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第3章 成人の儀
90 やってしまった……
しおりを挟む僕のそばでリクが眠る。
ベッドの中で僕のシャツの端をきゅっと握り、時々「ヴァン……」と僕の名を囁きながら、膝を丸めて静かな寝息をたてている。
初めて出会ったころから食事の量も増えたし、背も伸びた。十八になり、大人として皆に祝福されてもなお、実際の年齢より二、三歳は若く見える。
僕にとってはやはり、初めて出会った頃の小さなリクのイメージが強い。
迷子の子猫のように、こちらを気にしてそっと近づきながらも、手を出せば警戒して距離を取る。何度も「大丈夫だよ」と安心させてやっと、僕の手を取るようになった。この喜びは、他に例えようがない。
「……出会った時から、気付いていたんだよ」
泥の中に埋まっていた希少な宝石の原石のように、気づく者しか気づけない魅力を、僕はよくわかっていた。
正しく導けば、国でも類を見ない魅了持ちの術師になれるだろう可能性も。
魂の純粋さや、素直さ。
同時に人に頼ることもできず、自分の価値を認められないほど深く傷ついているとも。
こんなに美しいのに、なぜ彼の世界の者たちは、リクを無下に扱ったのか。
放置して、孤独にさせ。
寂しい思いをさせて。
不安にもさせてた。
自分を大切にすることを教えなかった。
それが悔しくて、胸が焼かれるようだということをリクは知らない。
一見みすぼらしい姿でいても、彼の中の美しさは隠せないというのに。
そう……リクは美しくなる、という確信があった。
男の子に可愛いと言っては怒られるかもしれないが、リクはとにかく可愛くて、想像以上に美しくなった。
あまりにも理想の通りで、困ってしまうほどに……。
星と月を抱いた夜空を絹の糸に変えたような、滑らかで艶やかな黒髪。光の加減で青や紫にも輝く、真っ直ぐに見つめる黒い瞳。整った眉と長い睫毛。
無垢な卵のように白い肌と、薄紅の、小さな花の蕾を思わせる唇。
ほっそりとした顎と首筋。
「リク……」
体毛の薄いなめらかな胸には、ぷっくりと柔らかな乳首がある。筋肉のつきにくい体質なのか、大人になる前の少女を思わせる腰や背に、弾力のある尻。すらりと伸びた足。
そして唇と同じ色合いの男性器と、後ろの……窄まり。
リクが男と分かっていても抱くことに躊躇は無かった。
そして決して傷つけまいとしていたのに、歯を立ててしまった……。
ぱたりと本を閉じて、僕は片手で頭を抱える。
やってしまった。
出会ってから二年半。ずっと我慢していた反動がきている。
ジャスパーにも散々警告されたことだと言うのに、自分でも驚くほど抑えが利かなくなっている。下手な我慢はするものではなかったと、心から後悔しているぐらいだ。
火の魔法をマスターしたいと言うリクに、悪戯心を起こしたのは三日前のこと。
魔法石に火を点すのではなく、自分に身体を熱くさせてしまうリクの不器用さを微笑ましく眺めていた。石と相性のいい者にはよくあることで、熱を霧散させるように少し相手をすれば満足して落ち着く。
だからわざと胸や背中を弄り、想像通りに簡単に達してしまったリクを見て、そこで終わらせてしまうつもりでいた。
つもりだったのに……リクの魅了の力は僕の防御を易々と無効化してしまった。
気がつけばリクの耳を舐め、これは、僕にも飛び火したな……と感じてはいても止められなかった。
直接触って欲しいとねだられて。
僕の猛りをこすりつけ、甘く苦しい快感に抗いつつ、どこまでも美しいリクの背中に吸い寄せられた。感じまくるリクの声が、あまりにも可愛くてしかたがなかった。
可愛い、可愛い、愛しい、食べてしまいたい。
意識も心もリクに奪われて、理性の手綱を手放した。
僕に対して魅了の力を使っているのだと、気づいていても抵抗しようという気すらおきなかった。
「絶対にリクを傷つけたくなかったというのに……」
玉のように白く美しい肌に歯を立てた。事を終えて直ぐに治癒の魔法をかけたから、深い傷痕が残るようなことは無いが、まだ数日は赤みが消えないだろう。
欲しい欲しいと、ねだるリクがたまらなく可愛いくて、バラバラになるまで抱きしめたくなる。
「悪い子だ……」
額にかかる髪をそっと払う。
こんなに大人を夢中にさせるなんて、本当に悪い子だ。そんな子はずっと、この家に閉じ込めてしまうぞ……と、胸の内で思い、苦笑いする。
そう……僕にはリクを閉じ込めてしまうことなど、簡単にできてしまう。
僕以外の人間の記憶を消して、僕と、この家の中を世界の全てにしてしまう。食事も何もかも、僕からしか受け付けないようにさせることもできる。
朝から晩まで快楽だけを与えて。
甘い鳴き声を出させ、僕の名前しか呼ばせない……。
「……困ったものだ」
夢中になってしまう予感はあったが、予想以上だ。
リクに元の世界の全てを捨てさせた。だから、この世界で自由に、行きたい所があればどこでも自由に行って生きられるようにする。
その誓いは今もある。
揺るぎなく、僕の中にある。
……あるのに。
朝から晩まで抱いていたい。
リクの中の、あの蕩けるような心地の肉の中に、ずっと僕自身を埋めておきたい。誰にも触らせない、僕だけの場所だ。僕にしか許されていない、深い場所。
甘い毒に冒されたように、幸せで満たされる熱い場所に。
「んんっ……」
リクが綺麗な眉を歪ませて、小さく呻いた。
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