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再び学校へ #2
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『難しい顔してどうしたの?』
いつの間にかリジーが目の前にいた。
俯いていたクララを下から覗き込むようにして心配そうに見つめている。
クララはリジーの視界から外れるように目を逸らし言った。
「あっ、うん。えっと、大丈夫、じゃなくて……い、今、冬季休暇中でみんな実家に帰ってるんだよね」
——苦しい言い訳か……
『ふーん。でも、いつもより早くない?』
「うっ……いや、毎年こんなものだよ」
『そっか。いつもはもう少し学校に残っている人がいたと思ってたけど。クリスマスの飾り付けとか頑張ってて凄いなぁって感心してたのに』
リジーの顔はどこか寂しそうに見えた。参加できないとはいえ、もしかしたら毎年楽しみにしていたのかもしれない。
そんなリジーのために何かできないだろうか。
顎に手を当て逡巡していると、リジーがじっとこちらを見ていた。
『クララ、今日、いつもに増して変だけどどうしたの?』
思わずビクッと肩が跳ねる。
「えっ、そ、そんなことないよ。いつも通りだよ」
『ほらやっぱり変だよ。いつもなら「いつもに増してって、いつも変ってことかー!」ってツッコミ入れるのに、今日はやけに大人しいよ』
「うっ! それは…… 」
たじろぐクララに詰め寄るリジー。
『何かあったの?』
どのみちリジーには例の件を聞かなければならない。いずれわかってしまうのなら、自分の口から説明してあげた方がいいだろう。
「リジー。実は今、学校は臨時休校中なんだ。それで、その原因が……リジーの存在が町中に広まっちゃったってことなの」
『あ、そうなんだ』
あっけらかんと特に気にしてなさそうにリジーは言った。
逆にクララが面食らってしまう。
「えっと、大丈夫?」
『何が』
「だってほら、リジーのことがみんなにバレちゃったわけだし、しかもみんな、リジーのこと怖がってるんだよね…… 」
『んー、お化けってそんなものじゃない?』
「達観してるな! 本当に八歳か!」
面白そうにケラケラと笑うリジー。
『いつものクララに戻ったね』
「いやいや、これでも結構心配してたんだよ。このこと知ったらリジー落ち込んだりしないかなって思って…… 」
『心配してくれてありがとう。でも大丈夫! これでも百年近くお化けやってるからね』
優しく微笑むリジー。
確かに、リジーが亡くなってからそれぐらいの時が過ぎてはいるが……
「でも、猫は苦手なんだよね」
にゃーと言いながら、猫の真似をしてリジーに近づく。
『そ、それとこれとは関係ないの!』
焦った様子でそっぽを向くリジーを見て、クララはおかしくてついつい笑ってしまった。
『ちょ、ちょっと、クララ。何がおかしいの?』
「なんでもない……やっぱりリジーは可愛いなぁって思っただけ」
リジーの頭を優しく撫でる。
『クララはいっつも私のこと子供扱いして…… 』
「だって見た目は八歳でしょ?」
『中身は大人ですぅ』
ぷくっと頬を膨らませて怒る様は、どう見ても子供だった。
そう言えばとクララは今日ここにきた目的を思い出した。
「ねぇ、リジー。覚えてたらで良いんだけど、この間、家でやった降霊術のことってわかるかな…… 」
クララの脳裏には先日の恐怖が蘇った。
書いた記憶のない文字を自分が書いたと言う事実。しかもそれは、リジーがクララの体を借りて書いたのだ。
『なんのこと? 私はみんなどこ行っちゃったのかなって学校の中をフラフラしてたけど』
「いやほら、だって、降霊術で私の体の中に入って、私の代わりに質問に答えたじゃん!」
クララが何を言っているのかわからない様子のリジー。
首を傾げ『うーん』と唸っている。
『わかった! わからない!』
「どっち‼︎」
ケタケタと笑うリジーに、煮え切らない様子のクララ。
『えっと、私はその降霊術? でクララに呼び出された記憶はないよ。ずっとここにいたし、ここから離れられないから』
「で、でも、実際に私の家で私の体にリジーがのり移って、私の知らない字でリジーの情報を紙に書いたんだよ!」
再び首を傾げ唸るリジー。
『そう言われても、行ってないものは行ってないし、何かを紙に書いた記憶もないよ』
リジーの言っていることが本当なら、一体誰がクララの体にのり移ったのだろうか。想像して顔から血の気が引いていくのを感じた。
『ちょっとクララ、大丈夫? 顔色悪いけど』
「あ、うん。大丈夫…… 」
俯き唖然と立ち尽くすクララの顔をリジーは心配そうに覗き込んでいる。
そもそも今日はリジーに相談するために来たはずだ。
ある程度のことは今までお喋りしていた時に聞いてはいたが、どこまで父親や霊媒師のヴァレンタイン先生に話して良いのかとか、どれは二人だけの秘密だとかを決めておきたかった。
クララは降霊術をやりたくないがためにここにいる。そして、実際にリジーが現れていないのであれば、そもそもやる意味すらなくなる。
では一体、降霊術でクララに憑依していたものはなんなのか。
喜びと不安が入り混じり、なんとも言えない感覚がお腹の中心で蠢いている。
しかし……
——今それを考えてもしょうがない。先にやらなきゃならないことがあるんだから。
クララはパチン! と自分の両頬を叩いた。
それを見ていたリジーは突然のことに何事かと驚いた。
『ク、クララ……大丈夫?』
さっきとは違った意味で心配されているようだ。
頬がヒリヒリと熱い。
