上 下
71 / 136

71.

しおりを挟む
71.


借りててよかった飛空艇モドキ。

王都までは飛行魔法のみで操縦していたが、エディンまで急ぐ必要が出たため、追加で風魔法を応用して船を飛ばした。

我単体なら別に必要ないのだが、料理長が一緒に行くって聞かないんだもん。

「アリス様?かなりのスピードですが、これは一体どうやって…」

料理長は驚いている。…行きは驚かなかったのに。

「飛行魔法と風魔法、ついでに乗船者の保護の為結界魔法を併用している」
「複数同時発動……?」

料理長は戸惑っている。愉快!あの料理長を驚愕させる事ができる日が来るなど、記憶を取り戻す前の我は想像もしていなかった!


「慣れれば簡単。料理長が右手で主にムニエル、左手で主にアクアパッツァ、ついでにスープの仕込みをしてるのと同じ」
「……そうですか」

いつも凄いが料理長が調理をしている時の姿は見事だぞ。流動的というか、無駄な動きが一切無く、だからといってサボっている訳は勿論ない。

我もいつかはあんな風に腕を振るってみたいものだ。うむうむ。…む?色々学ばせてもらったが、まだ貴族御用達のレストランで腕を奮うには我の腕は未熟だぞ。精々街の飯屋がいいところだ。他の店と勝負して勝てるとしたら、品数くらいだろうな。
魔物の肉レパートリーなんて中々無いだろうし。スポンサーはマリムが付いてくれるだろう。何せ"悪食"だし。

…そんなことはさておき、


「エディンが見えたな。魔物たちは…まだ遠いか?」
『それなりに遠いケド、……数が多過ぎるんじゃナイかしラ?』

リィが気配を感じ取っている。匂いで分かるのか?

『魔獣の群れがまるで大波のようですわね』

我に掴まったままのルシアがエディンを一瞥して、あの程度の街、瞬きの間に飲み込まれて終わりでしょうと言う。…ルシアも分かるのか。

道中に料理長から聞いた話では、既に魔獣暴走に巻き込まれて壊れてしまった街には救護部隊などを送り込み済みとのこと。原因究明については更に別働隊が出ている為、我らがすべきなのは魔獣の掃討ということになるのだが…。

「……アレは?」
『何か揉めてるワネ』

エディンを防衛する為に冒険者達が待機している。その後方で、何やら今にも泣き崩れそうな者たちが、ギルマスに嘆願?をしている。浅くはない傷を負っているな。
皆一様に同じフード付きのマントを羽織っている。ちらほら冒険者もいるが、マント達には子供も多いのが気になる。

「料理長、あのマントの人たちって、誰?」

一定数どの街にもいた気がする。この際だと思って料理長に聞いてみると、料理長は暫く観察して何か納得したらしかった。

「恐らく、魔獣ギルドの登録者です」

魔獣ギルドの登録者?

「アリス様のように従魔を持つ者は、冒険者ギルドか魔獣ギルドに所属しているのはご存じですね?
冒険者ギルドに登録すれば、完全に収入は出来高になりますが従魔を持つ者が自分の意思で受ける依頼を選べます。
対して魔獣ギルドは依頼が自動的に割り振られます。多いのは荷運びです。危険も少ない為、余程の事が無い限り高額な報酬となることはありません。…そして、アリス様のように本人が強く無い場合、大抵魔獣ギルドに所属しています。
生計を立てる為ですから、どう言った経緯で従魔を手に入れるかは各々違うでしょうが、従魔が居なくなっては困る人たちですよ」


どうやら今回エディンに来るまでまでに暴走した群れに加わった魔獣の飼い主達らしい。従魔達は西回りで向かってきているからな。直線的にエディンまでくればまあ、従魔より早くたどり着けなくも無い。

ギルマスへの懇願は、恐らく自分たちの従魔を殺さないでくれとか、そういうのだろうな。

「…」
「アリス様、甘さはお捨てください。これは人命に関わる事です」
「…何も言ってないよ?」
「アリス様はお優しい。大方、冒険者達が魔獣達を掃討した場合に、あそこにいる子供たちが苦労する事を考えたのでしょう?」

…だから何も言ってないのに。うーむ。前世の我なら、止めてくれと言われれば従魔どころかあの群れ全て、冒険者も何もかも気にせず吹っ飛ばして、生存者は我1人という状況にすることを躊躇わんのだが…。
"アリステラ"として生き、前世の我が融合したような今の我は、どうにも、ああいった一部すら切り捨てたく無いという甘ちゃん思考が入ってしまうな。

……いやいや、前世の我も子供には優しかったぞ!だから一個滅ぼし損ねた国があるのだ!そうとも!その国が現在においてどの国よりも魔法において発展し、権威を保っていられるのは元を正せば我のお陰!そこを勘違いしてもらっては困る!もっと平伏せ!我を敬えい!!

「……ルシア、ギルマスに伝言を頼んでいいか?」
『はい。アリス様の為でございましたら、呪いの中心地でもお届けいたしますわ』
「届ける相手はギルマスな。すぐ真下だ」
『心得ておりますわ』

我の伝言に対して料理長は難色を示すように顔を顰めたが何も言わなかった。

暫くしてルシアが戻ってきて、ギルマスから詳細を預かってきた。

「数にして5千程度ですが、…中にはAクラス複数名で討伐推奨の魔獣もいますね。従魔もそうですが、一体誰が持っていたのか。呆れるくらい能力値が高い。エディンにいる冒険者と、今の急ぎ向かってきている冒険者などでは歯が立ちませんよ。
睡眠薬麻痺薬は効かず、勿論"首輪"でも制御不能。……Sランクを動かすのも納得できる話です」

料理長がそう呟く。成る程?やはり料理長は料理長で、ギルドから討伐依頼をされていると思われる。だから付いてくるって聞かなかったのか。なっとく。

それと、ちょっと疑問に思ったのだが。

「料理長、首輪で制御不能って、どういう事?」

というかその首輪とは、我が冒険者登録の時に貰った趣味の悪過ぎる呪いの首輪の事だろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は最強を志す! 〜前世の記憶を思い出したので、とりあえず最強目指して冒険者になろうと思います!〜

フウ
ファンタジー
 ソフィア・ルスキューレ公爵令嬢5歳。 先日、第一王子セドリックの婚約者として初めての顔合わせでセドリックの顔を見た瞬間、前世の記憶を思い出しました。  どうやら私は恋愛要素に本格的な……というより鬼畜すぎる難易度の戦闘要素もプラスしたRPGな乙女ゲームの悪役令嬢らしい。 「断罪? 婚約破棄? 国外追放? そして冤罪で殺される? 上等じゃない!」  超絶高スペックな悪役令嬢を舐めるなよっ! 殺される運命というのであれば、最強になってその運命をねじ伏せてやるわ!! 「というわけでお父様! 私、手始めにまず冒険者になります!!」    これは、前世の記憶を思い出したちょっとずれていてポンコツな天然お転婆令嬢が家族の力、自身の力を用いて最強を目指して運命をねじ伏せる物語!! ※ この小説は「小説家になろう」 「カクヨム」でも公開しております。 上記サイトでは先行投稿しております。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?

よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ! こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ! これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・ どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。 周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ? 俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ? それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ! よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・ え?俺様チート持ちだって?チートって何だ? @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

処理中です...