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9話 旦那様と奥様と沢山の子どもたち
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ダイニングへ入ると、既に旦那様と奥様が席に着いて談笑しており、その周りのテーブルでも何人もの少年、少女がそれぞれ話に花を咲かせていた。
「父上、母上、お待たせしました」
ランス様がそう言って頭を下げるので、僕も一緒になって「お待たせ致しました!」と頭を下げる。
「来たわね。良いのよ、私たちも今呼ばれて来たところだから」
「うむ。2人とも席に着きなさい」
奥様も旦那様も優しく微笑んでくれる。それだけで僕の胸は一杯になってしまったが、涙を堪えて彼らの向かいへ腰掛けた。
僕たちが最後のようで、皆で揃っていただきますをして食べ始める。
キャシー姐様や使用人の皆も仕事を終えると周りの席で続々と食べ始め、がやがやと盛り上がってくる。
セネト伯爵の屋敷ではいつも葬式のような静かな食事であったが、ここはまるでパーティ会場のように賑やかであった。
「あら、ルミちゃん、お口に合わなかったかしら? 別の料理を作らせましょうか」
僕が周りに圧倒されてソワソワしていたので、奥様が心配して声をかけて下さった。僕は必死に首を横に振る。
「いえ、いえ、違うんです! すごく賑やかで、皆さん楽しそうで……こんなの初めてだったので。それに、こんな美味しいお料理も初めて食べさせてもらいました」
そう言って目の前の料理を口に含む。そもそもいつもパンばかり食べていたので、口に入れれば入れるほど美味しくて涙が出てきそうになる。
僕の美味しそうに食べる姿を見て、旦那様は満足そうに口を開く。
「それは良かったよ。そうだろう、ここは他の屋敷に比べて少々賑やかかもしれないね。子供が沢山いて驚いただろう」
「はい……」
「彼らは皆孤児なのだよ。ここは孤児院も兼ねていてね、血は繋がってはいないけれど、皆大切な家族だよ」
「そ、そうだったのですね……通りでこんなに沢山……」
「それはそうと父上」
僕の隣でランス様が不機嫌そうに口を開く。
「何かね、小言は受け付けんぞ」
旦那様はツーンとして、まるで反抗期の子供のようだ。
「俺はあれほど妻は娶らんと申しているでしょう。もう勝手に見合いの約束をするのはやめてもらえますか」
「でも、今回はそのお陰でルミエル君を酷い環境から救出出来たではないか」
「それはただの結果論です」
「ぐぅ……だって、妻がいないのは寂しいかなぁと思ってだね……」
ショボンと落ち込む旦那様。確かに結果論ではあるけれど、僕はそれで救われた。
「あ、あの。その説は本当にありがとうございました!」
食べる手を止めて深く頭を下げると、旦那様は「いやぁ、それほどでも」と照れていた。
「ルミエル、父上を甘やかすな。すぐに調子に乗る」
「えぇ……」
なんだかここの父と子は立場が逆転しているようだ。僕が困っていると、奥様がクスクスと笑い出した。
「うふふ。ルミちゃん困ってるわよ。とにかく、ルミちゃんが来たことであなたのその『寂しいかなぁと』って言うのは解決したわね。"付き人"であれば何も女性である必要はないわ」
「うむ、それはそうだが……」
「それと、もし後継ぎの事を心配しているのなら、あの子たちに領主の後を継ぎたいか聞けばいいわ」
と、奥様。あの子たちとは、孤児の子たちの事だ。更にランス様が続ける。
「もし、王家の血筋の事を気にしているのなら、従兄弟らの子でも良いでしょう。王太子以外は国王にはなれませんし」
旦那様はうんと頷いた。
「私は後継ぎの事は心配してはおらんよ。とりあえずは分かった。もう勝手に縁談を持ってくるのはよそう。今はとにかくルミエル君を正式にうちの屋敷に入れられるよう尽力せねばな」
「ありがとうございます、父上。そうですね、それは早急に進めています」
