海の嘘と空の真実

魔瑠琥&紗悠理

文字の大きさ
上 下
6 / 28
第一章

第二話「赭は、再会の色。」その壱

しおりを挟む
バイト初日はとても大変だった。

レジの打ち方に慣れなかったり、接客の言葉を間違えた。

お昼を過ぎて客足が途絶えたところで厨房に入ると、恭華さんの弟と目が合う。

「恭司さん、お疲れ様です」

「あんた……いや、綾瀬さん、俺と同じくらいの歳だろ。そんなに畏まらなくていいって」

とは言われたものの、直ぐに敬語が抜けなくて

「ありがとうございます!」

と言ってしまった。恭司さんは少し驚いた顔をしてから、面白がるように笑った。恭華さんとはまた違うけれど、どこか面影があるその笑顔に私は安心させられた。そこに、恭華さんがやってきた。

「あれ、綾瀬さんもここにいたんだ。大丈夫?恭司にいじめられたらすぐ言ってくれていいからね」

「おい、そんな言い方ないだろ。少し話してただけだ!」

「そうですよ、恭華さん。恭司君は私の緊張を解こうとしてくれたんですよ!」

そう言いながら恭司君を見ると、目を逸らされた。

「えっ、恭司が?まぁ、こんな生意気な弟だけど……根はいい奴だから、仲良くしてやって。」

目を細める恭華さんに、私は威勢のいい声で返事をする。

恭司君は苛立ちが隠せないようで、眉間にシワを寄せている。

「恭司、これ手伝ってくれ」

玄さんの声が飛んできて、恭司君は慌てたように玄さんの元へ向かった。

……私、恭司さんのこと恭司君って呼んじゃった。あんなに緊張してたのに、恭華さんが来たら緊張が解けて……。恭華さんの笑顔はどこか安心させられるものがある。でもそれは、恭司君も同じだったことに気付く。

そういえば、皆にちゃんと挨拶できてなかったな。また改めて、しっかり挨拶しなきゃ。

「私たちもそろそろ行こうか」

恭華さんにそう言われ、厨房から出る。

その後も多少のミスはあったものの、無事に仕事を終えることができた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

糖度高めな秘密の密会はいかが?

桜井 響華
恋愛
彩羽(いろは)コーポレーションで 雑貨デザイナー兼その他のデザインを 担当している、秋葉 紫です。 毎日のように 鬼畜な企画部長からガミガミ言われて、 日々、癒しを求めています。 ストレス解消法の一つは、 同じ系列のカフェに行く事。 そこには、 癒しの王子様が居るから───・・・・・ カフェのアルバイト店員? でも、本当は御曹司!? 年下王子様系か...Sな俺様上司か… 入社5年目、私にも恋のチャンスが 巡って来たけれど… 早くも波乱の予感───

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました

せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜 神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。 舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。 専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。 そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。 さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。 その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。 海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。 会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。 一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。 再会の日は……。

秘密 〜官能短編集〜

槙璃人
恋愛
不定期に更新していく官能小説です。 まだまだ下手なので優しい目で見てくれればうれしいです。 小さなことでもいいので感想くれたら喜びます。 こここうしたらいいんじゃない?などもお願いします。

処理中です...