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帰省 #3
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応接室ではテーブルを挟んで、父親と例の霊媒師の女性が話をしていた。
クララは部屋の中に入ると、父親の隣に行き、ソファーにそっと腰を下ろした。
「おまたせしました。うちの娘のクララです」
そう紹介され、父親と二人一緒にソファーから立ちあがる。向かいの女性も立ちあがると、ぺこりと会釈をされた。
「クララさん、こんにちは。霊媒師のヴァレンタインです」
「ク、クララです。よろしくお願いします」
少し緊張していたが、クララもぺこりと会釈を返す。
ヴァレンタインと紹介された女性は、父親よりも少し若く見えた。
ウエーブのかかったブロンドの長い髪を後ろで一本に束ね、ピシッと着こなしたチャコールグレーのスーツがいかにも仕事が出来そうに見えた。ジャケットの下に着ている白いブラウスは、ふたつの大きな塊を少し窮屈そうに包んでいる。クララは自分と見比べるように視線を落とした。
足元が実によく見える。
「さて、立っていてもしょうがないので、座ってゆっくり話しましょう」
父親がそう言うと、霊媒師の女性も再びソファーに腰を落とした。
クララは座りながらなんとなく女性の左手を見る。薬指にキラリと光る指輪が目に入った。
——結婚、しているのか。
それを確認して、僅かに燻っていた不安も消え、心が少し軽くなる。
「クララ。まず、ヴァレンタイン先生を呼んだ経緯を説明するね」
父親がクララの方を向いて言った。
そういえば、なぜクララがこの人に会わなければならないのか詳しいことは聞いていなかった。
「今回の聖ブリンクリー学園でのお化け騒動についてだけど、まずは、クララの言うリジーって子に詳しい話を聞ければと思っていたんだ。それで、霊媒師のヴァレンタイン先生に相談したところ、降霊術で呼んでみたらどうかって提案されてね。クララが今朝言ってた『先生には姿は見えなかったし声も聞こえなかった』が本当だとしたら、恐らくパパは見ることも話すこともできないだろうから…… 」
「うん」
「それに、リジーに色々とお願いしたいこともあってね」
「えっと……それは私が直接伝えるのじゃダメなことなの?」
「クララ」
ガシッと両肩を掴まれた。
「パパはクララのことは信じている。信じているからこそ心配なんだ」
ものすごく真剣な顔で真っ直ぐにクララを見つめる父親。
「あ、ありがとう、パパ。でも、大丈—— 」
「大丈夫じゃないんだ!」
急に大声を出されたのでびっくりしてしまった。ビクッと体が跳ねる。
「クララ、大丈夫じゃないんだよ。パパはお化けと付き合っては行けませんって言ってる訳じゃないんだ。ただ、クララの身に何かあってからでは遅いんだよ。それこそ天国にいるママに顔向けできなくなってしまう」
「で、でも…… 」
「いいかい。パパにとってクララはこの世のどんなものよりも大切なんだ。そのクララの友人がお化けだと言われれば、やはり心配せざるえない。でもね、クララの選んだ友達だから、きっ と大丈夫だとも思ってる」
「う、うん」
「ならば、一度でもいいからその友達に会って直接話が聞ければ、安心して学校に送り出せると思ったんだよ」
「うん……わかった」
クララを想う父親の葛藤。その答えは、リジーを自分の目で見極めるということだったようだ。
二人はヴァレンタイン先生の方に向き直ると、父親は改めてと彼女を紹介してくれた。
「ヴァレンタイン先生はこの町でも有名な霊媒師だよ。今日、彼女にはクララのカウンセリングで来てもらった」
「よ、よろしくお願いします」
「こちらこそ。では、さっそく本題に入りますね。まず、クララさんはどのようにリジーさんと知り合ったのですか?」
「えっと、私が音楽室でピアノの練習をしていて—— 」
それからしばらくはリジーのことについて色々と聞かれた。クララは知っている限りのことを話したが、古い切り株の下にデイビッドソン家の遺産が埋まっていることだけは言わなかった。リジーが殺された理由が遺産を巡って起こったことなので、子供ながらにその価値の大きさはわかっていたからだ。
——大人達が知ったらきっと……
下手をしたら、今度はクララが何者かに命を狙われかねない。もし、この情報を誰かと共有するのであれば、慎重にいかなければならなかった。
父親に言うべきか、それとも言わないべきか……
クララのカウンセリングが終わって、ヴァレンタイン先生と話をしている父親の横顔をちらっと見ると、ふと、クララは不思議に思った。
——あれ? そういえば、パパはリジーを見極めたいって言ってたけど、私の話を聞いてただけじゃない? リジーは学校だし、どうやって会うんだろう?
