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借りててよかった飛空艇モドキ。
王都までは飛行魔法のみで操縦していたが、エディンまで急ぐ必要が出たため、追加で風魔法を応用して船を飛ばした。
我単体なら別に必要ないのだが、料理長が一緒に行くって聞かないんだもん。
「アリス様?かなりのスピードですが、これは一体どうやって…」
料理長は驚いている。…行きは驚かなかったのに。
「飛行魔法と風魔法、ついでに乗船者の保護の為結界魔法を併用している」
「複数同時発動……?」
料理長は戸惑っている。愉快!あの料理長を驚愕させる事ができる日が来るなど、記憶を取り戻す前の我は想像もしていなかった!
「慣れれば簡単。料理長が右手で主にムニエル、左手で主にアクアパッツァ、ついでにスープの仕込みをしてるのと同じ」
「……そうですか」
いつも凄いが料理長が調理をしている時の姿は見事だぞ。流動的というか、無駄な動きが一切無く、だからといってサボっている訳は勿論ない。
我もいつかはあんな風に腕を振るってみたいものだ。うむうむ。…む?色々学ばせてもらったが、まだ貴族御用達のレストランで腕を奮うには我の腕は未熟だぞ。精々街の飯屋がいいところだ。他の店と勝負して勝てるとしたら、品数くらいだろうな。
魔物の肉レパートリーなんて中々無いだろうし。スポンサーはマリムが付いてくれるだろう。何せ"悪食"だし。
…そんなことはさておき、
「エディンが見えたな。魔物たちは…まだ遠いか?」
『それなりに遠いケド、……数が多過ぎるんじゃナイかしラ?』
リィが気配を感じ取っている。匂いで分かるのか?
『魔獣の群れがまるで大波のようですわね』
我に掴まったままのルシアがエディンを一瞥して、あの程度の街、瞬きの間に飲み込まれて終わりでしょうと言う。…ルシアも分かるのか。
道中に料理長から聞いた話では、既に魔獣暴走に巻き込まれて壊れてしまった街には救護部隊などを送り込み済みとのこと。原因究明については更に別働隊が出ている為、我らがすべきなのは魔獣の掃討ということになるのだが…。
「……アレは?」
『何か揉めてるワネ』
エディンを防衛する為に冒険者達が待機している。その後方で、何やら今にも泣き崩れそうな者たちが、ギルマスに嘆願?をしている。浅くはない傷を負っているな。
皆一様に同じフード付きのマントを羽織っている。ちらほら冒険者もいるが、マント達には子供も多いのが気になる。
「料理長、あのマントの人たちって、誰?」
一定数どの街にもいた気がする。この際だと思って料理長に聞いてみると、料理長は暫く観察して何か納得したらしかった。
「恐らく、魔獣ギルドの登録者です」
魔獣ギルドの登録者?
「アリス様のように従魔を持つ者は、冒険者ギルドか魔獣ギルドに所属しているのはご存じですね?
冒険者ギルドに登録すれば、完全に収入は出来高になりますが従魔を持つ者が自分の意思で受ける依頼を選べます。
対して魔獣ギルドは依頼が自動的に割り振られます。多いのは荷運びです。危険も少ない為、余程の事が無い限り高額な報酬となることはありません。…そして、アリス様のように本人が強く無い場合、大抵魔獣ギルドに所属しています。
生計を立てる為ですから、どう言った経緯で従魔を手に入れるかは各々違うでしょうが、従魔が居なくなっては困る人たちですよ」
どうやら今回エディンに来るまでまでに暴走した群れに加わった魔獣の飼い主達らしい。従魔達は西回りで向かってきているからな。直線的にエディンまでくればまあ、従魔より早くたどり着けなくも無い。
ギルマスへの懇願は、恐らく自分たちの従魔を殺さないでくれとか、そういうのだろうな。
「…」
「アリス様、甘さはお捨てください。これは人命に関わる事です」
「…何も言ってないよ?」
「アリス様はお優しい。大方、冒険者達が魔獣達を掃討した場合に、あそこにいる子供たちが苦労する事を考えたのでしょう?」
…だから何も言ってないのに。うーむ。前世の我なら、止めてくれと言われれば従魔どころかあの群れ全て、冒険者も何もかも気にせず吹っ飛ばして、生存者は我1人という状況にすることを躊躇わんのだが…。
"アリステラ"として生き、前世の我が融合したような今の我は、どうにも、ああいった一部すら切り捨てたく無いという甘ちゃん思考が入ってしまうな。
……いやいや、前世の我も子供には優しかったぞ!だから一個滅ぼし損ねた国があるのだ!そうとも!その国が現在においてどの国よりも魔法において発展し、権威を保っていられるのは元を正せば我のお陰!そこを勘違いしてもらっては困る!もっと平伏せ!我を敬えい!!
