。戦力を分散するとか、魔術師ばかりのこのメンバーではあり得ない選択肢だわ。
「あり得ないわ!」
「まぁ、そう決めつけるなって」
にやりと笑ったキースの提案は、顔を隠したお嬢様が偽物とバレているなら、逆にそれを利用しようということだった。
「フードの女がお嬢様でないとすると、明らかな男以外が本物だって奴らも考えるだろうな」
パークスを指さしたキースは、次いで私たちに視線を送ってきた。
「だが、ミシェルだったけ? お嬢ちゃんは魔術師とバレてる。疑われるとしたら……もう一人、あんただろう」
「そうね。あと、頭がよければ、少年に扮したお嬢様を疑うって可能性もあるわ」
「だろうな。そこを上手く使わない手はないんじゃないか?」
「上手くって……」
私が眉間にシワを寄せると、キースはにやにや笑った。綺麗な顔をしている分、物凄く腹立つわね。
「その神殿の近くに、もう一つあるのは知ってるか?」
「知識の女神デアエンティアを祀る小さな拝礼用の場所ね。あそこは確か、年若い司祭夫婦が常駐しているわ」
「へぇ、そこまで知ってるとは、凄いな」
「誰か二人がそっちに向かって、追手の戦力を分散しようってこと?」
「そんなとこだ」
上手くいけば時間も稼げるし、追手の数も減らせる。もしもの時、反撃したり捕らえるとしても、追手の数が少ないと対処も楽になるだろう。
そう考えると、悪くない手に思えた。
「問題は、どう分ければ上手いこと敵を釣れるかだな」
「そうね……ねぇ、男だとバレたと言っても数十メートルの夜の森でのことよね。だったら、お嬢様を二人にするのはどうかしら?」
ふふふっと笑った私は、ミシェルとお嬢様、そして黙っているパークスに視線を送った。
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