なにか考えがあるのだろうか。
熱心に話す二人の会話をなんとなく聞きながら、ヴァレンタイン先生の胸元に視線を落とす。身振り手振りの度にゆさゆさと揺れるそれは、もはや凶器だった。
「クララさんはリジーさんを呼ぶことはできるのかな?」
急に声をかけられたのでびっくりしてしまった。見ていたことがバレたのかと心臓がドキドキする。
「え、えっと、無理だと思います。リジーとは音楽室で会ってただけなので」
「なるほど。わかりました。と言うことはやはり降霊術しかなさそうね」
「降霊術?」
先ほども父親が言っていたが、クララはなんとなく聞き流していた。
クララは部屋の中に入ると、父親の隣に行き、ソファーにそっと腰を下ろした。
「おまたせしました。うちの娘のクララです」
そう紹介され、父親と二人一緒にソファーから立ちあがる。向かいの女性も立ちあがると、ぺこりと会釈をされた。
「クララさん、こんにちは。霊媒師のヴァレンタインです」
「ク、クララです。よろしくお願いします」
少し緊張していたが、クララもぺこりと会釈を返す。
ヴァレンタインと紹介された女性は、父親よりも少し若く見えた。
ウエーブのかかったブロンドの長い髪を後ろで一本に束ね、ピシッと着こなしたチャコールグレーのスーツがいかにも仕事が出来そうに見えた。ジャケットの下に着ている白いブラウスは、ふたつの大きな塊を少し窮屈そうに包んでいる。クララは自分と見比べるように視線を落とした。
足元が実によく見える。
「さて、立っていてもしょうがないので、座ってゆっくり話しましょう」
父親がそう言うと、霊媒師の女性も再びソファーに腰を落とした。
クララは座りながらなんとなく女性の左手を見る。薬指にキラリと光る指輪が目に入った。
——結婚、しているのか。
それを確認して、僅かに燻っていた不安も消え、心が少し軽くなる。
「クララ。まず、ヴァレンタイン先生を呼んだ経緯を説明するね」
父親がクララの方を向いて言った。
そういえば、なぜクララがこの人に会わなければならないのか詳しいことは聞いていなかった。
「今回の聖ブリンクリー学園でのお化け騒動についてだけど、まずは、クララの言うリジーって子に詳しい話を聞ければと思っていたんだ。それで、霊媒師のヴァレンタイン先生に相談したところ、降霊術で呼んでみたらどうかって提案されてね。クララが今朝言ってた『先生には姿は見えなかったし声も聞こえなかった』が本当だとしたら、恐らくパパは見ることも話すこともできないだろうから…… 」
「うん」
「それに、リジーに色々とお願いしたいこともあってね」
「えっと……それは私が直接伝えるのじゃダメなことなの?」
「クララ」
ガシッと両肩を掴まれた。
「パパはクララのことは信じている。信じているからこそ心配なんだ」
ものすごく真剣な顔で真っ直ぐにクララを見つめる父親。
「あ、ありがとう、パパ。でも、大丈—— 」
「大丈夫じゃないんだ!」
急に大声を出されたのでびっくりしてしまった。ビクッと体が跳ねる。
「クララ、大丈夫じゃないんだよ。パパはお化けと付き合っては行けませんって言ってる訳じゃないんだ。ただ、クララの身に何かあってからでは遅いんだよ。それこそ天国にいるママに顔向けできなくなってしまう」
「で、でも…… 」
「いいかい。パパにとってクララはこの世のどんなものよりも大切なんだ。そのクララの友人がお化けだと言われれば、やはり心配せざるえない。でもね、クララの選んだ友達だから、きっ と大丈夫だとも思ってる」
「う、うん」
「ならば、一度でもいいからその友達に会って直接話が聞ければ、安心して学校に送り出せると思ったんだよ」
「うん……わかった」
クララを想う父親の葛藤。その答えは、リジーを自分の目で見極めるということだったようだ。
二人はヴァレンタイン先生の方に向き直ると、父親は改めてと彼女を紹介してくれた。
「ヴァレンタイン先生はこの町でも有名な霊媒師だよ。今日、彼女にはクララのカウンセリングで来てもらった」
「よ、よろしくお願いします」
「こちらこそ。では、さっそく本題に入りますね。まず、クララさんはどのようにリジーさんと知り合ったのですか?」
「えっと、私が音楽室でピアノの練習をしていて—— 」
それからしばらくはリジーのことについて色々と聞かれた。クララは知っている限りのことを話したが、古い切り株の下にデイビッドソン家の遺産が埋まっていることだけは言わなかった。リジーが殺された理由が遺産を巡って起こったことなので、子供ながらにその価値の大きさはわかっていたからだ。
——大人達が知ったらきっと……
下手をしたら、今度はクララが何者かに命を狙われかねない。もし、この情報を誰かと共有するのであれば、慎重にいかなければならなかった。
父親に言うべきか、それとも言わないべきか……
クララのカウンセリングが終わって、ヴァレンタイン先生と話をしている父親の横顔をちらっと見ると、ふと、クララは不思議に思った。
——あれ? そういえば、パパはリジーを見極めたいって言ってたけど、私の話を聞いてただけじゃない? リジーは学校だし、どうやって会うんだろう?
なにか考えがあるのだろうか。
熱心に話す二人の会話をなんとなく聞きながら、ヴァレンタイン先生の胸元に視線を落とす。身振り手振りの度にゆさゆさと揺れるそれは、もはや凶器だった。
「クララさんはリジーさんを呼ぶことはできるのかな?」
急に声をかけられたのでびっくりしてしまった。見ていたことがバレたのかと心臓がドキドキする。
「え、えっと、無理だと思います。リジーとは音楽室で会ってただけなので」
「なるほど。わかりました。と言うことはやはり降霊術しかなさそうね」
「降霊術?」
先ほども父親が言っていたが、クララはなんとなく聞き流していた。
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