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第3章 成人の儀

113 濡れた瞳で微笑み返した ※

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 おかしくなったのは、この悪い大人のせいだからと……そう言ってうっとりと見つめる人を俺は見上げて、胸がまたじん……と痺れた。
 何だかんだと言って、悩まないように逃げ道を作ってくれる。

「もう……」

 じわ、と目の奥が熱くなった。
 ゆるむ瞼を隠すようにヴァンの胸に顔を押し付け、背中に両腕を回す。そのまま、きゅ、っと抱きしめ返しながら俺は呟く。

「なんで……そんなに俺のこと、甘やかすんだよ……」
「……可愛いからね」

 囁く声が鼓膜こまくを優しく撫でた。

「可愛くて、いろいろいじりたくなる。成人するまでは手を出さないと、我慢していた反動もあるかな……」

 そう言って、俺の耳たぶを優しくむ。
 本当に、成人の儀を過ぎるまでは、おでことか頬にあいさつ程度のキスで、それ以上のことは何もしなかった。眠る時だって抱き枕みたいに抱きしめられはしても、欲情したような触り方は一度も無い。
 少なくとも俺が知る限りでは。
 大切にしてはくれていても、恋愛対象外なんだろうな……と俺が思い込んで悩んだぐらい。

 でも今は恋人みたいなこと……いっぱしてくれる。それは俺のこと、可愛い、って思ってくれるからで……。
 俺は自分のどこが可愛いのか、よくわからない。
 自覚なんかないから、気づいたら可愛くない俺になっていた……なんてこともあるかもしれない。それは……ちょっと、哀しい。

「もし……俺が可愛く無くなったら……もうこんなことしてくれなくなるの?」
「こんなこと?」

 くすくす笑いながらきき返す。

「……ってなんだろう?」

 ふと、今の恥ずかしいことをリアルに思い出して、びくん、と身体が反応した。わかっているくせに、そうやって俺の劣情れつじょうをあおるのだから。

「き……気持ちいい、やらしい……こと、とか」
「んんん……どうかな?」

 笑いながらヴァンは悩むふりを見せる。
 見せてから俺の唇を軽くんで、舌先で舐める。俺は抵抗も何もできず、うっとりと見上げながら唇を開いた。

「……ぁ……」

 また、舌でたくさん気持ちよくされるのかと思うと、期待で身体の力が抜けてしまう。ざわざわし始める。

「ほら……どんどん可愛くなっていくのに、そうじゃないリクなんて想像できない。いやらしいことも恥ずかしことも……たくさん、したい……」

 低い声で囁く。

「……とろとろに、とかして……甘やかして……かせて」
「んっ……」

 思わず顔をらした。声だけでイきそうだ。

「そ……そんなに甘やかして、俺が、我がままになったらどうするだよ」
「そのぐらいでいいよ」

 熱い息が首筋に触れる。
 また俺の芯が、硬く熱を持ち始めていく。

「図に……乗るよ」
「図に乗りなよ」

 クッションから抱き起こして襟を大きく広げ、肩からジャケットをするりと落とした。俺は何の抵抗もせず、されるまま裸にかれていく。

「リクは我が儘を言っても、人の嫌がることはしないでしょう?」
「……そんなの、わかんないよ」
「しないよ。リクは優しい子だし……」

 俺を真っ直ぐに見つめる、心の底まで見通すような緑の瞳でヴァンは囁く。


「孤独の寂しさを知っているから」


 優しく、俺の髪を長い指で梳いて紡ぐ。 

「だから、本当に人が悲しむようなことはしない。違う?」

 胸が痛い。
 俺が……俺自身が言葉にできずに抱えているものを、ヴァンは知っている。知っていて、俺の全てを受け入れてくれる。

「……元の世界で誰にも甘やかしてもらえなかったなら、その分、僕がとろとろになるまで甘やかすよ」

 とろけるような告白が、俺を包む。

「誰にも愛されなかったなら僕が……どこまでも、リクを、愛するから……」
「ヴァン……」
「愛しすぎて、時々いじめたくなるし食べたくもなってしまうけれどね」

 ふふふ、と笑いながら、俺の背中や腰に大きな手のひらを這わせた。俺は気持ちの良さに身体をくねらせ、熱い息を吐いてから、顔を向ける。
 
「ヴァンが……悪い大人でもいい」

 たまらない気持ちで唇を合わせた。

「全部好き」
「うん」

 深く唇を合わせるとかすかに苦い味がして、あぁ……本当に、俺の全部を飲み込んでくれたのだと実感した途端に、づくん、と身体が疼いた。
 俺の変化に気づいたヴァンが笑う。

