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第一章
第三話「牡丹は、心花の色。」その肆
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夕方からは徐々にお客さんが増えてくるから、私は急いでお客さんが利用し終わったテーブルの上を片付ける。食器を厨房まで運んだらテーブルを拭く。食器を運ぶのは何よりも難しかった。2本しかない腕で、なるべく多くの空いたお皿を持たなければいけない。片手でお皿の3つ持ちをするのは慣れるのに時間がかかる。
ガシャァンッ!!!
大きな音がしたかと思うと、自分の手から2枚のお皿が消えていた。いや、落としてしまった。お客さんの視線がチラチラと集まる。片付けようにも両手にまだ1枚ずつお皿が乗っていて、どうすればいいか分からなくて、身体中が凍ったように動けなくなった。なのに、顔だけは熱が出た時くらいに熱く感じる。
大きな音に気付いたのか、恭華さんが私の元へやってきた。恭華さんが目を丸くするのを見て、思わず目を逸らす。何だか怖かったのだ、なんて言われるのだろうか、と。
「大丈夫?怪我してない?」
恭華さんは私の安否を確認すると、お皿や散らばった箸、フォーク等を拾いながら、厨房に行くよう促した。幸い割れた食器は無かった。
厨房入る手前、レジにいた店長が
「大丈夫、よくあることだから」
と言ってくれたが、目が潤んでいるのを見られたくなくて、軽く頷いただけになってしまった。
厨房に入ると、私の歪んだ顔を見た玄さんと恭司君が声をかけてくれた。
「えっ。綾瀬、どうしたんだよ?」
「なあに、小さい失敗でもしたんやろ。そこまで気にせんでいいちゃ。それに、綾瀬はいつも頑張ってくれてるからな」
「迷惑かけて、心配させて、すみません」
ここで私はようやく言葉を発することができた。
「綾瀬ちゃん。そういう時は、すみませんって言わないの。心配してくれてありがとうって言うのよ。気にしなくても大丈夫だからね!私なんて、何年か前はしょっちゅう落としてたんだから」
私に続いて厨房に入ってきた恭華さんが言った。笑いながら言う恭華さんと、それに呆れたようにツッコむ恭司君を見ていたらつられて私も笑顔になった。
「ありがとうございます……!」
その後、さっき言えなかったお礼を店長に伝えて、バイトは終了した。ここには私を責める人も、見捨てる人もいないんだ。そのことが嬉しくて、宮崎に、日向市に、そして此処に来れて良かったと思う。
その気持ちを実感しながら店の外に出ると、顔の整った男の人がこちらに歩いてきた。初めて見る顔だ。
「こんばんは!」
その人は、私が挨拶をすると不思議そうな顔をして、そしてすぐに、あっ!と声を出した。
「もしかして新人の綾瀬さん?鈴木です。スタッフ紹介の時にはいなかったけど、一応遅番で料理人をしています。丁度、綾瀬さんや恭司と入れ替わりになるから、会うのが遅くなったみたい。挨拶できて良かったよ」
恭華さんの言う通り、すっっごいかっこいいなぁ……。
「よろしくお願いします!恭華さんから聞いてますよ、かっこいいって」
「え、恭華さんが?あの人は店長みたいな人がタイプかと思ってたのに」
「え?あぁ……たしかに」
「まぁ、これからよろしくね!じゃあ、またいつか」
そう言って鈴木さんは店に入り、そしてそれを待ってたかのように入れ替わりで恭司君が出てきた。
「綾瀬?こんなとこで何してるんだ?もう帰ったかと思ってたよ」
「鈴木さんに挨拶してたんです。さっき初めて、顔を合わせて」
「あぁ……そうなのか」
私的に、鈴木さんと対して変わらないくらい、恭司君はかっこよく見えるけど……。
「綾瀬さ、さっきの気にするなよ。今日市場行った時から疲れてたんだ。なのにここまで頑張れて、すげぇと思うぜ。姉貴なんか、落とすどころか割った皿だってあるし、俺も玄さんに叱られたことあるからな。皆失敗して当たり前なんだ」
そう言う恭司君は、すごくかっこよかった。恭司君は私に、元気出せよ、と笑顔を向けたが、すぐに焦ったような顔をして話題を変えた。私の目が潤んでいたのか、それとも頬が真っ赤になってしまっていたのか、はたまた両方なのか。
「……そういや、日曜の予定なんだけど」
耳に入ってきたその言葉に少し緊張しつつも、2人で集合時間や待ち合わせ場所を決めた。恭司君は迎えに来てくれると言ったけど、流石にそれは悪いと思って、近くの公園で集合することになった。その後、車で海に行く。久しぶりに人と遊ぶから、予定を決めている間、始終心が踊っていた。
「誘ってくれてありがとうございます!」
私がお礼を言うと、恭司君はため息をついた。
「それ、やめね?」
「えっ、何ですか」
「それだよそれ、敬語。気分転換で行くんだぜ?敬語じゃ堅苦しいだろ」
そう言われても中々戻せないんだということを伝えると、敬語禁止を言い渡されてしまった。
ガシャァンッ!!!
