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第一章
第四話「紺碧は、十字架の色。」その陸
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武彦は恭司にすっかりと懐いていた。恭司は子供が好きなのかな。それとも精神年齢が武彦に近いのかな。 恭司、しっかりしてるようで、なんか幼いとこあるもんな。
そんなことを思っていると、私の顔は自然に笑顔になっていたらしい。
「どうした? そんなに嬉しそうな顔をして。麗子となんかいい話でもしてきたのかよ」
「べつに、そういう話はしてない」
私は麗子さんに話した武彦の秘密を、恭司にも話すべきか一瞬迷った。しかし、それは今直ぐに恭司に話すことではないと思い直した。
それよりも、今は恭司に聞くことがある。
「ねぇ、今日はどうして私を誘ったの? 何か私に話したいことがあるんじゃないの?」
恭司は私の声が聞こえないのか、私のことを無視しているのか、武彦を抱っこしながら武彦と見つめ合い一緒に大笑いをしていた。
二人の向こうに、クルスの海が見える。
海岸沿いの入り江が波で侵食され十文字に削られ、そこに流れ込む海水が大きな十字架の様になる。それがクルスの海。
武彦も、そして恭司も、まるで海の水でできた透明で漆黒のような深い碧色の大きな大きな十字架を背負っているようだ。
「ねぇ、聞いているでしょ。今日はなんで私を誘ったの。麗子さんみたいな可愛い婚約者がいるのに」
私が張り上げた大声に、展望台の駐車場にいた他の観光客らしき人達が振り返る。
「やめろよ、そんな大きな声を出すの」
「じゃ、答えてよ。なんで私を誘ったの」
恭司は少し困った顔をして、武彦をギュッと抱きしめた。その仕草に、私は何故か史恵を思い出した。
「麗子は普通に幼馴染みだったんだよ」
そう言った恭司の瞳が、史恵と重なる。
「親父の実家は元々はここ日向市でさ、祖父さんが北九州で店を出す時に引っ越したんだ。俺が生まれる前の話だけどな」
恭司は抱いていた武彦を私に返すと、海の見えるベンチに独り腰を下ろした。私も隣に座り武彦を膝に座らせた。
「祖父さん、北九州に店を出す時に、祖母さんと離婚をしてるんだよ。親父はそれが許せなかったらしくて、よく俺と恭華を連れて祖母さんの住むこの日向市に遊びに来てたんだ。夏休みとか冬休みとか、学校が長く休みになる時は、恭華と二人で祖母さんの家に何日も泊まりで遊びに来てたよ。麗子とはその頃からの付き合いなんだ」
恭司の話を聞きながら、武彦はいつの間にか私の腕の中で寝てしまった。私は武彦の寝顔をじっと見つめ、武彦の頬を頬を指でそっと押さえた。
「おい、人の話をちゃんと聞いてるのかよ」
「聞いてる。でも、べつに麗子さんの話を聞きたい訳じゃない。私が聞きたいのは、どうして私を誘ったのかっていう理由」
「恭司、私もその話を聞きたい」
麗子さんの声がベンチの後ろから聞こえた。麗子さんは相変わらず怖い顔をしている。怖い顔をしていても美人は美人なのだから、なんか得しているなと私は思った。
「分かった。じゃ、麗子もこっちに座れよ」
そう言って恭司は私の反対側に麗子さんを座らせた。恭司を挟んで私と麗子さんが座る感じだ。
「綾瀬に、姉貴のことを聞きたかったんだよ」
私は残念なことに、その言葉に少しも驚かなかった。
いつも明るくて元気な恭華さんには、普通に幸せになって欲しいと思っている。でも、恭華さんの明るさや元気の良さは、どこか無理があるような気がしてたし、恭司の恭華さんに対する普段の態度を見ていても、ただの姉弟喧嘩以上のものを感じていたのである。
「恭華のやつ、不倫しているんだよ」
恭司の声はとても小さく、注意して聞かなければ、海からの風に掻き消されてしまいそうだった。
