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16話 傷痕
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僕がリィン子爵となってから1ヶ月ほど経ったある日の事。この日はランス様が私用で出かけていたため、僕は屋敷でお留守番をしていた。
「うーん、やっぱり消えないわねぇ……」
僕の部屋で回復薬のビンを抱えて悩むキャシー姐様。
一方で、僕は上裸になって回復薬を痣へと塗りたくっていた。
「はい、痣は怪我ではないのでしょうか……」
⸺⸺
事の発端は1時間前、キャシー姐様に「ルミちゃんて回復薬飲んだ事ある?」と言われた事だ。
もちろんそんな経験のない僕が「いいえ」と答えると、痣が消えるか試してみようという事になった。
どうやらキャシー姐様たち使用人の間で『気にしているみたいだからなんとかしてあげたい』と話題になっているらしく、回復薬を飲んでみてはどうかという話でまとまったようだ。
使用人のみんなは僕にとても優しくて、僕もその気持ちが嬉しかったので、進んで回復薬を飲んでみた。甘じょっぱい、不思議な味だ。
結果、痣は消える事なく、回復の効力が機能していないんじゃないかとも思ったけど、昨日できたささくれが綺麗に治っていたので、回復薬としての効力は十分に働いている事が分かった。
次にダメ元で痣に直接塗りたくってみたが、やはり効果は無い。
そして、今に至る。
⸺⸺
「うーん、出来た瞬間はもしかしたら怪我なのかもしれないけど、もうこの痣が出来てから何年も経つのよね……」
「はい……いつからあるかももう覚えてないくらいです」
「うーん……どうしたものかしらねぇ」
腕組をして考え込むキャシー姐様。そんな彼へ、僕は優しく微笑みかけた。
「もう、良いんです……。皆さんが僕を心配してこうして色々考えて下さっただけで、僕は幸せ者です」
「いやん。そんな良い子だからオネエさんたちも何とかしたいと思っちゃうのよね……よし、オネエさんも塗っちゃう」
「ちょ、キャシー姐様、僕、自分で塗れますから! 姐様! や、止めてください、くすぐったい!」
僕の抵抗も虚しく、キャシー姐様が上裸の僕に馬乗りになり、痣をこねくり回す。僕らとしては戯れ合っているだけなのだが、このタイミングでランス様が隣の部屋から突入して来た。
「ルミエル、どうし……!?」
「「あっ……」」
ランス様は僕らのその光景を見て、大きく目を見開いた。
「キャサリン! 貴様、遂に手を出しやがったな……!」
「ちょ、ま、遂にって何よ!? 誤解よ、誤解ー!」
キャシー姐様は絶叫しながら頬を殴られ吹っ飛んでいった。
僕は弁明のため、慌てて起き上がる。
「ランス様、本当に誤解なんです! 話を聞いて下さい!」
「な、何……?」
ランス様が苦い顔でキャシー姐様の飛んでいった方へ視線を向けると、キャシー姐様はひっくり返ってピクピクしていた。
「すまん……キャサリン……」
⸺⸺
「そうか、お前らも同じ事を考えていたのだな……」
事情を説明すると、ランス様はそう呟いてはぁっと溜め息を吐いた。
「お前らも……とは?」
僕がそう尋ねると、ランス様はキャシー姐様のパンパンに腫れた頬へ手のひらを向ける。そして「ヒール」と唱えると、白い光がキャシー姐様の頬を包み込み、腫れはあっという間に引いていった。
「まぁ、ランス様、回復魔法を修得したのね!」
と、キャシー姐様。ランス様はうんと頷く。
彼は攻撃魔法専門の魔道士だ。それは僕でも知ってる。それなのに、今更回復魔法を……僕の、為に……?
