45 / 46
44話 思い出の荷台と、私の全部。
しおりを挟む
12月1日の日曜日。
引っ越し当日の朝は、昨日よりも少し暖かくて晴れやかな天気だった。
カーテンを外した窓辺には、雲ひとつない青空が広がっている。
冬の陽光が差し込むワンルームは、いつになく眩しい。
白っぽい壁紙の模様部分が反射して、キラキラと光っていた。
邪魔にならない部屋の一角で、ぼんやりと立ち尽くす。
家具や家電が順々に運び出されていくのを、ただただ私は見つめている。
何もかもが、綺麗さっぱり消えていく。
それなりに愛着があるものばかりだから、泣きたいような気持ちになった。
壁の余白が増えていくたびに、唇を強く引き結ぶ。
仕方がない。
無理矢理、自分を納得させる。
手元に残ったのは、衣装ケースとスーツケース。
いくつかの鞄と、何も入っていない白色のローチェストだけ。
私の持ち物の全部。
「もう、いいですかね?」
作業員のお兄さんが歯を見せて笑う。
絵に描いたような営業用スマイルだけど、すごく爽やかな雰囲気があった。
ぐるり、と辺りを見回してから私は頷く。
「ありがとうございました」
「毎度、ありがとうございます」
笑顔を崩すことなく、お兄さんは言った。
大学生活の思い出が詰まったトラックの荷台は、発車音と共に私から遠ざかっていく。
もう戻ってくることはない。
かつての純粋無垢な1年生の私が、想像もしていなかったような今がここにある。
平常心を保つために、私は深く息を吐いた。
家具や家電が置いてあった場所の、壁と床の埃をハンディモップで取る。
もうすぐ、レンタカーでお迎えが来ることになっている。
下を向いている時間はない。
程なくして、インターホンが鳴った。
モニターを覗くと、玉森くんが立っている。
きめ細やかな透明感のある肌。
形の良い唇。
ぱっちり二重で、目力の強い瞳。
ふと、考えてみれば。
視線や表情を気にすることなく、まじまじと彼の顔を見られるのは画面越しくらいのものだ。
改めて。
この顔が嫌いな人なんていないだろうな。
人生で苦労したことなさそう、という僻んだ感想を持ってしまう。
「超絶なイケメンはいいですね」
半ば無意識のうちに。
口に出した私の言葉は、聞こえてしまったようで。
「……ありがとう。超絶、は、なんか照れる」
画面の向こうで、彼に照れられてしまった。
引っ越し当日の朝は、昨日よりも少し暖かくて晴れやかな天気だった。
カーテンを外した窓辺には、雲ひとつない青空が広がっている。
冬の陽光が差し込むワンルームは、いつになく眩しい。
白っぽい壁紙の模様部分が反射して、キラキラと光っていた。
邪魔にならない部屋の一角で、ぼんやりと立ち尽くす。
家具や家電が順々に運び出されていくのを、ただただ私は見つめている。
何もかもが、綺麗さっぱり消えていく。
それなりに愛着があるものばかりだから、泣きたいような気持ちになった。
壁の余白が増えていくたびに、唇を強く引き結ぶ。
仕方がない。
無理矢理、自分を納得させる。
手元に残ったのは、衣装ケースとスーツケース。
いくつかの鞄と、何も入っていない白色のローチェストだけ。
私の持ち物の全部。
「もう、いいですかね?」
作業員のお兄さんが歯を見せて笑う。
絵に描いたような営業用スマイルだけど、すごく爽やかな雰囲気があった。
ぐるり、と辺りを見回してから私は頷く。
「ありがとうございました」
「毎度、ありがとうございます」
笑顔を崩すことなく、お兄さんは言った。
大学生活の思い出が詰まったトラックの荷台は、発車音と共に私から遠ざかっていく。
もう戻ってくることはない。
かつての純粋無垢な1年生の私が、想像もしていなかったような今がここにある。
平常心を保つために、私は深く息を吐いた。
家具や家電が置いてあった場所の、壁と床の埃をハンディモップで取る。
もうすぐ、レンタカーでお迎えが来ることになっている。
下を向いている時間はない。
程なくして、インターホンが鳴った。
モニターを覗くと、玉森くんが立っている。
きめ細やかな透明感のある肌。
形の良い唇。
ぱっちり二重で、目力の強い瞳。
ふと、考えてみれば。
視線や表情を気にすることなく、まじまじと彼の顔を見られるのは画面越しくらいのものだ。
改めて。
この顔が嫌いな人なんていないだろうな。
人生で苦労したことなさそう、という僻んだ感想を持ってしまう。
「超絶なイケメンはいいですね」
半ば無意識のうちに。
口に出した私の言葉は、聞こえてしまったようで。
「……ありがとう。超絶、は、なんか照れる」
画面の向こうで、彼に照れられてしまった。
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
遅咲きの恋の花は深い愛に溺れる
あさの紅茶
恋愛
学生のときにストーカーされたことがトラウマで恋愛に二の足を踏んでいる、橘和花(25)
仕事はできるが恋愛は下手なエリートチーム長、佐伯秀人(32)
職場で気分が悪くなった和花を助けてくれたのは、通りすがりの佐伯だった。
「あの、その、佐伯さんは覚えていらっしゃらないかもしれませんが、その節はお世話になりました」
「……とても驚きましたし心配しましたけど、元気な姿を見ることができてほっとしています」
和花と秀人、恋愛下手な二人の恋はここから始まった。
**********
このお話は他のサイトにも掲載しています
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる