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8話 僕の知らないところで

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 僕は、そのまま寝てしまったのだろうか。眠りが浅くなったようで、誰かが話しているのがぼんやり頭の中へと入ってくる。起きようとも思ったが、こんなふかふかなソファで寝たのは初めてで、居心地が良く起き上がる事が出来なかった。

「ランス様お帰りなさいっ☆ 国王様の反応はどうでした?」
「キャサリンか。ルミエルは……寝ているのか」
「それが、かくかくしかじかで……」
「……そうか。まぁ、疲れているだろう。そのまま寝かせてやろう」
「はいっ」
「伯父上の反応は上々だ。カンカンに怒っていたからな、すぐにでもセネト卿の身辺調査を徹底的に行うらしい。俺は闇商人との繋がりがあると見ているが、まぁ直に分かるだろう」
「そう。もうルミちゃんみたいな被害者が出ないと良いですね」
「そうだな。セネト卿の事は伯父上に任せて、俺らはルミエルの出生について調べることにする。ルミエル自身はあまり知りたくないかもしれないが、あの屋敷に来る前はどこでどう過ごしていたのか。両親から愛情を持って育ててもらっていたのか。本名は何と言う名なのか……それが分かったら、せめて本名を名乗るくらいの選択肢は与えたい」
「ルミちゃんはルミエルという名前、気に入ってるみたいですけどね?」
「それならそれで、本名はミドルネームにすればいいだけの話だ。それに、ルミエル側から調べる事で、伯父上の調査の助けになるかもしれん」
「なるほどです」

「さて、ルミエルが起きたら食事にしよう。俺は隣で雑務を片付けている。起きたら呼びに来い」
「承知っ☆」

 ここで僕は再び夢の中へと堕ちていった。

⸺⸺⸺

⸺⸺



「はっ!」
 ガバッと身体を起こす。キャサリンさんがかけてくれていたであろう毛布がパサッと捲れた。
「うわぁっ、おはようルミちゃん。急に起きるのね」
 キャサリンさんは驚いたのか爪を磨いていたヤスリを落とし、拾い上げていた。
「ごめんなさい、僕、寝てしまって……!」
「良いのよ、疲れていたでしょう? スッキリしたかしら?」
「はい、すごく寝心地が良かったです。この毛布は、キャサリンさんが……」
「えぇ、そうだけど……ねぇ、ルミちゃん。そのキャサリンさんっての、やめましょう」
「えっと、何とお呼びすれば……」
「同僚たちはアタシの事皆"キャシーねえ"って呼ぶわ」
「キャシー姐様……?」
「おっと……"さん"から"様"になっちゃったけど、まぁそっちのが良いわね。じゃぁルミちゃん、お食事にしましょう。せっかくだからアナタが隣のランス様を呼んでらっしゃいな。アタシは一足先に準備に行ってるわ」
「はい、行ってきます!」

 自分の部屋を出ると、ランス様とキャシー姐様が何かを話していた事を思い出す。が、何を話していたのかを忘れてしまった。

 気を取り直して隣の部屋をコンコン、とノックする。
「ランス様、あ、あの……ルミエル、です」
 自分でルミエルと名乗り、改めて自分に名前が出来た喜びを噛み締める。はにかんで待っていると、ランス様はすぐに部屋から顔を出した。
「起きたのか、ルミエル……って、どうした、何か良い事でもあったか?」
 ランス様にそう言われて僕はハッと我に返る。
「あっ、すみません……僕……」
「ルミエル。俺は怒っているのではない。何か良い事があったのなら、それを俺にも共有して欲しいだけだ」
「はい、あの……自分でルミエルと名乗って、改めて素敵な名前だなって、嬉しくなりました……」
 再びはにかむと、ランス様は少し動揺をしていた。
「そ、そうか……。全くお前は、素直な奴だな……」
 ランス様ははぁっと小さな溜め息を吐く。
「あの、すみません、つい……」
 自分でも驚いている。こんなに自分の気持ちを正直に話せるんだなって。
「いや、いいんだ。お前があまりにも嬉しそうに言うから、照れてしまっている……名付けたのは、俺だからな」
 そう言われてランス様のお顔を見上げると、頬が真っ赤に染まっていた。
「あっ……」
 その表情がとても格好良くて、僕も自分の頬がボンボンと熱くなるのを感じた。
「なっ、なぜルミエルまで赤くなるんだ」
「あぅ……なぜでしょう……」
 両手で自分の顔を覆い隠す。嬉しくてときめいて、僕の心臓が騒がしい。
「はぁ……まぁいい。キャサリンは、先に行ったのか」
「はい、キャシー姐様は先に準備をしている、と」
「ふっ、キャシー姐様か。ん、なら俺らも行こう。ダイニングは1階だ」
「はい!」

 ランス様の斜め後ろに付いて、1階のダイニングへと向かった。
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