大きな音がしたかと思うと、自分の手から2枚のお皿が消えていた。いや、落としてしまった。お客さんの視線がチラチラと集まる。片付けようにも両手にまだ1枚ずつお皿が乗っていて、どうすればいいか分からなくて、身体中が凍ったように動けなくなった。なのに、顔だけは熱が出た時くらいに熱く感じる。
大きな音に気付いたのか、恭華さんが私の元へやってきた。恭華さんが目を丸くするのを見て、思わず目を逸らす。何だか怖かったのだ、なんて言われるのだろうか、と。
「大丈夫?怪我してない?」
恭華さんは私の安否を確認すると、お皿や散らばった箸、フォーク等を拾いながら、厨房に行くよう促した。幸い割れた食器は無かった。
厨房入る手前、レジにいた店長が
「大丈夫、よくあることだから」
と言ってくれたが、目が潤んでいるのを見られたくなくて、軽く頷いただけになってしまった。
厨房に入ると、私の歪んだ顔を見た玄さんと恭司君が声をかけてくれた。
「えっ。綾瀬、どうしたんだよ?」
「なあに、小さい失敗でもしたんやろ。そこまで気にせんでいいちゃ。それに、綾瀬はいつも頑張ってくれてるからな」
「迷惑かけて、心配させて、すみません」
ここで私はようやく言葉を発することができた。
「綾瀬ちゃん。そういう時は、すみませんって言わないの。心配してくれてありがとうって言うのよ。気にしなくても大丈夫だからね!私なんて、何年か前はしょっちゅう落としてたんだから」
私に続いて厨房に入ってきた恭華さんが言った。笑いながら言う恭華さんと、それに呆れたようにツッコむ恭司君を見ていたらつられて私も笑顔になった。
「ありがとうございます……!」
その後、さっき言えなかったお礼を店長に伝えて、バイトは終了した。ここには私を責める人も、見捨てる人もいないんだ。そのことが嬉しくて、宮崎に、日向市に、そして此処に来れて良かったと思う。
その気持ちを実感しながら店の外に出ると、顔の整った男の人がこちらに歩いてきた。初めて見る顔だ。
「こんばんは!」
その人は、私が挨拶をすると不思議そうな顔をして、そしてすぐに、あっ!と声を出した。
「もしかして新人の綾瀬さん?鈴木です。スタッフ紹介の時にはいなかったけど、一応遅番で料理人をしています。丁度、綾瀬さんや恭司と入れ替わりになるから、会うのが遅くなったみたい。挨拶できて良かったよ」
恭華さんの言う通り、すっっごいかっこいいなぁ……。
「よろしくお願いします!恭華さんから聞いてますよ、かっこいいって」
「え、恭華さんが?あの人は店長みたいな人がタイプかと思ってたのに」
「え?あぁ……たしかに」
「まぁ、これからよろしくね!じゃあ、またいつか」
そう言って鈴木さんは店に入り、そしてそれを待ってたかのように入れ替わりで恭司君が出てきた。
「綾瀬?こんなとこで何してるんだ?もう帰ったかと思ってたよ」
「鈴木さんに挨拶してたんです。さっき初めて、顔を合わせて」
「あぁ……そうなのか」
私的に、鈴木さんと対して変わらないくらい、恭司君はかっこよく見えるけど……。
「綾瀬さ、さっきの気にするなよ。今日市場行った時から疲れてたんだ。なのにここまで頑張れて、すげぇと思うぜ。姉貴なんか、落とすどころか割った皿だってあるし、俺も玄さんに叱られたことあるからな。皆失敗して当たり前なんだ」
そう言う恭司君は、すごくかっこよかった。恭司君は私に、元気出せよ、と笑顔を向けたが、すぐに焦ったような顔をして話題を変えた。私の目が潤んでいたのか、それとも頬が真っ赤になってしまっていたのか、はたまた両方なのか。
「……そういや、日曜の予定なんだけど」
耳に入ってきたその言葉に少し緊張しつつも、2人で集合時間や待ち合わせ場所を決めた。恭司君は迎えに来てくれると言ったけど、流石にそれは悪いと思って、近くの公園で集合することになった。その後、車で海に行く。久しぶりに人と遊ぶから、予定を決めている間、始終心が踊っていた。
「誘ってくれてありがとうございます!」
私がお礼を言うと、恭司君はため息をついた。
「それ、やめね?」
「えっ、何ですか」
「それだよそれ、敬語。気分転換で行くんだぜ?敬語じゃ堅苦しいだろ」
そう言われても中々戻せないんだということを伝えると、敬語禁止を言い渡されてしまった。
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