「ふふ……本当に、僕以外の人に触らせたりしたら、お仕置きだからね」
「……う」
「もっと、恥ずかしい方法で……おかしくさせるよ」

 どんな方法なのか想像できない。想像できないだけに、期待している俺がいる。なんか……いいようにやられっぱなしなんて、悔しい。

 キッ、とにらむようにヴァンを見返した。

「お、お仕置きなら、ヴァンのもやらせろ」
「んん? それは……僕のを舐める、ってこと?」

 頷き返す。俺だって恥ずかしいこといっぱいできるぞ。いじめることだって。どうだ困っただろう。
 さすがに許してって……言う、かな?

 ――と思ったのに。

「嬉しいな」
「えっ?」
「リクのこの可愛らしい唇で、僕のをしゃぶってくれるの?」

 親指の腹で唇を撫でられた。

「……あ」

 さっきより、もっと貪欲にギラギラした瞳が俺に向けられる。
 俺……もしかして、ヴァンの変なスイッチ、入れてしまった?

「僕のを咥えて……」

 指先が俺の歯列を割って、舌や上顎うわあごを優しく撫でる。

「舐めて、喉の方まで突き入れて……匂いも……」

 硬く大きくなったヴァンのを想像して、ぶるり、と身体が震えた。俺の手を持って、ヴァンは自らの股間に持っていく。
 そこにはもう、猛りきってスラックスの前を押し上げているヴァンがいて。

「全部、口の中には入らないんじゃないかな?」
「……ぁああ、う……」
「それに……僕のはきっとすごく、濃くて……多い、よ」

 想像してしまう。
 飲み切れなくて、はしたなく口からあふれたヴァンの精液が、俺の喉や胸までべたべたにしてしまう姿を。

「……服もソファも、汚してしまうだろうな……どうする?」

 俺は裸に剥かれていても、まだヴァンはきっちり衣装を身に着けている。この礼服を汚さないように全部飲む、なんて、無理な気がする。けど……。

「無理しない方がいい」
「む、無理じゃないっ! ヴァン、を気持ちよく、させたい……」

 意志を貫くように言ったら笑って抱きかかえられ、寝室のベッドに放り投げられた。キングサイズと言ってもいい大きなベッドはスプリングが効いているのか、軽く俺の身体が跳ねる。
 その隙にヴァンは自分の衣装を脱ぎ捨てて、ギシ、とベッドに膝をつく。
 ベッドサイドの淡い光の魔法石が、逞しい身体の輪郭を浮かび上がらせる。

 地下道や迷宮で、探索とか魔物退治をしているヴァンの身体は引き締まっていて、肩とか胸の辺りの筋肉も厚い。ムキムキ、ではないのに、骨が太い……というのか、多少の力じゃびくともしない力強さがある。
 やっぱり……すごい、カッコイイ。

「ヴァン……」

 ここがヴァンの実家だとか、隣の部屋には護衛達がいると聞いていても止められない。大きな声を出さないように……我慢、はするけど、恥ずかしい声を聞かせることになっても、ヴァンと肌を合わせていたい。
 俺は膝立ちになってヴァンを引き寄せた。

「好き……ヴァン、好きだ……おかしくなるぐらい、ヴァンが好き」
「うん」

 抱きしめ合ってから、横になったヴァンの膝の間に移動する。
 血管を浮き上がらせてそそり立ち、びくん、びくんと期待に震えるヴァンのものを両手で包む。
 本当に大きい。
 俺、これをいつも下の方の口で飲み込んでいたって……ことだよね。
 きっと、丁寧に丁寧にほぐしてくれていたから、できたんだ。

「んっ……」

 ぞく、とまた甘い痺れが走った。
 悪い大人に悪いこと教えてもらって、するの、すごい気持ちいい。
 そっと舌を伸ばし、裏筋を舐める。雄の匂い。でも大好きなヴァンのなら、嫌じゃない。熱くて芯をもったそれに、俺は頬を寄せてから唇をつける。
 ヴァンの手のひらで優しく俺のうなじから後頭部を撫でて、髪の中に指先をさし入れた。

「嬉しいな……」

 熱に浮かされる声に、俺は濡れた瞳で微笑み返した。





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