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20話 償い

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⸺⸺アルシェ孤児院⸺⸺

 カミユは5日に1度、公務でギルド活動をお休みする。だから俺はその時間を使ってある孤児院に来ていた。
 そこはもう古くなり、取り壊す寸前の孤児院。ここにいる子たちは王都に新たに建設される綺麗な孤児院へと移り住む事になる。
 大きくなってから王都で立派に暮らしていくためには魔物討伐が出来ることが望ましく、ここの子たちが王都へ引っ越すまでの間、俺が魔法を教えているのだ。

⸺⸺

「ディオン先生、ありがとうございました!」
「うん、みんな今日も良く頑張ったね。じゃぁ、また5日後」
「はーい、さようなら~!」

 今日の指導も終わり、さて帰ろうかという頃。アリスが向こうからこの孤児院へと走ってくるのを見かけた。
「本当にディオン様、この孤児院にいらしたのですね……」
 アリスははぁ、はぁ、と息を切らしている。
「ん、アリス。そんなに急いでどうしたの?」
「お兄様、今日、ご公務に行かれてるのではないみたいなのです」
「えっ、そうなの?」
「お父様もお兄様も教えて下さらないので、前回のご公務の時にお兄様を尾行したのです」
「出た……アリスの潜伏技術……」
「それで、その時見た光景をディオン様にも見て頂きたくて、王都までのお出かけのお誘いに来ました」

 カミユは公務だって嘘吐いて王都で何かをしてたって事か。でも、カミユが俺にもアリスにも黙っているのにはきっと何か理由がある。

 ……なんだけど、俺も正直何してるのか気になってしまって、アリスの誘いに乗る事にした。

⸺⸺⸺

⸺⸺



⸺⸺王都グラニール⸺⸺

「あちらです。あの建物の建築現場に、ほら」
 建物の陰からアリスと一緒にある家の建築現場を眺める。
 するとそこには、長い木の板を何枚も背負って汗水垂らして働くカミユの姿があった。その目はとても活き活きとしていて、決して無理矢理やらされている訳ではなさそうだった。

⸺⸺俺は、この時色んな事を悟った。

「アリス、帰ろう。馬車の中で、詳しく話してあげる」
「ディオン様、何かご存知なのですね。分かりました。ディオン様がそう言うなら」

 そして、乗ってきた馬車にまたすぐに乗り込むと、俺はアリスへ自分のしている事の説明をした。

「俺が孤児院で子どもたちに魔法を教えているのは、償いのためなんだ」
「償い……?」
 アリスはきょとんとする。
「君はあんまり気にしていないみたいだけど、俺はやっぱりあの時のこと、まだ罪悪感が残ってるんだ。ほら、君とカミユが婚約しているのに、俺はカミユと部屋で……」
「っ! そう、だったのですね……」
「だから、せっかくアリスが上手いこと誤魔化してくれたのに申し訳ないけど、後日アルシェ町長には本当の事を話したんだ。町長も、もう丸く収まったしお咎めなんて無しでいいよって言ってくれたけど、それでも俺の気が済まないなら1つボランティアを任されてくれないかって言われたんだ」

「それが、孤児院の子どもたちへ魔法を教える事なのですね」
 アリスは切ない表情でそう言った。きっと彼女は俺たちにはもうなんのわだかまりもないと思っていただろうから。そう思っていたからこそ、あの『友恋』はめちゃくちゃ純愛に仕上がっているのだと思う。

「うん。そういう事。それでね、きっとカミユも同じ気持ちなんじゃないかと思うんだ」
「お兄様も、償いをしていると言うことでしょうか」
「うん、俺はそうだと思う」
「そんな、私、そんな事全く知らずに呑気に……」
「アリスがそんな落ち込む事じゃないよ。それにね、償いのはずなのに、俺今嬉しくてたまらないんだ」
 そこまで話すと、自然と涙が溢れ出てきてしまった。
「ディオン様!? 嬉し泣き、ですか……なぜ……?」

「だって、カミユが建ててる建物、俺が教えてる子たちが引っ越す予定の新しい孤児院だから……住所は聞いていたから間違いないよ」
「なんと、そんな偶然が……!?」
「多分、町長がそういうふうに仕組んだんだと思う。お互いにどこかで気付けるようにって。一人で償ってるつもりだったけど、カミユと力を合わせて一緒に償ってたんだなって思うと、俺、嬉しくて……」
 服の袖で必死に涙を拭うが、次から次へと溢れてしまって止まらない。

「ディオン様……あぁ、なんと尊い涙でしょう……」
「ごめんね、こんな、泣いて……」
 俺がそう謝ると、アリスは馬車の中で勢い良く立ち上がる。
「いいえ、とんでもない! 過去に過ちを犯してしまった2人がお互いを想い合いながら償いをして、やがて許され結ばれる2人……! その設定も良い話が書けそうです! 帰ったら早速書き出します!」
 そのアリスのあくまでも真っ直ぐな瞳に、俺は泣きながら吹き出した。
「あはは……アリス、もうすっかりプロの小説家だなぁ……」

 結果的にまた俺はアリスに救われてしまった。だってアリスが王都に連れてきてくれなければこの事を知るのはもっと後になっていただろうから。彼女はやはり女神か何かなんだろうか。
 彼女に堂々とカミユの恋人であると名乗れるように、また、孤児院の子たちが立派にやっていけるように、あと少しの魔法の先生も全力で頑張ろうと思うのであった。
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