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31.
しおりを挟む空は快晴。
風はそよそよと流れ、小鳥が数羽楽しそうに鳴いている。
ギルドでコリー達との依頼の達成報酬を確認し、回収場にて素材を売り渡し、金銭的にもほっくほく。
うむうむ。このまま最初に腹拵えしてリィとのお揃いの髪飾りを受け取りにいこう。なんと穏やかな良き日…になるはずだったのだが。
……我は今、強面マッチョに酒樽が如く担がれ、ギルドから街の外へと疾走され、エディンの西方の森の方に拉致されている。冒険者登録した日、登録前の我に脅しをかけにきたあの冒険者だ。
「これは…誘拐というやつだろうか?」
マッチョの小脇に抱えられた状態で待つのも暇になってきた。足が地面につかん。バタバタしてたら軽く頭を叩かれた。くすん。暴力反対!
『許可くれるならこのマッチョ噛むケド?』
抱えられた我が抱えた状態の仔犬サイズのリィが歯をガチガチさせながらギロリとマッチョを睨む。いいぞ!もっとやれ!
「待て待て待て。命とは言わねえが、恩人にその言い方は無えだろ」
「……まさか、リィの言ってる事が分かるのか…!?」
マッチョなのに!?
「分かんねえよ!つうか今何か失礼な事考えただろ!?分かんねえけど牙剥き出しにして威嚇されてれば俺にとってよく無い事なのは分かる!」
急いで下ろされて、距離を取られた。我、地上に降り立ったり!いぇい!!
「何の説明も無く急に担がれこんな人気のない所に連れ込まれた人間からすれば、担ぎ込んだ人間を誘拐犯とは思っても恩人などとは思わんぞ?」
「……それもそうだな。分かった。とりあえず説明してやるから、大人しく、くれぐれも大人しく。そこの犬も大人しく、俺の話を聞け」
……拐かされたの我なのに、何で向こうが怯えるのだろうか。解せぬ。マッチョが怯えても可愛くない。我が怯えたフリした方が絶対可愛い!
『ご主人、とりあえず落ち着きマショウ。分かってるからおちゃらけてるんでしょうケド、敵意は全く無いワ。話だけは先ず聞いてあげましょ。…いい筋肉に免じテ』
どうやら筋肉はリィのお眼鏡にかなったらしい。筋肉はな。仕方ない。いい筋肉に従おう。
「いいか、よく聞け。お前は今、タチの悪い奴らに追われてる。俺はアイツ…。……ギルマスとサブマスの頼みで護衛を兼ねてお前を連れて逃げてる。以上」
うむ。簡潔。とりあえず保護されているようなので、ギルマスとエルサには後で礼を言うとしよう。意図的に何かを誤魔化した点については今は目を瞑ろう。だが一つ、目下1番の疑問を解消したい。
「人選はどう言うわけだ?」
「…今手が空いてる中で、お前とランクが同等以上なのは俺だけだったから」
「"ランクは?"」
「C」
ふむふむ。
「…で?この"頼み"を聞いて、何をもらうのだ?」
「……チッ!」
「我が冒険者登録をする時にあんなに絡んできた上に、寸止めにするつもりだったとはいえ、脅しで殴りかかって来た輩が、報酬のある任務以外で我を護衛するなど考えられんからなぁ」
タダほど高い物はない。配下は言っていた。冒険者でそんなボランティアをする奴は、余程の女好きかバカかアホだと。…しかし、我も乞われたらやりそうだな。老人と病人、女性と子供には優しくするものだと料理長に言われたし。
強面マッチョは忌々しそうに我を睨んでから、B級昇格試験受験資格と呟いた。うーん、長い。呪文のように長い。というか、そんな試験があるのか。
「別に我、護ってもらわんでも平気だが?」
「…お前が動くと騒ぎになるからだろ」
「…"本音は?"」
「早々にランクを上げてえから断られると困る。…っ、さっきから俺に何してやがる!!」
バレた。リィは不思議そうに我を見て、強面マッチョに牙を剥く。まあ、よく気付いたな。口より手が先に出る脳筋の割に、一応きちんと経験を積んだ結果のCランク冒険者ではあるようだ。
「気にするな。本当にCランクなのか、護衛なのか、確かめる為にちょちょいと…。…軽く強制的に口を回らせただけの事」
『世間的にはそれ、自白魔法って言うんじゃないかしラ?』
「精神系の魔法使えるなんて聞いてねえしそもそも会話中に呪文も魔法陣も無く魔法使うとかありえねえだろ!」
ありえない?
