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草むしりむしり #3
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「やばいね、これ」
墓石がほとんど隠れるほど草が生い茂っているのは、さすがにいただけないと思った。
一体どれほど放置されていたのだろうか。
『そうなの』
悲しそうな顔をしてクララを見つめるリジー。しかし、すぐに笑顔になった。
『そ、れ、で! クララにはここの掃除を命じます!』
リジーはビシッと人差し指を立ててクララをさした。
「掃除って、えっ! ま、まじか…… 」
『マジもマジ、おおマジです!』
「ふええぇ…… 」
がくりと肩を落とすクララ。
『でも、これならできるでしょ?』
「そりゃあそうだけどもさあ…… 」
『ということで、よろしくねクララ』
にこりと笑うリジーの瞳の奥は、今度は冷たくなかった。
草むしりをはじめてしばらくすると、どこかで嗅いだことがある甘い匂いが鼻先をくすぐった。
スンスンと鼻を鳴らしてみる。どうやら、お墓の横に群生している雑草から漂ってきているようだ。
クララは甘い匂いのする草の葉っぱを千切ると、なんとなく太陽にかざしてみた。
葉は一枚一枚が細長く、その周りはギザギザと尖っている。千切ったものが若葉だったのか、太陽の光に照らされ青々とした姿がどこか神々しく思えた。
『クララ、何してるの?』
突然、後ろから声をかけられビクッと肩が跳ねる。
「な、なんでもないよ。ただちょっとなんの草かなと思って見てただけ」
『草?』
リジーは不思議そうな顔をして小首を傾げている。
「そう。この甘い香りがする草」
クララは先程眺めていた葉っぱをリジーに差し出した。リジーはそれを受け取ると、くんくんと匂いを嗅いで『うーん』と唸って何か考えているようだった。
「まぁ、ただの雑草だろうけど。さてと、どんどんきれいにしちゃおうか!」
『あっ! 思い出した!』
リジーが急に大きな声を出したので、クララは再び肩がビクッと跳ねた。
「ちょっとリジー! びっくりするから!」
『あっ、ごめん。えっと、この草のこと思い出したの』
「思い出した?」
『そう。この草の名前は【小夜草】って言って、幻覚作用を引き起こす草だった……はず?』
可愛らしく小首を傾げるリジー。
「はずって私に言われてもねぇ」
やれやれと少し呆れた様子のクララ。
『そうだ! 乾燥させて粉にして、固めて火をつけると頭がぽわわわーんってなって幻覚見えたりするらしいよ!』
意気揚々と語るリジー。
「リジーのそれは一体なんの受けう…… 」
クララは思い出した。
以前に自宅で降霊術といって同じ匂いを嗅いだことを。
——もしかして、私が体験したのは、幻覚……?
幻覚だとするとクララ自身が内容を覚えていてもよいはずだが、しかし微塵も記憶にない。なぜそうなったのかはわからないにしても、得体のしれないモノの影響ではないことが知れただけでクララは少し安心した。
『えっと、学校の図書室で読んでた本に書いてあったの』
「学校の図書室?」
確かに、聖ブリンクリー学園の別棟の一階には大きな図書室がある。蔵書数もなかなかなもので、時々、偉い学者の人が本を探しにくることもあるのだとか。ただ、基本的には学校の生徒か先生しか利用できないことになっている。
『そう! 暇な時によく行くの。いっぱい本があるし、人も少なくて静かだからね』
にししと嬉しそうに話すリジー。
しかし、足しげく図書室に通う八歳の女の子のお化けとはまた……
「そうなんだ。で、リジーが見た本にぼんぼじゅわわぁって書いてあったっってことね」
『そうそ……って違う! ぼわわーんだよ! ……ぼわわーんだっけ?』
「どっちでもいいわ!」
顎に指を当て不思議そうにするリジーにツッコミを入れるクララ。
『そう言えばその草。先生たちもたまに使ってたよ』
「えっ⁉︎」
唐突にリジーはとんでもないことを言い出した。
「先生、たちが、使ってた?」
恐る恐る聞き返す。
『そう。なんかみんな楽しそうにしてた』
生徒たちを教育する学び舎で、幻覚が見える葉っぱを使って、楽しそうにするとは……
『場所は空き教室で、時間帯は深夜が多かったかな』
「えっと、ちなみにその先生たちって誰かわかる?」
恐る恐るクララは聞いた。
『うーん。ちょっと暗くて見えなかったけど、体育を教えてる先生と保健室の先生はいたかな。それと、先生じゃないけど前に学校に来てた金髪の女の人はいたかも』
「金髪の女の人?」
『そう。うねうねした金髪で、おっぱいも大きくて。確か、昼間に見た時はスーツでビシッと決めてたかな』
「えっと、その人は昼間に学校に来てたの?」
『うん。校長室で私のこと話してた。確か——高齢化がどうとか言ってた!』
「高齢化? 高齢……降霊術じゃなくて?」
『そう、それ! 降霊術!』
「そっか……」
まさかとは思ったが——恐らく彼女のことだろう。
『校長先生も、夜の集まりにはいたよ』
「えっ!」
再び呆気にとられるクララ。
——メレディス校長も参加していたのか……
『多い時で十人はいたと思う。ぽわわーんってなるのを香炉で焚いて、最初はずっと喋ってて、面白いのが目がとろんとし始めたらみんな服を脱ぎだすの。全員が裸になって、アクマよ、来たれとか、私を捧げるとか…… 』
「リジー! それ以上は言わないでいいから‼︎」
クララは怒鳴りつけるようにリジーの言葉を静止した。
そして、気分は最悪だった。
