上 下
15 / 23

再び学校へ #2

しおりを挟む
『難しい顔してどうしたの?』

 いつの間にかリジーが目の前にいた。
 俯いていたクララを下から覗き込むようにして心配そうに見つめている。
 クララはリジーの視界から外れるように目を逸らし言った。

「あっ、うん。えっと、大丈夫、じゃなくて……い、今、冬季休暇中でみんな実家に帰ってるんだよね」

——苦しい言い訳か……

『ふーん。でも、いつもより早くない?』

「うっ……いや、毎年こんなものだよ」

『そっか。いつもはもう少し学校に残っている人がいたと思ってたけど。クリスマスの飾り付けとか頑張ってて凄いなぁって感心してたのに』

 リジーの顔はどこか寂しそうに見えた。参加できないとはいえ、もしかしたら毎年楽しみにしていたのかもしれない。
 そんなリジーのために何かできないだろうか。
 顎に手を当て逡巡していると、リジーがじっとこちらを見ていた。

『クララ、今日、いつもに増して変だけどどうしたの?』

 思わずビクッと肩が跳ねる。

「えっ、そ、そんなことないよ。いつも通りだよ」

『ほらやっぱり変だよ。いつもなら「いつもに増してって、いつも変ってことかー!」ってツッコミ入れるのに、今日はやけに大人しいよ』

「うっ! それは…… 」

 たじろぐクララに詰め寄るリジー。

『何かあったの?』

 どのみちリジーには例の件を聞かなければならない。いずれわかってしまうのなら、自分の口から説明してあげた方がいいだろう。

「リジー。実は今、学校は臨時休校中なんだ。それで、その原因が……リジーの存在が町中に広まっちゃったってことなの」

『あ、そうなんだ』

 あっけらかんと特に気にしてなさそうにリジーは言った。
 逆にクララが面食らってしまう。

「えっと、大丈夫?」

『何が』

「だってほら、リジーのことがみんなにバレちゃったわけだし、しかもみんな、リジーのこと怖がってるんだよね…… 」

『んー、お化けってそんなものじゃない?』

「達観してるな! 本当に八歳か!」

 面白そうにケラケラと笑うリジー。

『いつものクララに戻ったね』

「いやいや、これでも結構心配してたんだよ。このこと知ったらリジー落ち込んだりしないかなって思って…… 」

『心配してくれてありがとう。でも大丈夫! これでも百年近くお化けやってるからね』

 優しく微笑むリジー。
 確かに、リジーが亡くなってからそれぐらいの時が過ぎてはいるが……

「でも、猫は苦手なんだよね」

 にゃーと言いながら、猫の真似をしてリジーに近づく。 

『そ、それとこれとは関係ないの!』

 焦った様子でそっぽを向くリジーを見て、クララはおかしくてついつい笑ってしまった。

『ちょ、ちょっと、クララ。何がおかしいの?』

「なんでもない……やっぱりリジーは可愛いなぁって思っただけ」

 リジーの頭を優しく撫でる。

『クララはいっつも私のこと子供扱いして…… 』

「だって見た目は八歳でしょ?」

『中身は大人ですぅ』

 ぷくっと頬を膨らませて怒る様は、どう見ても子供だった。
 そう言えばとクララは今日ここにきた目的を思い出した。

「ねぇ、リジー。覚えてたらで良いんだけど、この間、家でやった降霊術のことってわかるかな…… 」

 クララの脳裏には先日の恐怖が蘇った。
 書いた記憶のない文字を自分が書いたと言う事実。しかもそれは、リジーがクララの体を借りて書いたのだ。

『なんのこと? 私はみんなどこ行っちゃったのかなって学校の中をフラフラしてたけど』

「いやほら、だって、降霊術で私の体の中に入って、私の代わりに質問に答えたじゃん!」 

 クララが何を言っているのかわからない様子のリジー。
 首を傾げ『うーん』と唸っている。

『わかった! わからない!』

「どっち‼︎」

 ケタケタと笑うリジーに、煮え切らない様子のクララ。

『えっと、私はその降霊術? でクララに呼び出された記憶はないよ。ずっとここにいたし、ここから離れられないから』

「で、でも、実際に私の家で私の体にリジーがのり移って、私の知らない字でリジーの情報を紙に書いたんだよ!」

 再び首を傾げ唸るリジー。

『そう言われても、行ってないものは行ってないし、何かを紙に書いた記憶もないよ』

 リジーの言っていることが本当なら、一体誰がクララの体にのり移ったのだろうか。想像して顔から血の気が引いていくのを感じた。

『ちょっとクララ、大丈夫? 顔色悪いけど』

「あ、うん。大丈夫…… 」 

 俯き唖然と立ち尽くすクララの顔をリジーは心配そうに覗き込んでいる。
 そもそも今日はリジーに相談するために来たはずだ。
 ある程度のことは今までお喋りしていた時に聞いてはいたが、どこまで父親や霊媒師のヴァレンタイン先生に話して良いのかとか、どれは二人だけの秘密だとかを決めておきたかった。
 クララは降霊術をやりたくないがためにここにいる。そして、実際にリジーが現れていないのであれば、そもそもやる意味すらなくなる。
 では一体、降霊術でクララに憑依していたものはなんなのか。
 喜びと不安が入り混じり、なんとも言えない感覚がお腹の中心で蠢いている。
 しかし……

——今それを考えてもしょうがない。先にやらなきゃならないことがあるんだから。

 クララはパチン! と自分の両頬を叩いた。
 それを見ていたリジーは突然のことに何事かと驚いた。

『ク、クララ……大丈夫?』

 さっきとは違った意味で心配されているようだ。
 頬がヒリヒリと熱い。
 クララはニコッと笑うと、リジーに言った。

「大丈夫。実はリジーに相談があるんだけど—— 」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

処理中です...