リィに視線をやるが、さあ?と首を傾げられたので、別に非常識ではないだろう。…多分。
「不可能を可能にするのが魔法なのだから、ありえないと言うことの方があり得ないだろう。そもそも、いちいち呪文やら魔法陣やらを必要とするようでは、どうやって魔物や魔王と戦えるというのか」
「何で魔王と戦う事を前提としてんだよ…。伝説の魔王はノーモーションで魔法を繰り出したって言うが、普通魔法使いは盾役の剣士とかと組んで魔法を打ち込むまでの時間稼ぎしてもらったりとか、回復魔法をかけたりすんだよ」
愕然とした。そんな面倒な事を人間はするのか!?
「お前が仲良くしてるっつー、ほら、あの3人組の女冒険者達も、それぞれ戦闘で欠けてる部分を補うためのチームだろうが」
「そうか。そうだったのか…」
きちんと訓練しているようだがまだまだよわそうだったので、三人寄れば文殊の知恵というやつで、三人いれば1人分の戦力、という斬新なコンセプトなのだと思っていたのだが、違かったらしい。
そういえば勇者が来た時も勇者以外に細々何人かいた気がする。チームの総合力の比率は勇者9、その他1で、ぶっちゃけ眼中になかったが。
「何にせよ、我には不要だな」
発動まで時間稼ぎ必要無いし。下手に盾役使ったら最悪盾ごと吹っ飛ばすし。
「ところで昇格試験というのは何だ?」
「Cランクのくせしてんな事も知らねえのかよ!チッ!
……冒険者がランクを上げる方法は大きく2つ、1つは単純に功績。もう1つが試験。試験はギルマスとサブマスの両方から許可が必要になる」
ほう。つまり、実力があるとギルマス達に認められなくてはならないということか。うむうむ。我がランクアップしてるのは、功績の方だろうな。アルバイトしまくった結果だが、試験受けるよりも依頼を何件もこなした方が楽ではないか?
「…お前、エディンに来てからババア共の手伝い含めて一月で何件依頼こなした」
「基本的に明けに一件暮れ(*)に2件、1日通して常設の魔物の討伐と薬草むしり。…一月が20日だから大体3倍?……60くらいだな。
あと我はお前などという呼ばれ方をする謂れはない。アリス様だ。ぶっ飛ばすぞ」
「ベテラン冒険者が一月でこなす数は、大体40。数日かかる任務があればもっと少ない。つまり、お前はおかしい。分かった。アリンコな」
むきゃー!!!
「喚くな。見つかったらどうしてくれんだ」
「追手含め貴様もぶん殴って逃げる」
「追手の奴らは一応貴族の子飼いで冒険者じゃねえから、殴ったらお前即時罰則と資格剥奪、最悪牢屋行きな」
むきゃーーー!!!
『ご主人落ち着いて!残念だケド筋肉に罪は無いワ!筋肉避けたら頭しか叩く場所ないけどご主人がやったら最悪頭吹っ飛ばしてどっちにしろ資格剥奪と牢屋行きヨ!』
「おのれ脳筋マッチョのくせにぃいいい!!」
「脳筋マッチョ言うなアリンコ!」
多少大きくなったリィの腹に抱き付いて苛立ちを逃す。我、頑張る。我慢、できる、子…!
脳内で右ストレート、踵落としからの右フックを華麗にマッチョにキメるところを重複想像し、どうにかこうにか行き場のないこの思いを飲み込んだ。
…………さて、茶番はこの辺りまでにして、本題に入ろうではないか。
「で?我を追っているというのは、どこの何某だ?」
*明け=午前、暮れ=午後
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