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第一章 冒険者に拾われた僕
19 アラン・手に入らない
しおりを挟む――僕は、アランと行く。
そう、答えたサシャの真っ直ぐな瞳にたじろいだ。
まるで自分の人生全てを懸けるような、出会ってまだ数日しか経っていない俺を、心の底から信頼しているような瞳に息苦しくなる。
サシャは子供だ。
命を拾われて、他に頼る者がいなくて俺に懐いただけだ。
そう分かっていても、一瞬、本気なんじゃないだろうかと錯覚する。
今日もたくさん歩いた疲れからか、サシャは俺の擦り切れた毛布を被って眠ってしまった。ここ最近は自分から天幕に潜り込んでいたのに、今夜は俺の肩……というか腰の辺りにぴったりと寄り添って、安心しきった顔で寝息を立てている。
子供の高い体温が、服の布越しにじわりとにじむ。
「くそっ……」
そう簡単に、人を信用してしてはダメだ。
俺は自分を悪人にするつもりは無いが、善人だとも思っていない。
人を……子供を苦しめる行為は嫌いだが、自分の命と引き換えにするほど、他人に全てを捧げるつもりはない。時と場合によっては奪いもするし嘘もつく。サシャとの約束を破って、見捨てることもあるかもしれない。
そして裏切られたサシャが絶望したとしても、俺の心は痛まない。
自分の命以上に、大切なものなんて無いんだ。
それはきっと、サシャも同じだろう。
そうでなければ早死にするだけだ。
今は俺を信じ切っていても、近い将来、本性を知って後悔する。いくら言葉遣いを直したところで性格は変わらない。
乱暴者で、他人の気持ちを考えることをしない。
自分の思い通りにならなければイライラするし、俺を利用しようとする奴らには痛い目を見せてきた。
誰かと協力して何かを成し遂げようという気が起きない。そんなことをしても、結局は強い者に搾取されるだけだと知っているからだ。だから俺はパーティーを組まず、ずっとソロでやってきた。
俺の命は俺だけが責任を持てばいい。
そして、誰かの命の責任なんが持ちたくは無い。
……だというのに。
「ったく……俺の信条と、ま反対の状態じゃないか」
ただ、みすみす死なせることをしたくなかっただけだ。
子供が死ぬ姿を見たくなかった。
そんなものは……嫌というほど見てきた。弔いもされず置き捨てられ、口にするのもおぞましい、ただの干からびた塊になっていくのを見てきた。それが嫌だっただけだ。
だからサシャが自立するか信用できる人に預けるか……もしくは俺を見限って捨てていくまでの間、面倒を見ると思っただけだ。
やると決めたならやり遂げる。
いや、やり遂げなければならない……。
けど……本当にできるのか? この俺が。無理じゃないのか?
家族のフリなんて、想像できない。
そう……思い悩み、迷いながらこの場所まで来た。
「俺みたいな奴と、旅を続ける気はないだろうとも思っていたのによ」
村が見える場所まで連れて行けば、俺を置いてさっさと行っちまうだろうと思った。そうすることに賭けていた。賭けは、見事外れてしまったが。
きっとこんな関係は、一年と持たないだろう。
サシャが、俺を信頼し続けるとは思えない。
村に着いたなら。
いや、その先の小さな町に着いたなら。
どんなに遠くてもカサル町に着く頃には、きっと俺から逃げ出す。それでいい。もし、万が一にも逃げ出さず付き従うようなら、一日でも早く信用できる預け先を見つけるだけだ。
一度別れればそれで終わりだ。元の、赤の他人になる。
やがてサシャは俺のことを忘れて大人になっていくだろう。俺なんかじゃない、本当に大切にしてくれる人たちに囲まれて、幸せな一生を送ればいいんだ。
そこに俺は居なくていい。
ぼんやりと、焚火を見つめる。
「俺は……サシャの幸せの中に居なくていい」
誰かに愛されるなんて……どうせ、そんなものは一生、手に入らない。
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