『えっと、クララ……ごめん』
しゅんと項垂れ、今にも泣き出しそうなリジー。
墓石がほとんど隠れるほど草が生い茂っているのは、さすがにいただけないと思った。
一体どれほど放置されていたのだろうか。
『そうなの』
悲しそうな顔をしてクララを見つめるリジー。しかし、すぐに笑顔になった。
『そ、れ、で! クララにはここの掃除を命じます!』
リジーはビシッと人差し指を立ててクララをさした。
「掃除って、えっ! ま、まじか…… 」
『マジもマジ、おおマジです!』
「ふええぇ…… 」
がくりと肩を落とすクララ。
『でも、これならできるでしょ?』
「そりゃあそうだけどもさあ…… 」
『ということで、よろしくねクララ』
にこりと笑うリジーの瞳の奥は、今度は冷たくなかった。
草むしりをはじめてしばらくすると、どこかで嗅いだことがある甘い匂いが鼻先をくすぐった。
スンスンと鼻を鳴らしてみる。どうやら、お墓の横に群生している雑草から漂ってきているようだ。
クララは甘い匂いのする草の葉っぱを千切ると、なんとなく太陽にかざしてみた。
葉は一枚一枚が細長く、その周りはギザギザと尖っている。千切ったものが若葉だったのか、太陽の光に照らされ青々とした姿がどこか神々しく思えた。
『クララ、何してるの?』
突然、後ろから声をかけられビクッと肩が跳ねる。
「な、なんでもないよ。ただちょっとなんの草かなと思って見てただけ」
『草?』
リジーは不思議そうな顔をして小首を傾げている。
「そう。この甘い香りがする草」
クララは先程眺めていた葉っぱをリジーに差し出した。リジーはそれを受け取ると、くんくんと匂いを嗅いで『うーん』と唸って何か考えているようだった。
「まぁ、ただの雑草だろうけど。さてと、どんどんきれいにしちゃおうか!」
『あっ! 思い出した!』
リジーが急に大きな声を出したので、クララは再び肩がビクッと跳ねた。
「ちょっとリジー! びっくりするから!」
『あっ、ごめん。えっと、この草のこと思い出したの』
「思い出した?」
『そう。この草の名前は【小夜草】って言って、幻覚作用を引き起こす草だった……はず?』
可愛らしく小首を傾げるリジー。
「はずって私に言われてもねぇ」
やれやれと少し呆れた様子のクララ。
『そうだ! 乾燥させて粉にして、固めて火をつけると頭がぽわわわーんってなって幻覚見えたりするらしいよ!』
意気揚々と語るリジー。
「リジーのそれは一体なんの受けう…… 」
クララは思い出した。
以前に自宅で降霊術といって同じ匂いを嗅いだことを。
——もしかして、私が体験したのは、幻覚……?
幻覚だとするとクララ自身が内容を覚えていてもよいはずだが、しかし微塵も記憶にない。なぜそうなったのかはわからないにしても、得体のしれないモノの影響ではないことが知れただけでクララは少し安心した。
『えっと、学校の図書室で読んでた本に書いてあったの』
「学校の図書室?」
確かに、聖ブリンクリー学園の別棟の一階には大きな図書室がある。蔵書数もなかなかなもので、時々、偉い学者の人が本を探しにくることもあるのだとか。ただ、基本的には学校の生徒か先生しか利用できないことになっている。
『そう! 暇な時によく行くの。いっぱい本があるし、人も少なくて静かだからね』
にししと嬉しそうに話すリジー。
しかし、足しげく図書室に通う八歳の女の子のお化けとはまた……
「そうなんだ。で、リジーが見た本にぼんぼじゅわわぁって書いてあったっってことね」
『そうそ……って違う! ぼわわーんだよ! ……ぼわわーんだっけ?』
「どっちでもいいわ!」
顎に指を当て不思議そうにするリジーにツッコミを入れるクララ。
『そう言えばその草。先生たちもたまに使ってたよ』
「えっ⁉︎」
唐突にリジーはとんでもないことを言い出した。
「先生、たちが、使ってた?」
恐る恐る聞き返す。
『そう。なんかみんな楽しそうにしてた』
生徒たちを教育する学び舎で、幻覚が見える葉っぱを使って、楽しそうにするとは……
『場所は空き教室で、時間帯は深夜が多かったかな』
「えっと、ちなみにその先生たちって誰かわかる?」
恐る恐るクララは聞いた。
『うーん。ちょっと暗くて見えなかったけど、体育を教えてる先生と保健室の先生はいたかな。それと、先生じゃないけど前に学校に来てた金髪の女の人はいたかも』
「金髪の女の人?」
『そう。うねうねした金髪で、おっぱいも大きくて。確か、昼間に見た時はスーツでビシッと決めてたかな』
「えっと、その人は昼間に学校に来てたの?」
『うん。校長室で私のこと話してた。確か——高齢化がどうとか言ってた!』
「高齢化? 高齢……降霊術じゃなくて?」
『そう、それ! 降霊術!』
「そっか……」
まさかとは思ったが——恐らく彼女のことだろう。
『校長先生も、夜の集まりにはいたよ』
「えっ!」
再び呆気にとられるクララ。
——メレディス校長も参加していたのか……
『多い時で十人はいたと思う。ぽわわーんってなるのを香炉で焚いて、最初はずっと喋ってて、面白いのが目がとろんとし始めたらみんな服を脱ぎだすの。全員が裸になって、アクマよ、来たれとか、私を捧げるとか…… 』
「リジー! それ以上は言わないでいいから‼︎」
クララは怒鳴りつけるようにリジーの言葉を静止した。
そして、気分は最悪だった。
『えっと、クララ……ごめん』
しゅんと項垂れ、今にも泣き出しそうなリジー。
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