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終話 故郷

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⸺⸺旧セネト領サラエ村跡地⸺⸺

 たくさんの焼け焦げた家々が立ち並び、中央の広場には大きな慰霊碑と、数々の墓が並んでいた。村には入れ替わり立ち替わり人々が訪れ、慰霊碑にお供え物をしたり、お祈りをしたりしていた。

「ここが僕の故郷……」
 ある程度の覚悟はしていたけど、そのドヨンとした重い空気といたたまれない光景に、僕の気持ちはズンと沈み込んだ。
「大丈夫か、ルミエル」
 そんな僕を心配してランス様が僕の顔を覗き込んでくる。そっか、大丈夫。僕には彼がついている。

「大丈夫です。でも……手、繋いでもらってもいいですか?」
「もちろんだ」
 すぐに僕の手が温かい彼の手にギュッと包み込まれる。それだけで、僕の不安な心がスーッと晴れていくのを感じた。

⸺⸺

 彼に手を引かれるままに歩いていると、一軒の屋根が焦げ落ちた家へと到着する。
「この家からお前の魔力の痕跡が見つかってな……つまり、ここが……」
「僕の家……」
「あの扉を守るように、2人の白骨が覆い被さっていた。その先の部屋には、ベビーベッドが置かれていたんだ……」
「じゃぁ、僕の両親は、僕を守って……?」
 ランス様が静かに頷いた瞬間、僕の瞳からは大粒の涙が零れ落ちていった。

「抵抗する者は殺され、抵抗する気力のない者や子どもが攫われていったそうだ。当時、自分の命惜しさに自ら子どもを差し出す親もいたそうだが、お前の両親は最後までお前の盾になっていた事が判明した。ルミエル。お前は、ちゃんと両親から愛されていたんだ」
 ランス様はそう言って1枚のボロボロの写真を差し出した。そこには、赤ん坊に頬を擦り寄せる幸せそうな男女の姿が写っていた。
「奥の部屋から見つかって、大事に取っておいたものだ。これは本来の持ち主であるはずのお前に返そう」
「これが、僕の両親……。お父さん、お母さん……僕を守ってくれてありがとう……。ねぇ、ランス様。僕の両親のお墓はどこ?」
「ん、こっちだ」

 僕は写真をジャケットの内ポケットへ仕舞うと、再びランス様の手を取り慰霊碑の方へと向かった。

⸺⸺

「この墓がそうだ」
 2つの墓の前で立ち止まる。
「アロルド・タイラー……メイジー・タイラー……」
「さっきの写真の裏側を見てみろ」
「裏側……?」
 急いで写真を取り出し裏を向けると、右下に『愛しの子、ケイシー』の文字があった。
「僕の名前は……ケイシー・タイラー……?」
 ランス様はうんと頷く。
「ルミエルと言う名はやめて、ケイシーを名乗ってもいい。それはお前の自由だ」
 そう優しく微笑む彼を見て、僕は静かに首を横に振った。
「ルミエルは僕の大事な名前。だから、ルミエル・ケイシー・レイカルド、と、名乗ることにします」
「……ありがとう。ルミエル」
 ランス様は僕をそっと抱き締めた。
 その頭上で、ある2つの魔力の塊がふわふわと浮かび上がり、しばらく僕たちを眺めたあと、満足そうに天へと昇って行ったのを、僕たちは知らない。

 その後、"サラエ慰霊碑"と名付けられたその土地は、廃墟も綺麗に片付けられ、今でもたくさんの人々が祈りを捧げに訪れている。

⸺⸺おしまい⸺⸺
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