そっか……僕はまだ、セネト伯爵の屋敷の人間なんだ。今は家出中って事か。今頃向こうの屋敷はどうなっているのだろう。ここの居心地が良すぎてもうそんな事忘れそうになっている自分がいる事に気が付いた。
「父上、母上、お待たせしました」
ランス様がそう言って頭を下げるので、僕も一緒になって「お待たせ致しました!」と頭を下げる。
「来たわね。良いのよ、私たちも今呼ばれて来たところだから」
「うむ。2人とも席に着きなさい」
奥様も旦那様も優しく微笑んでくれる。それだけで僕の胸は一杯になってしまったが、涙を堪えて彼らの向かいへ腰掛けた。
僕たちが最後のようで、皆で揃っていただきますをして食べ始める。
キャシー姐様や使用人の皆も仕事を終えると周りの席で続々と食べ始め、がやがやと盛り上がってくる。
セネト伯爵の屋敷ではいつも葬式のような静かな食事であったが、ここはまるでパーティ会場のように賑やかであった。
「あら、ルミちゃん、お口に合わなかったかしら? 別の料理を作らせましょうか」
僕が周りに圧倒されてソワソワしていたので、奥様が心配して声をかけて下さった。僕は必死に首を横に振る。
「いえ、いえ、違うんです! すごく賑やかで、皆さん楽しそうで……こんなの初めてだったので。それに、こんな美味しいお料理も初めて食べさせてもらいました」
そう言って目の前の料理を口に含む。そもそもいつもパンばかり食べていたので、口に入れれば入れるほど美味しくて涙が出てきそうになる。
僕の美味しそうに食べる姿を見て、旦那様は満足そうに口を開く。
「それは良かったよ。そうだろう、ここは他の屋敷に比べて少々賑やかかもしれないね。子供が沢山いて驚いただろう」
「はい……」
「彼らは皆孤児なのだよ。ここは孤児院も兼ねていてね、血は繋がってはいないけれど、皆大切な家族だよ」
「そ、そうだったのですね……通りでこんなに沢山……」
「それはそうと父上」
僕の隣でランス様が不機嫌そうに口を開く。
「何かね、小言は受け付けんぞ」
旦那様はツーンとして、まるで反抗期の子供のようだ。
「俺はあれほど妻は娶らんと申しているでしょう。もう勝手に見合いの約束をするのはやめてもらえますか」
「でも、今回はそのお陰でルミエル君を酷い環境から救出出来たではないか」
「それはただの結果論です」
「ぐぅ……だって、妻がいないのは寂しいかなぁと思ってだね……」
ショボンと落ち込む旦那様。確かに結果論ではあるけれど、僕はそれで救われた。
「あ、あの。その説は本当にありがとうございました!」
食べる手を止めて深く頭を下げると、旦那様は「いやぁ、それほどでも」と照れていた。
「ルミエル、父上を甘やかすな。すぐに調子に乗る」
「えぇ……」
なんだかここの父と子は立場が逆転しているようだ。僕が困っていると、奥様がクスクスと笑い出した。
「うふふ。ルミちゃん困ってるわよ。とにかく、ルミちゃんが来たことであなたのその『寂しいかなぁと』って言うのは解決したわね。"付き人"であれば何も女性である必要はないわ」
「うむ、それはそうだが……」
「それと、もし後継ぎの事を心配しているのなら、あの子たちに領主の後を継ぎたいか聞けばいいわ」
と、奥様。あの子たちとは、孤児の子たちの事だ。更にランス様が続ける。
「もし、王家の血筋の事を気にしているのなら、従兄弟らの子でも良いでしょう。王太子以外は国王にはなれませんし」
旦那様はうんと頷いた。
「私は後継ぎの事は心配してはおらんよ。とりあえずは分かった。もう勝手に縁談を持ってくるのはよそう。今はとにかくルミエル君を正式にうちの屋敷に入れられるよう尽力せねばな」
「ありがとうございます、父上。そうですね、それは早急に進めています」
そっか……僕はまだ、セネト伯爵の屋敷の人間なんだ。今は家出中って事か。今頃向こうの屋敷はどうなっているのだろう。ここの居心地が良すぎてもうそんな事忘れそうになっている自分がいる事に気が付いた。
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