「……ルシア、ギルマスに伝言を頼んでいいか?」
『はい。アリス様の為でございましたら、呪いの中心地でもお届けいたしますわ』
「届ける相手はギルマスな。すぐ真下だ」
『心得ておりますわ』
我の伝言に対して料理長は難色を示すように顔を顰めたが何も言わなかった。
暫くしてルシアが戻ってきて、ギルマスから詳細を預かってきた。
「数にして5千程度ですが、…中にはAクラス複数名で討伐推奨の魔獣もいますね。従魔もそうですが、一体誰が持っていたのか。呆れるくらい能力値が高い。エディンにいる冒険者と、今の急ぎ向かってきている冒険者などでは歯が立ちませんよ。
睡眠薬麻痺薬は効かず、勿論"首輪"でも制御不能。……Sランクを動かすのも納得できる話です」
料理長がそう呟く。成る程?やはり料理長は料理長で、ギルドから討伐依頼をされていると思われる。だから付いてくるって聞かなかったのか。なっとく。
それと、ちょっと疑問に思ったのだが。
「料理長、首輪で制御不能って、どういう事?」
というかその首輪とは、我が冒険者登録の時に貰った趣味の悪過ぎる呪いの首輪の事だろうか。
借りててよかった飛空艇モドキ。
王都までは飛行魔法のみで操縦していたが、エディンまで急ぐ必要が出たため、追加で風魔法を応用して船を飛ばした。
我単体なら別に必要ないのだが、料理長が一緒に行くって聞かないんだもん。
「アリス様?かなりのスピードですが、これは一体どうやって…」
料理長は驚いている。…行きは驚かなかったのに。
「飛行魔法と風魔法、ついでに乗船者の保護の為結界魔法を併用している」
「複数同時発動……?」
料理長は戸惑っている。愉快!あの料理長を驚愕させる事ができる日が来るなど、記憶を取り戻す前の我は想像もしていなかった!
「慣れれば簡単。料理長が右手で主にムニエル、左手で主にアクアパッツァ、ついでにスープの仕込みをしてるのと同じ」
「……そうですか」
いつも凄いが料理長が調理をしている時の姿は見事だぞ。流動的というか、無駄な動きが一切無く、だからといってサボっている訳は勿論ない。
我もいつかはあんな風に腕を振るってみたいものだ。うむうむ。…む?色々学ばせてもらったが、まだ貴族御用達のレストランで腕を奮うには我の腕は未熟だぞ。精々街の飯屋がいいところだ。他の店と勝負して勝てるとしたら、品数くらいだろうな。
魔物の肉レパートリーなんて中々無いだろうし。スポンサーはマリムが付いてくれるだろう。何せ"悪食"だし。
…そんなことはさておき、
「エディンが見えたな。魔物たちは…まだ遠いか?」
『それなりに遠いケド、……数が多過ぎるんじゃナイかしラ?』
リィが気配を感じ取っている。匂いで分かるのか?
