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第4章 たいせつな人を守りたい

128 ヴァンの姿 ※

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 いつも……俺の方が、ヴァンに抱きしめられていた。

 不安にならないように。怖い夢を見ないように。心から安心して過ごせるようにと、大切にしてくれる。最初の出会いで不安と恐怖から倒れてしまったせいだろう。
 そんな腕の中で俺は心から満たされ、あたたかさを知って……いつしか同じようにヴァンを抱きしめたいと願い始めていた。
 俺も大きく強くなれば、ヴァンを抱きしめられる。
 大切な人を守れるようになる。

「リク……」

 優しい声に、俺は心地いい眠りから目覚めた。
 窓からの薄いカーテン越しに、明るい日ざしが降り注いでいる。俺の腕枕で横になっていたヴァンが、胸もとから見上げていた。

「そろそろ起きようか」
「ん……おはよ、ヴァン……」

 目をこすりながら起き上がる。まだ、迎えの召使いは来ていないみたいだ。部屋には俺とヴァンの気配しかない。
 のせていた頭から腕を引くと、思ったほど痺れていなかった。

「……俺、ゆうべからずっとこの体勢、だった?」
「いや。でもよほど僕を抱きしめたかったのか、寝返りしてもすぐまた抱きしめてくれていたよ」
「え……も、もしかして寝苦しかった?」

 きつく抱きしめすぎたりしていなかっただろうか。
 心配する俺に、「嬉しかった」と言葉が返る。そして同じようにベッドの上で身体を起こしたヴァンが、寝グセで跳ねたクリームイエローの髪を掻きながら微笑んだ。
 明るい緑の瞳がキラキラしている。
 毎朝見ている姿だけれど、ほんとカッコイイ。見惚れてしまう。そんな人が、俺を求めてくれるとか……。

「うっ……」
「ん?」

 ……やばい、朝から……いや、朝だから、元気だ。
 今日からこれから大切な仕事が始まるっていうのに。
 すっ、と背中を向けた。けれどヴァンはお見通しとでも言うように、俺のうなじをキスしながら寝間着の上から腹の辺りと、その下の方へ手を伸ばしていく。

「こっちも起きた?」
「そ、そんな言い方やめろよぉ……」
「……可愛いな」

 顔を熱くして振り向くと、おはようの口づけて迎えられる。
 それもいつもよりずっと濃厚な、キス。
 夕べの食事の前の時の……ような……。

「ん……っん……」

 するすると服を脱がされ、抵抗する間もなく裸に剥かれた。
 ヴァンの大きな手のひらが元気な俺を根元から優しくしごき上げ、たちまち気持ちよさの中に溺れてしまう。

「……は、ぁ、んっ……ヴァン、今……そんな……」
「うん、もうすぐ迎えが、来てしまうね」

 分かっていて駆り立てる。
 いや、だからこそ性急なぐらいの手つきで俺を気持ちよさの中に導いていく。ベッドに再び横たわった俺は、全てをさらけ出すようにして枕に頭を押し付け、端を握った。

 今……窓からの明るい光の中で、俺の姿は隅々までヴァンの目のさらされている。
 それがたまらなく恥ずかしいのに、嬉しくて、感じてしまう。

「ん……ぅ、ん、ぁ……」
「今日も綺麗だよ、リク」
「は……ぁ……」

 ……気持ちいい。
 全身を巡る甘い痺れに身体をゆだねながら、熱い息と共にヴァンを見上げた。
 ヴァンは蕩けるほど優しい瞳で見降ろし、深い口づけと浅いキスとを交互に繰り返す。絶頂へと導く指の動きに抵抗できず、身をゆだねていく。

「ぁぁあ、ぁ……ぅ、――んんっ!」

 びくん、と身体が跳ねた。
 一呼吸遅れて、俺の腹や胸に白濁した精が撒かれる。くたり……と抜けていく身体の力。
 涙目になりながら見つめ返すと、ヴァンは胸や腹に散った俺のを親指の先でぬぐってから、ぺろりと舐めた。

「濃い……ね」
「……ヴァン……」
「朝の湯あみを、しようか」

 もぅ……本当にこの人は朝から元気だ。俺もだけれど。
 そのまま抱きかかえられるようにバスルームに向かって、そこでは元気なヴァンの精を受けて、どうにか身ぎれいに整えたタイミングで召使いたちが部屋のドアを叩いた。
 時間、ぴったりすぎて計っていたんじゃないかっていうぐらい。



 朝食もいつもより軽めの感じだった。
 俺の分はそれなりにしっかりあったけど、本当にヴァンは足りるのかな? って心配になるぐらいだ。俺が心配するようなことじゃないんだけれど。
 食後に一息ついている間に儀式の法衣が運び込まれ、身支度を整える準備が進められていく。そのタイミングでジャスパーが部屋に訪れた。

「おっ、スッキリした顔してるな。よく眠れたか?」
「眠れたし、いい目覚めだったよ」
「はいはい、ごちそうさま」

 ニヤニヤ笑いながら、ヴァンの体内の魔力の状態をチェックする。ジャスパーはうん、と頷いて俺たちを見た。

「過去最大に調子がよさそうだ」
「リクの力で僕も魔力を増強エンチャントされたかな」

 笑いながら見つめる。その視線に夕べや今朝のことを思い出して、俺は顔を熱くした。
 首元につけた守りの魔法石が、チリチリと音を鳴らすように反応している。
 召使いたちの手を借りながら術の法衣に着替えるヴァンは、数歩離れた場所で見守る俺へ確認するように言った。

「ちゃんと身に着けているね」
「これ? うん、この石はヴァンにしか外せないものだから大丈夫だよ」
「その守りを身に着けていても、決して油断しないで」

 白を基調とした重厚な生地に、複雑な模様を刺繍したローブを身にまといながらヴァンが言う。

「今年はこのヘイストンの護りに違和感がある。想定外のことが起るかもしれない」
「それ……俺の魅了が関係していたりする?」
「まだ何とも言えないな。他国の妨害は毎年少なからずあるからね」
「まぁ、でもここまで顕著けんちょなのは、ここ数年無かったんじゃないか?」

 ヴァンの言葉にジャスパーが続いた。
 身支度を整え終え頷き返したヴァンは、真剣な表情で俺を見つめる。

「リク、この部屋の護りは特に強固にしてある。何か不安や異変を感じたなら、ここに逃げ込みなさい。そうすればまず安全だ」
「分かった。でも……できるだけ、ヴァンのそばで見守りたい」

 毎年どんなふうに辛い勤めに従事していたのか、俺は目をそらさずに見守りたいんだ。





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