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洞窟内を加減なしで突っ走る。頭の上のリィへの配慮はこの際無しだ。

「ひぃッ!?や、やめ…くるなぁああ!!」
「邪魔」

途中、追って来た誘拐犯をすれ違い様に蹴り飛ばして進んだ。蹴られて気を失い、壁にそのままぶつかって更に頭を打ったようだから暫くは目を覚まさないだろう。放置決定。

麻袋の中身の子供は無事だが、先程見かけた限り男なので構ってやるのは後だ。被害に遭ったのはお気の毒だが、我には時間がないのだ。自分が我好みの可愛い女の子では無かった事を悲しむが良い。

『…子供の入った布袋、ピクリともしないけど生きてるわよネ?』
「大丈夫だろ」

多分我が誘拐犯に飛び蹴りした時に地面におちて顎あたりをぶつけたせいで気を失ってるだけだろう。生体反応はあるのだから。

それよりも。

「今は奥を優先だ」
『そんなに急いで何があるって言うのヨ』
「うーむ。…まだ、何もないな」

今から出てくるかもしれんがな。


___________________________________
(注:絵面が美しくないので、以下、暫く音声のみでお届けします)

「偉大なるものよ!我らの呼びかけに応えよ!!この子供たちを生贄として貴方様に捧げ「ノーセンキュー!」グペッ!?」
「き、貴様何者ぅグェッ!!」
「や、やめ…!うぐッ」
「来るなぁあああ!「はい黙れ」ギャッ」

「いちにーさん、よん…。あと2人足りんな。……あ。そこか!」

「ぎぃやぁあああ!?」
「助けてぇえええ!!」

「ええい。黙って腹に一発食らえ!時間の無駄だ!」
「ヘグゥッ…!」「ぐぁ…!」

『……下半身を守るために、ローブの下には鎧くらい着てたほうが良かったかもネ…』
_____________________________________________

我が洞窟に踏み込み、さらわれた子供達と思われる集団を複雑な陣の中心に拘束し、その陣を囲み何やら怪しげな儀式を始めていた黒マント達を黙らせた。

腹パン(一部除く)からの簀巻きにして身動きを取れなくしたところで、そいつらを一箇所に纏めた。具体的には、先程まで気を失った子供達が集められていた円の中へ。


「さて、この寛大な心を持つアリスちゃんが、話だけはとりあえず聞いてやろう」

死にたくない奴から口開け?と最大限努力して笑って言ってやったのに、黒マントの男達は顔には恐怖の色を浮かべ、簀巻きにされた身体を捩って、情けない悲鳴を上げながら逃げようとする。
失敬な!元配下なら泣いて喜んで朝食から夕食の時間まで休憩無しで話し続けたのに。

「アリス様のお悩み相談室の門戸が開いているうちに話し始めないなら、お前達が誘拐された子供達を使ってやろうとしていたことを、お前達を使って我が行うがどうする?」

脅しをかけるようでとてもとても心が痛むが仕方あるまい。緊急事態なのだし。

"こういう仕掛け"、前世では使った事なかったしな。わくわく。

『ご主人、何故大太刀の背で簀巻きの首元ペチペチしてるノかしラ?……というか、ソレ、肉切り包丁じゃない?大型豚用ノ…』
「え?潔く首斬られるの待ってるのかなって思って。料理長が言ってたぞ。覚悟を決めた獲物は綺麗に首をふっ飛ばしてもらうために、あえて静かに暴れずにまな板の上で大人しくしているものだと」

流石に人間は美味しくなさそうだから、首を飛ばしたらその辺の田畑のカカシの頭にするつもりだ。必要なのは身体だけ。

「悪い奴が居なくなり、尚且つ今まで役立たなかった分役に立てる。此奴らにとって最大の喜びだろう?」
『ドムチョの首をうっかりで飛ばそうとしてた事を思い出すワ……。というか自分の種族をもう少し大切にしましょウよ』

リィが物凄く呆れて言う。そんな事を言われてもな…。我、いくらベースが人間の女の子でも、基本的に意識は魔王の時に近い。多分物凄く丸くなってるけど。見た目じゃないぞ?精神がだ。
そんな我が、知り合いでもなければ可愛い女の子でもないこの…人間の中でも悪党に分類されそうな奴らに、何故慈悲の心を持たねばならんのだ。

「我、寛大とは言ったが、寛容とも慈悲があるとも言ってないぞ」
『ご主人は別に話を聞かなくてモ、この黒マント達が何をしようとしてたのか、分かっているんでショウ?』

じゃあ話なんて聞いてやる必要無いワよ。と、リィは言うが、短気は損気だぞ?もしかしたら予想が外れるやもしれんだろう?

「さて、仕方がないから質問をしてやろうではないか。
お前たち、"何を呼び出そうとしていた?"」

我の"問い"に、恐らく黒マント達の中では最も強い魔力を持つ男の口が開く。

「魔王を。…な…?!何故だ!口が勝手に…!?」

戸惑っているな。うむうむ。以前ドムチョにやったのと同じ事だ。副作用もない安全安心の自白魔法だ。

………魔王?

「"何故、魔王を喚び出そうとしたのだ?"」
「無論、我らが世界を支配する為だ!」

……うわあ。

『ご主人、コイツの頭おかしいワヨ』
「奇遇だな、リィ。我も思った所だ」

どちらの魔王を呼び出す気なのだろうか。

というか、魔王を召喚できたとしても、協力なんてしないだろう。もし名実ともに魔王だった前世の我なら、最終的に喚んだお前らもくるっと丸っとこんがり焼いて、……リィの餌かな。人間って美味しくないし。

「うーん…。何で生贄がロリとショタで魔王を呼べると思ったのか全くもって疑問だが…。"魔王が存在していると思った根拠は何だ?"」
「先日…勇者の剣が、冒険者により、発見された。勇者の剣、は、永劫に続く聖なる力で、守られている…それが粉々になって、いた。
そんな、事が…出来るのは、魔王だけ、だ」

…うむむ。精神が我に抵抗しまくってるな?途切れ途切れになる。だが抵抗したところで、回る口を止められるわけでもないようだがな。

「その程度の事で、魔王が実在するだなどと戯けた事を。"…それだけか?"」
「こ、こ最近、魔物の、出現が相次いで、いる。伝承にある、魔王が顕現、した際に…起こる、事象と一致している…!」

根掘り葉掘り喋ってもらったところ、この間我がコリー達と共に出かけた迷宮にて、我がうっかり呪っちゃったアレが魔王復活の決め手と判断されたらしい。あれれ。

「"あのお方"が言うのだ…、間違いないというのだ…!ならば魔王は、この世に再び現れたに違いない…!魔王を喚び出し、供物に食いついている間に鎖を付けて、支配し、"あのお方"に献上するのだ!」
「…ほーう?」

魔王に首輪を付ける気だったのか、この愚か者共は。そうかそうか。

「不快」
「グフォッ!?」

しっかり構えて、勢いよく蹴り上げた。よく喋るミノムシを。

『…アラー、よく飛ぶわネー…』
「さて、次はどのミノムシを吹っ飛ばそうか?」

青い顔でごめんなさいとガチ泣きし始めるマント達。うん。許すと思うな?

「暫く表を歩けなくなってもらおう」
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