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第3章 成人の儀

74 ずっとリクが欲しかった ※

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「逃げ……る?」

 思いがけない言葉に俺はヴァンを見上げる。
 ヴァンは俺が逃げるとでも思っているのだろうか。逃げたいなんて思うわけが無い。ずっと、望んでいたことなのに。
 それとも逃げて欲しいのか?
 逃げて欲してくて、ヴァンは強引な手にでたのか?

 沈黙が漂う。

 俺は……ヴァンを真っ直ぐに見上げる。

「逃げない」
「リク……」
「絶対、逃げない俺は――」
「ここから先、僕はもう止められないだろう。リクが思う以上に僕は嫉妬深くて独占欲が強い。一生、手放さない」
「だったら!」

 俺を横に着く腕を掴んで、声を上げる。

「だったら手放さないで! 止めなくていい! 最後まで。どこまでも……」

 俺の気持ちはとうの昔に決まっている。

「最後まで受け止めたい。欲しいんだ。俺がこの世界で生きると決めたあの時が、俺にとっての最後のラインだったのだから……」

 自覚していなかっただけで、この世界で生きると決めたあの時には、もう既に、俺はヴァンに惹かれていた。
 望んでいたのは俺だ。
 生まれて初めて、なにをしてでも欲しいと思った人なのだから。

 ヴァンの腕を掴む、俺が指が震えてくる。

「……だから、もぅ……これ以上、俺を待たせないで……」

 ここから先、何が起こるのか正直俺はよくわかっていない。
 散々抱いてほしいと言いながら、具体的にどうするのか分からないまま、誰にも教えてもらわないままに来た。それでも、ヴァンを拒絶するとか逃げるとか、そんな気持ちは微塵みじんも起きない。

 ただ……ヴァンの熱が欲しい。

 匂いに包まれて、直接、感じたい。

 孤独でいるのが当然と思う自分じゃなくて、俺も、人を求めて求められるような……幸せを感じて受け止められるようになりたい。

 それだけなんだ。

 それをられるなら、どんなことが起きてもいい。

「ヴァン……」

 唇が重なる。
 俺はヴァンの首に、肩に、腕を回す。
 耳元で低く囁く声がある。


「……僕はずっと、リクが欲しかった」


 きゅぅう……と胸が絞られた。
 この苦しいほどの感覚を、どうしたら言葉に出来るだろう。
 本当に? と問い返す間もなく、重なる唇の間から、もっと熱く濡れた舌が俺の歯列を割って入る。かすかに甘味の残る唾液に、俺の喉が鳴る。
 絡んでくる舌にどう応えればいいんだ。
 ただ、嬉しいの気持ちをどうにかしたくて……ヴァンの舌を受け入れ、同じように絡め、上顎を、喉を弄られるままに受けとめる。
 呼吸が乱れて、息が続かなくなっていく。

「……ぁ……んんっ、んっ……っあ、は!」

 ヴァンの肩に回した指が、息苦しさで力が入る度に唇が離れた。
 貪るように呼吸を繰り返し、激しく上下する胸が落ち着くとまた、角度を変えたヴァンの唇が深く重なってくる。舌が、奥まで入り込んでくる。
 喰われているようだ。
 俺の舌を吸い、喉の奥ぎりぎりまで舐めねぶる。苦しさと同時に、身体の芯を痺れさせる、何かスイッチでもあるんじゃないかという感覚。
 ぞくぞくする。
 痺れと熱で、火花が散っていくような。

「……んんっ、あ……ふ」

 枕に深く沈む、俺のうなじに汗がにじむ。
 体中がじんじんと痺れるようで、かかとでシーツを蹴る。

「んんっ……ん、は……ぁあ、んっ……ヴァ、ン……」

 下半身が、甘く、重くなっていく。 
 止めないでと言ったのは俺なのに、変化していく自分の身体に戸惑い、恐怖が頭をもたげる。俺は俺の身体をどうあつかっていいのか分からない。

「リク……」
「……ぁあ……あ……熱、い……」

 離れた唇で空気を求める。
 ヴァンは、俺の耳元や首筋に唇を這わせながら、俺のシャツの胸元を開いていく。汗でしっとりと濡れた胸の上を、大きな手のひらが這う。

「きれいだ」

 俺の喉元で、チョーカーと繋がった守りの魔法石が光を反射させた。
 少し身体を起こしたヴァンが、低く囁く。

「……とても、綺麗だ……」
「ヴァ、ン……」
「……ここも、ここも……」
「ぅう……ぁ、あ」

 ヴァンの指が、喉元から胸へとなぞっていく。
 その先は膨らみも何も無い胸と突起で、なのにヴァンは嬉しそうにその先端を指先でなぞり、ゆっくりと、ゆっくりとこねていく。

「……ヴァン……そこ……」
「うん、綺麗な色だよ」

 くにくにと指の腹で撫で、遊ぶ。
 胸の先なんて自分で触っても何も感じないのに、変だ。ヴァンが指の腹でこねている内に、ざわざわと甘い痺れが起きてくる。

「……感じる、の?」
「わ、からない……」

 きっと俺はすごく困ったような顔をしているのだと思う。
 だって、そんな……男の俺には生涯なんの役にもたたないような、あっても無くてもいいような場所を、ヴァンがうっとりしながら撫で、こねるだけで――。

「こんなに、ぞくぞくしてくる、なんて……」
「……知らなかった?」

 シャツの胸元を大きく広げる。
 両肩から腕に引っかかっているだけの、胸から腹まではだけた状態でヴァンの目の前にさらさされる。

「リクはすごく、感じやすい……ね」

 指先で摘まみ、こねている左の先端とは反対の、右の方をヴァンが口に含んだ。

「あぁぁ……っ!」

 反射的に背筋が沿って首がのけ反る。
 さっきまで俺の口の中で散々舌を舐めねぶっていたヴァンの舌が、俺の胸を突起を舐め、こね、歯で甘く噛んで吸う。同時に反対の胸も指先で、潰しなぞられ、つまみ上げられた。
 思わずヴァンを押しのけそうになった、その両手首を大きな手でクロスする形で捕まれ、頭の上で枕に押し付けられる。ベッドに縫い付けられる。

「……ぁぁあ、そ、こ……」
「きもちいい?」
「う……ぅう、う……ぁ……」

 腕の自由がきかなくなる。ただそれだけでも、ヴァンが、俺を強く求めているように感じてぞくぞくしてくる。
 俺、変だ。おかしいよ。
 逃げるつもりは無くても、逃げられない、逃がしてもらえないと思うだけで、たまらない気持ちになってくる。
 胸をいじる、ヴァンの熱い舌と指が止まらない。

「うん……口と指、どちらが……いい?」

 ヴァンの嬉しそうな囁き声と共に、とろけそうになる。

「……ぁあ、あ……どっち、も……」
「どっちも?」

 息が……胸や首元をくすぐる。

「……んぅ……う」
「赤く色づいてきた」
「そんなに……同じとこ、ずっと……」

 薄目で開けて見ると、弄られすぎて敏感になった胸の先が目に入る。
 さんざん指先でいじられ赤く立ち上がったそれと、舌で濡れた胸と……明るい色の前髪の隙間から俺を見つめる、緑の瞳。唇の端を上げ、囁く。

「リクの気持ちのいい場所、全部、おしえて……」

 ひりひりするぐらい敏感になった先端を、ヴァンが甘く噛んだ。




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