クララはニコッと笑うと、リジーに言った。
「大丈夫。実はリジーに相談があるんだけど—— 」
いつの間にかリジーが目の前にいた。
俯いていたクララを下から覗き込むようにして心配そうに見つめている。
クララはリジーの視界から外れるように目を逸らし言った。
「あっ、うん。えっと、大丈夫、じゃなくて……い、今、冬季休暇中でみんな実家に帰ってるんだよね」
——苦しい言い訳か……
『ふーん。でも、いつもより早くない?』
「うっ……いや、毎年こんなものだよ」
『そっか。いつもはもう少し学校に残っている人がいたと思ってたけど。クリスマスの飾り付けとか頑張ってて凄いなぁって感心してたのに』
リジーの顔はどこか寂しそうに見えた。参加できないとはいえ、もしかしたら毎年楽しみにしていたのかもしれない。
そんなリジーのために何かできないだろうか。
顎に手を当て逡巡していると、リジーがじっとこちらを見ていた。
『クララ、今日、いつもに増して変だけどどうしたの?』
思わずビクッと肩が跳ねる。
「えっ、そ、そんなことないよ。いつも通りだよ」
『ほらやっぱり変だよ。いつもなら「いつもに増してって、いつも変ってことかー!」ってツッコミ入れるのに、今日はやけに大人しいよ』
「うっ! それは…… 」
たじろぐクララに詰め寄るリジー。
『何かあったの?』
どのみちリジーには例の件を聞かなければならない。いずれわかってしまうのなら、自分の口から説明してあげた方がいいだろう。
「リジー。実は今、学校は臨時休校中なんだ。それで、その原因が……リジーの存在が町中に広まっちゃったってことなの」
『あ、そうなんだ』
あっけらかんと特に気にしてなさそうにリジーは言った。
逆にクララが面食らってしまう。
「えっと、大丈夫?」
『何が』
「だってほら、リジーのことがみんなにバレちゃったわけだし、しかもみんな、リジーのこと怖がってるんだよね…… 」
『んー、お化けってそんなものじゃない?』
「達観してるな! 本当に八歳か!」
面白そうにケラケラと笑うリジー。
『いつものクララに戻ったね』
「いやいや、これでも結構心配してたんだよ。このこと知ったらリジー落ち込んだりしないかなって思って…… 」
『心配してくれてありがとう。でも大丈夫! これでも百年近くお化けやってるからね』
優しく微笑むリジー。
確かに、リジーが亡くなってからそれぐらいの時が過ぎてはいるが……
「でも、猫は苦手なんだよね」
にゃーと言いながら、猫の真似をしてリジーに近づく。
『そ、それとこれとは関係ないの!』
焦った様子でそっぽを向くリジーを見て、クララはおかしくてついつい笑ってしまった。
『ちょ、ちょっと、クララ。何がおかしいの?』
「なんでもない……やっぱりリジーは可愛いなぁって思っただけ」
リジーの頭を優しく撫でる。
『クララはいっつも私のこと子供扱いして…… 』
「だって見た目は八歳でしょ?」
『中身は大人ですぅ』
ぷくっと頬を膨らませて怒る様は、どう見ても子供だった。
そう言えばとクララは今日ここにきた目的を思い出した。
「ねぇ、リジー。覚えてたらで良いんだけど、この間、家でやった降霊術のことってわかるかな…… 」
クララの脳裏には先日の恐怖が蘇った。
書いた記憶のない文字を自分が書いたと言う事実。しかもそれは、リジーがクララの体を借りて書いたのだ。
『なんのこと? 私はみんなどこ行っちゃったのかなって学校の中をフラフラしてたけど』
「いやほら、だって、降霊術で私の体の中に入って、私の代わりに質問に答えたじゃん!」
クララが何を言っているのかわからない様子のリジー。
首を傾げ『うーん』と唸っている。
『わかった! わからない!』
「どっち‼︎」
ケタケタと笑うリジーに、煮え切らない様子のクララ。
『えっと、私はその降霊術? でクララに呼び出された記憶はないよ。ずっとここにいたし、ここから離れられないから』
「で、でも、実際に私の家で私の体にリジーがのり移って、私の知らない字でリジーの情報を紙に書いたんだよ!」
再び首を傾げ唸るリジー。
『そう言われても、行ってないものは行ってないし、何かを紙に書いた記憶もないよ』
リジーの言っていることが本当なら、一体誰がクララの体にのり移ったのだろうか。想像して顔から血の気が引いていくのを感じた。
『ちょっとクララ、大丈夫? 顔色悪いけど』
「あ、うん。大丈夫…… 」
俯き唖然と立ち尽くすクララの顔をリジーは心配そうに覗き込んでいる。
そもそも今日はリジーに相談するために来たはずだ。
ある程度のことは今までお喋りしていた時に聞いてはいたが、どこまで父親や霊媒師のヴァレンタイン先生に話して良いのかとか、どれは二人だけの秘密だとかを決めておきたかった。
クララは降霊術をやりたくないがためにここにいる。そして、実際にリジーが現れていないのであれば、そもそもやる意味すらなくなる。
では一体、降霊術でクララに憑依していたものはなんなのか。
喜びと不安が入り混じり、なんとも言えない感覚がお腹の中心で蠢いている。
しかし……
——今それを考えてもしょうがない。先にやらなきゃならないことがあるんだから。
クララはパチン! と自分の両頬を叩いた。
それを見ていたリジーは突然のことに何事かと驚いた。
『ク、クララ……大丈夫?』
さっきとは違った意味で心配されているようだ。
頬がヒリヒリと熱い。
クララはニコッと笑うと、リジーに言った。
「大丈夫。実はリジーに相談があるんだけど—— 」
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