「だが、回復薬が全くダメだったとなると、望み薄かもしれんな……」
「僕、ランス様の回復魔法受けたいです!」
僕が必死にそう言うと、キャシー姐様がスッと立ち上がった。
「んふふ。後はランス様にお任せっ☆邪魔者は退散します」
彼はそそくさと部屋から出ていってしまったため、僕は上裸のままランス様と二人っきりになってしまった。
「うーん、やっぱり消えないわねぇ……」
僕の部屋で回復薬のビンを抱えて悩むキャシー姐様。
一方で、僕は上裸になって回復薬を痣へと塗りたくっていた。
「はい、痣は怪我ではないのでしょうか……」
⸺⸺
事の発端は1時間前、キャシー姐様に「ルミちゃんて回復薬飲んだ事ある?」と言われた事だ。
もちろんそんな経験のない僕が「いいえ」と答えると、痣が消えるか試してみようという事になった。
どうやらキャシー姐様たち使用人の間で『気にしているみたいだからなんとかしてあげたい』と話題になっているらしく、回復薬を飲んでみてはどうかという話でまとまったようだ。
使用人のみんなは僕にとても優しくて、僕もその気持ちが嬉しかったので、進んで回復薬を飲んでみた。甘じょっぱい、不思議な味だ。
結果、痣は消える事なく、回復の効力が機能していないんじゃないかとも思ったけど、昨日できたささくれが綺麗に治っていたので、回復薬としての効力は十分に働いている事が分かった。
次にダメ元で痣に直接塗りたくってみたが、やはり効果は無い。
そして、今に至る。
⸺⸺
「うーん、出来た瞬間はもしかしたら怪我なのかもしれないけど、もうこの痣が出来てから何年も経つのよね……」
「はい……いつからあるかももう覚えてないくらいです」
「うーん……どうしたものかしらねぇ」
腕組をして考え込むキャシー姐様。そんな彼へ、僕は優しく微笑みかけた。
「もう、良いんです……。皆さんが僕を心配してこうして色々考えて下さっただけで、僕は幸せ者です」
「いやん。そんな良い子だからオネエさんたちも何とかしたいと思っちゃうのよね……よし、オネエさんも塗っちゃう」
「ちょ、キャシー姐様、僕、自分で塗れますから! 姐様! や、止めてください、くすぐったい!」
僕の抵抗も虚しく、キャシー姐様が上裸の僕に馬乗りになり、痣をこねくり回す。僕らとしては戯れ合っているだけなのだが、このタイミングでランス様が隣の部屋から突入して来た。
「ルミエル、どうし……!?」
「「あっ……」」
ランス様は僕らのその光景を見て、大きく目を見開いた。
「キャサリン! 貴様、遂に手を出しやがったな……!」
「ちょ、ま、遂にって何よ!? 誤解よ、誤解ー!」
キャシー姐様は絶叫しながら頬を殴られ吹っ飛んでいった。
僕は弁明のため、慌てて起き上がる。
「ランス様、本当に誤解なんです! 話を聞いて下さい!」
「な、何……?」
ランス様が苦い顔でキャシー姐様の飛んでいった方へ視線を向けると、キャシー姐様はひっくり返ってピクピクしていた。
「すまん……キャサリン……」
⸺⸺
「そうか、お前らも同じ事を考えていたのだな……」
事情を説明すると、ランス様はそう呟いてはぁっと溜め息を吐いた。
「お前らも……とは?」
僕がそう尋ねると、ランス様はキャシー姐様のパンパンに腫れた頬へ手のひらを向ける。そして「ヒール」と唱えると、白い光がキャシー姐様の頬を包み込み、腫れはあっという間に引いていった。
「まぁ、ランス様、回復魔法を修得したのね!」
と、キャシー姐様。ランス様はうんと頷く。
彼は攻撃魔法専門の魔道士だ。それは僕でも知ってる。それなのに、今更回復魔法を……僕の、為に……?
「だが、回復薬が全くダメだったとなると、望み薄かもしれんな……」
「僕、ランス様の回復魔法受けたいです!」
僕が必死にそう言うと、キャシー姐様がスッと立ち上がった。
「んふふ。後はランス様にお任せっ☆邪魔者は退散します」
彼はそそくさと部屋から出ていってしまったため、僕は上裸のままランス様と二人っきりになってしまった。
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