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5話 お見合い?

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 僕が落ち着いたところで、ランス様が口を開く。
「さて、では見合いといこうか」
「えっ、お、お見合いですか!?」
 まさかの一言にポカンと口を開ける。
「お前は俺と見合いに来たのだろう?」
「そう、ですけど……それは、その……」

 一体どういう意味で言っているのだろう。僕、からかわれてるのかな。
「俺はセネト卿の娘と見合いをするつもりで紅茶を置かせたのではない。はなから"お前自身"の話を聞くためだ。まずは名乗れ」
「名乗……あの、僕……」
「ん? どうかしたか」

 どうしよう。困った事になった。
「ごめんなさい……僕、名前がありません……」
「何っ!?」
 ランス様は目を真ん丸にする。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「謝らなくていい、なぜ名前がないのか、お前の分かる範囲で説明しろ」
「ごめ……あ、いえ。えっと僕……物心付いた頃からセネト伯爵の屋敷にいて、アイーダお嬢様のお世話をしています」
「孤児と、言う事か……」
「はい、恐らく……」
「"その女"からは何と呼ばれている?」
 その質問に、正直に答えるかを迷ってしまう。
「あの、その……」
「いいから答えろ」
「は、はい。"カス"とか……"あんた"とか……」
 その瞬間、ランス様の眉間にキッとシワが寄る。
「……では、セネト卿からは?」
「あの……旦那様からは……話しかけられた事がありません」
 こんな事話してしまって僕は生きてまたあの屋敷に戻ることが出来るのだろうか。そう思うのに、なぜかランス様にはベラベラと話す事の出来る自分がいた。

 ランス様は自分を落ち着かせるようにふぅっと息を吐く。
「……お前のあの屋敷での扱いは大体理解した」
「こんな話……信じてもらえるのでしょうか……」
「入ってきたばかりのお前の言動と、そのやせ細った身体。それにその手首の痣も、お前の言う事が真実であると物語っている。そんなお前に無理矢理女装をさせて俺の屋敷まで平気で送り込んでくる連中の倫理観の欠如もうかがえる。安心しろ。俺はお前の事を1ミリも疑っていない」
「っ……!」
 嬉しすぎて言葉が出て来なかった。このお方は間違いなく僕の味方だ。そう思えた瞬間だった。

「とにかくお前をこのままあの屋敷に戻すわけにはいかない。ひとまずうちで保護しよう」
「! 保護……僕、帰らなくていいんですか……?」
「そうだと言っているだろう。帰りたいと言っても帰さん」
「で、でも……こんな事をして大丈夫なのでしょうか……」
 僕が帰らなかったらお嬢様は物凄く怒るのではないだろうか。そう考えると、急に不安が込み上げてきた。
「大丈夫だ。お前は何も心配しなくていい」
「ランス様……はい……!」

 この日僕の心は、生まれて初めてときめいたのであった。
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