「恭華のやつ、そいつの子供を堕ろして、それでもそいつと別れずに付き合っているんだ」
恭司の声が、私と麗子さん、そして恭司の三人を包む狭い空間の中で、頼りなく響いた。
そんなことを思っていると、私の顔は自然に笑顔になっていたらしい。
「どうした? そんなに嬉しそうな顔をして。麗子となんかいい話でもしてきたのかよ」
「べつに、そういう話はしてない」
私は麗子さんに話した武彦の秘密を、恭司にも話すべきか一瞬迷った。しかし、それは今直ぐに恭司に話すことではないと思い直した。
それよりも、今は恭司に聞くことがある。
「ねぇ、今日はどうして私を誘ったの? 何か私に話したいことがあるんじゃないの?」
恭司は私の声が聞こえないのか、私のことを無視しているのか、武彦を抱っこしながら武彦と見つめ合い一緒に大笑いをしていた。
二人の向こうに、クルスの海が見える。
海岸沿いの入り江が波で侵食され十文字に削られ、そこに流れ込む海水が大きな十字架の様になる。それがクルスの海。
武彦も、そして恭司も、まるで海の水でできた透明で漆黒のような深い碧色の大きな大きな十字架を背負っているようだ。
「ねぇ、聞いているでしょ。今日はなんで私を誘ったの。麗子さんみたいな可愛い婚約者がいるのに」
私が張り上げた大声に、展望台の駐車場にいた他の観光客らしき人達が振り返る。
「やめろよ、そんな大きな声を出すの」
「じゃ、答えてよ。なんで私を誘ったの」
恭司は少し困った顔をして、武彦をギュッと抱きしめた。その仕草に、私は何故か史恵を思い出した。
「麗子は普通に幼馴染みだったんだよ」
そう言った恭司の瞳が、史恵と重なる。
「親父の実家は元々はここ日向市でさ、祖父さんが北九州で店を出す時に引っ越したんだ。俺が生まれる前の話だけどな」
恭司は抱いていた武彦を私に返すと、海の見えるベンチに独り腰を下ろした。私も隣に座り武彦を膝に座らせた。
「祖父さん、北九州に店を出す時に、祖母さんと離婚をしてるんだよ。親父はそれが許せなかったらしくて、よく俺と恭華を連れて祖母さんの住むこの日向市に遊びに来てたんだ。夏休みとか冬休みとか、学校が長く休みになる時は、恭華と二人で祖母さんの家に何日も泊まりで遊びに来てたよ。麗子とはその頃からの付き合いなんだ」
恭司の話を聞きながら、武彦はいつの間にか私の腕の中で寝てしまった。私は武彦の寝顔をじっと見つめ、武彦の頬を頬を指でそっと押さえた。
「おい、人の話をちゃんと聞いてるのかよ」
「聞いてる。でも、べつに麗子さんの話を聞きたい訳じゃない。私が聞きたいのは、どうして私を誘ったのかっていう理由」
「恭司、私もその話を聞きたい」
麗子さんの声がベンチの後ろから聞こえた。麗子さんは相変わらず怖い顔をしている。怖い顔をしていても美人は美人なのだから、なんか得しているなと私は思った。
「分かった。じゃ、麗子もこっちに座れよ」
そう言って恭司は私の反対側に麗子さんを座らせた。恭司を挟んで私と麗子さんが座る感じだ。
「綾瀬に、姉貴のことを聞きたかったんだよ」
私は残念なことに、その言葉に少しも驚かなかった。
いつも明るくて元気な恭華さんには、普通に幸せになって欲しいと思っている。でも、恭華さんの明るさや元気の良さは、どこか無理があるような気がしてたし、恭司の恭華さんに対する普段の態度を見ていても、ただの姉弟喧嘩以上のものを感じていたのである。
「恭華のやつ、不倫しているんだよ」
恭司の声はとても小さく、注意して聞かなければ、海からの風に掻き消されてしまいそうだった。
「恭華のやつ、そいつの子供を堕ろして、それでもそいつと別れずに付き合っているんだ」
恭司の声が、私と麗子さん、そして恭司の三人を包む狭い空間の中で、頼りなく響いた。
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