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第11話 馬にも休息が必要よね
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このまま走り通しても、夜遅くにはリーヴの神殿に着けそうなところまで来ていた。しかし、馬が疲れている所を襲われでもしたら大変だ。
まだ追っ手がいるとは限らないけど、もしもの時は、馬に全速力で駆け抜けてもらわなければ困る。
「そうね……夜の間、走り続ける訳にもいかないし、馬も休めたいわね」
しばし黙っていた私に、四人の視線が向けられるのを感じた。
「まずは水場を探しましょう!」
「近くに川か泉があると良いんだけど……」
馬の歩みを止め、森をぐるりと見渡したパークスは目を閉ざすと耳に手を当てて音を探った。すると、すぐに水音を聞き取ったようで森の中を指さした。
それからややあって、馬を休めながら野営が出来そうな場所を見つけることが出来た。おそらく、旅の冒険者や商人たちも使ったことのある場所なのだろう、燃え残った薪や灰が残っていた。
「馬に水を飲ませてくるけど、もう二人、一緒に来てくれるかな? さすがに三頭を連れて行くのは無理だからさ」
パークスの提案にミシェルはすぐ立ち上がって、木に結んでいた手綱を解いた。そうなると、お嬢様を護衛するのは私ということになるのね。
「それじゃ、お嬢様と私が──」
ここに残って荷物を見ていると答えようとすると、無口なお嬢様は馬を引いてさっさと歩き出していた。
「パっ、パークス! さっさと追いなさい!」
「あ、あー、うん……じゃぁ、行ってくる」
声が裏返るほど驚きながらパークスに言うと、さほど驚いた様子もない彼はミシェルと二人、お嬢様の後をついて行った。まったく、何なのかしら、あのお嬢様は。
どっと疲れを感じてため息をつくと、すぐ横のお付きの少年が「大丈夫ですよ」と言った。
意外に高い声に驚いて振り返ると、少年は帽子を目深く被って俯いてしまう。どれだけ恥ずかしがり屋なのかしら。
「お、お嬢様は乗馬にも長けていますから」
「そのようね。あなたを乗せても全く疲れを見せないし、日頃から訓練をされてる騎士みたいね」
「そ、そうでしょうか……」
ただぼうっと突っ立ている訳にもいかないし、私は周囲の石を拾い始めた。休む場所の確保をするためでもあるのだけど。
「何を、されているのですか?」
「薪を組む場所を確保するのよ。少し土を掘り下げて石で囲んでおくと、火をつけた時、風よけになるの」
「……魔術師さんは、博識ですね」
「まぁ、お屋敷で働く人には必要ない知識ね」
魔術師というよりは、野営をする可能性も考慮して身につけた知識だけど。褒められて悪い気はしないわね。
「あ、あの……ぼっ、僕もお手伝いします」
もじもじとした聞き取りにくい声に首を傾げると、少年はきょろきょろと辺りを見回していた。そして、随分小さな石を拾おうとする。本当に、何も知らないみたいね。
「なるべく大きい石が良いわ。持てる程度で良いけど」
「は、はい」
どもりながら返事をした少年は、小さな石を手放すとすぐ傍にある石を指さした。これくらいで良いのかということだろう。
「それくらいが丁度良いわね」
「わっ、分かりました」
しゃがんだ少年は、両手で抱えられる石を持ち上げた。すると、その石の下からぞわぞわと虫が大量に現れた。こればっかりは、私も好きになれないのよね。
「ひっ」
「あぁ、森だから──」
「ひっ……ひやぁあああああっ!」
虫くらいいるわよと笑い飛ばそうとすると同時に、まるで女の子の様な甲高い悲鳴が、少年の口から発せられた。
まだ追っ手がいるとは限らないけど、もしもの時は、馬に全速力で駆け抜けてもらわなければ困る。
「そうね……夜の間、走り続ける訳にもいかないし、馬も休めたいわね」
しばし黙っていた私に、四人の視線が向けられるのを感じた。
「まずは水場を探しましょう!」
「近くに川か泉があると良いんだけど……」
馬の歩みを止め、森をぐるりと見渡したパークスは目を閉ざすと耳に手を当てて音を探った。すると、すぐに水音を聞き取ったようで森の中を指さした。
それからややあって、馬を休めながら野営が出来そうな場所を見つけることが出来た。おそらく、旅の冒険者や商人たちも使ったことのある場所なのだろう、燃え残った薪や灰が残っていた。
「馬に水を飲ませてくるけど、もう二人、一緒に来てくれるかな? さすがに三頭を連れて行くのは無理だからさ」
パークスの提案にミシェルはすぐ立ち上がって、木に結んでいた手綱を解いた。そうなると、お嬢様を護衛するのは私ということになるのね。
「それじゃ、お嬢様と私が──」
ここに残って荷物を見ていると答えようとすると、無口なお嬢様は馬を引いてさっさと歩き出していた。
「パっ、パークス! さっさと追いなさい!」
「あ、あー、うん……じゃぁ、行ってくる」
声が裏返るほど驚きながらパークスに言うと、さほど驚いた様子もない彼はミシェルと二人、お嬢様の後をついて行った。まったく、何なのかしら、あのお嬢様は。
どっと疲れを感じてため息をつくと、すぐ横のお付きの少年が「大丈夫ですよ」と言った。
意外に高い声に驚いて振り返ると、少年は帽子を目深く被って俯いてしまう。どれだけ恥ずかしがり屋なのかしら。
「お、お嬢様は乗馬にも長けていますから」
「そのようね。あなたを乗せても全く疲れを見せないし、日頃から訓練をされてる騎士みたいね」
「そ、そうでしょうか……」
ただぼうっと突っ立ている訳にもいかないし、私は周囲の石を拾い始めた。休む場所の確保をするためでもあるのだけど。
「何を、されているのですか?」
「薪を組む場所を確保するのよ。少し土を掘り下げて石で囲んでおくと、火をつけた時、風よけになるの」
「……魔術師さんは、博識ですね」
「まぁ、お屋敷で働く人には必要ない知識ね」
魔術師というよりは、野営をする可能性も考慮して身につけた知識だけど。褒められて悪い気はしないわね。
「あ、あの……ぼっ、僕もお手伝いします」
もじもじとした聞き取りにくい声に首を傾げると、少年はきょろきょろと辺りを見回していた。そして、随分小さな石を拾おうとする。本当に、何も知らないみたいね。
「なるべく大きい石が良いわ。持てる程度で良いけど」
「は、はい」
どもりながら返事をした少年は、小さな石を手放すとすぐ傍にある石を指さした。これくらいで良いのかということだろう。
「それくらいが丁度良いわね」
「わっ、分かりました」
しゃがんだ少年は、両手で抱えられる石を持ち上げた。すると、その石の下からぞわぞわと虫が大量に現れた。こればっかりは、私も好きになれないのよね。
「ひっ」
「あぁ、森だから──」
「ひっ……ひやぁあああああっ!」
虫くらいいるわよと笑い飛ばそうとすると同時に、まるで女の子の様な甲高い悲鳴が、少年の口から発せられた。
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