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雨、時々ラプソディ
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何かが私の身体に触れた。一瞬、あの双子の顔が頭に浮かぶ。でも、すぐに消えて、視界には一面の茜空が広がっていた。
何かが触れた感触は、身体を愛撫する風だった。
はあ、と思わず、溜め息が漏れる。嫌な夢を見ていたんだ、と信じようとしている私がいた。
「あなたが、歩さんですね」
不意に、すぐ側で声がした。身体を起こして、そちらを見る。振り返った先に、穏やかな顔をした美青年が立っていた。思わず、見惚れてしまう。
黒いコートに黒いスラックスという格好の、美しい彼。肩ほどまである髪も、切れ長の瞳も、同じく黒色をしていた。
「私は、レムです」
艶やかな瞳が私を見つめていた。彼の表情は全く変わらない。穏やかな笑顔の仮面が、張りついているみたいに。
「歩さんは、神話のノストロ・ペリカノを知っていますか?」
真っ直ぐに私を見つめる彼は、そう尋ねた。私が横に首を振ると、話してくれる。
ノストロ・ペリカノは、幻獣であるペリカンのお話です。母鳥は我が子のかわいさの余り、我が子を殺してしまいます。それを見た父鳥が自らの胸を突いて、自らの血で我が子を生き返らせます。愛情溢れる物語です。西洋の童話におけるペリカンの嘴は、男性器を示すだけのことが多いにも関わらず、素晴らしいですね。
不思議と心に響く声だった。彼は真っ黒な瞳を向けて、空を仰ぐ。
しばらく、茜雲を追いかけて、再び私に瞳を向けた。そよぐ風が鼻先を掠める。そして、彼は言葉を続ける。
迷ったのですよ、あなたは。と切り出して。
「あなたがこの世界を知らないのではなく、この世界があなたを知らないのです」
無表情な彼の瞳が、私を映していた。
「だから、この世界から脱出するためのヒントを差し上げましょう」
この世界の人にしては、彼は友好的だった。仮面をつけたような人だけど、嫌な感じは受けない。
彼の肩ほどまでの髪が、柔らかな風になびく。薄紅色の唇が、おもむろに開いた。
情愛の末の苦痛。背徳の享楽。
何かが触れた感触は、身体を愛撫する風だった。
はあ、と思わず、溜め息が漏れる。嫌な夢を見ていたんだ、と信じようとしている私がいた。
「あなたが、歩さんですね」
不意に、すぐ側で声がした。身体を起こして、そちらを見る。振り返った先に、穏やかな顔をした美青年が立っていた。思わず、見惚れてしまう。
黒いコートに黒いスラックスという格好の、美しい彼。肩ほどまである髪も、切れ長の瞳も、同じく黒色をしていた。
「私は、レムです」
艶やかな瞳が私を見つめていた。彼の表情は全く変わらない。穏やかな笑顔の仮面が、張りついているみたいに。
「歩さんは、神話のノストロ・ペリカノを知っていますか?」
真っ直ぐに私を見つめる彼は、そう尋ねた。私が横に首を振ると、話してくれる。
ノストロ・ペリカノは、幻獣であるペリカンのお話です。母鳥は我が子のかわいさの余り、我が子を殺してしまいます。それを見た父鳥が自らの胸を突いて、自らの血で我が子を生き返らせます。愛情溢れる物語です。西洋の童話におけるペリカンの嘴は、男性器を示すだけのことが多いにも関わらず、素晴らしいですね。
不思議と心に響く声だった。彼は真っ黒な瞳を向けて、空を仰ぐ。
しばらく、茜雲を追いかけて、再び私に瞳を向けた。そよぐ風が鼻先を掠める。そして、彼は言葉を続ける。
迷ったのですよ、あなたは。と切り出して。
「あなたがこの世界を知らないのではなく、この世界があなたを知らないのです」
無表情な彼の瞳が、私を映していた。
「だから、この世界から脱出するためのヒントを差し上げましょう」
この世界の人にしては、彼は友好的だった。仮面をつけたような人だけど、嫌な感じは受けない。
彼の肩ほどまでの髪が、柔らかな風になびく。薄紅色の唇が、おもむろに開いた。
情愛の末の苦痛。背徳の享楽。
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