『魔獣の群れがまるで大波のようですわね』
我に掴まったままのルシアがエディンを一瞥して、あの程度の街、瞬きの間に飲み込まれて終わりでしょうと言う。…ルシアも分かるのか。
道中に料理長から聞いた話では、既に魔獣暴走に巻き込まれて壊れてしまった街には救護部隊などを送り込み済みとのこと。原因究明については更に別働隊が出ている為、我らがすべきなのは魔獣の掃討ということになるのだが…。
「……アレは?」
『何か揉めてるワネ』
エディンを防衛する為に冒険者達が待機している。その後方で、何やら今にも泣き崩れそうな者たちが、ギルマスに嘆願?をしている。浅くはない傷を負っているな。
皆一様に同じフード付きのマントを羽織っている。ちらほら冒険者もいるが、マント達には子供も多いのが気になる。
「料理長、あのマントの人たちって、誰?」
一定数どの街にもいた気がする。この際だと思って料理長に聞いてみると、料理長は暫く観察して何か納得したらしかった。
「恐らく、魔獣ギルドの登録者です」
魔獣ギルドの登録者?
「アリス様のように従魔を持つ者は、冒険者ギルドか魔獣ギルドに所属しているのはご存じですね?
冒険者ギルドに登録すれば、完全に収入は出来高になりますが従魔を持つ者が自分の意思で受ける依頼を選べます。
対して魔獣ギルドは依頼が自動的に割り振られます。多いのは荷運びです。危険も少ない為、余程の事が無い限り高額な報酬となることはありません。…そして、アリス様のように本人が強く無い場合、大抵魔獣ギルドに所属しています。
生計を立てる為ですから、どう言った経緯で従魔を手に入れるかは各々違うでしょうが、従魔が居なくなっては困る人たちですよ」
どうやら今回エディンに来るまでまでに暴走した群れに加わった魔獣の飼い主達らしい。従魔達は西回りで向かってきているからな。直線的にエディンまでくればまあ、従魔より早くたどり着けなくも無い。
ギルマスへの懇願は、恐らく自分たちの従魔を殺さないでくれとか、そういうのだろうな。
「…」
「アリス様、甘さはお捨てください。これは人命に関わる事です」
「…何も言ってないよ?」
「アリス様はお優しい。大方、冒険者達が魔獣達を掃討した場合に、あそこにいる子供たちが苦労する事を考えたのでしょう?」
…だから何も言ってないのに。うーむ。前世の我なら、止めてくれと言われれば従魔どころかあの群れ全て、冒険者も何もかも気にせず吹っ飛ばして、生存者は我1人という状況にすることを躊躇わんのだが…。
"アリステラ"として生き、前世の我が融合したような今の我は、どうにも、ああいった一部すら切り捨てたく無いという甘ちゃん思考が入ってしまうな。
……いやいや、前世の我も子供には優しかったぞ!だから一個滅ぼし損ねた国があるのだ!そうとも!その国が現在においてどの国よりも魔法において発展し、権威を保っていられるのは元を正せば我のお陰!そこを勘違いしてもらっては困る!もっと平伏せ!我を敬えい!!
「……ルシア、ギルマスに伝言を頼んでいいか?」
『はい。アリス様の為でございましたら、呪いの中心地でもお届けいたしますわ』
「届ける相手はギルマスな。すぐ真下だ」
『心得ておりますわ』
我の伝言に対して料理長は難色を示すように顔を顰めたが何も言わなかった。
暫くしてルシアが戻ってきて、ギルマスから詳細を預かってきた。
「数にして5千程度ですが、…中にはAクラス複数名で討伐推奨の魔獣もいますね。従魔もそうですが、一体誰が持っていたのか。呆れるくらい能力値が高い。エディンにいる冒険者と、今の急ぎ向かってきている冒険者などでは歯が立ちませんよ。
睡眠薬麻痺薬は効かず、勿論"首輪"でも制御不能。……Sランクを動かすのも納得できる話です」
料理長がそう呟く。成る程?やはり料理長は料理長で、ギルドから討伐依頼をされていると思われる。だから付いてくるって聞かなかったのか。なっとく。
それと、ちょっと疑問に思ったのだが。
「料理長、首輪で制御不能って、どういう事?」
というかその首輪とは、我が冒険者登録の時に貰った趣味の悪過ぎる呪いの首輪の事だろうか。
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