22 / 136
22.
しおりを挟む取りこぼしのないよう狩をしながら飛び続けること約半日。リィと共に例の迷宮の前に到着した。それは砂漠の山の中に紛れるようにして、ぽっかりと、真っ黒な口を開けていた。
予想通り、コリー達はまだ到着していない。陽が落ちるまであと数時間もないから、やはり到着は明日の朝だろうな。
『ご主人、ここに来るまでどんだけ収納してきた訳…』
「ウシが15、ブタが30、とりが各種5~8、あとワニと獅子とヘビとクマが数匹といったところだな」
灯りが消える前に捌いてしまおうと思っているのだが、リィはなにやらそれが気に食わない様子。
『ロックバイソン、オーク、青鞭鳥、コカトリスの幼体、火吹鳥、クレイダイル、ドレインレオン、丸呑みヘビ、キメラ…アンタの許容量どうなってんノヨ!』
「どうもこうも、見たままが全てだ。それに、あの程度の収納は、我にとって収納とも呼べん。精々"ポケットにビスケット入れました"、程度に思っておけばいいだろう」
『もうイヤ…!何この規格外…!ついて行くと決めたからには一生お供するケドね!!』
そしてリィは溜め込んでいたものを吐き出し始めた。…物理的にではないぞ?
『まずその常識知らずなところ!アナタはどこぞのご令嬢デショう!?一般常識はどこに行ったの!貴族ならまず最初にその口調を直されそうなものヨネ!?使う魔法や身体技能もどんな生活すれば身につくわけ?!こんな令嬢いたら各国に名前が知られててもおかしくないワヨ!
冒険者に囲まれて平然と腹パンで対応ってどういう事!何で戦い慣れてるの!?というか冒険者やるならそれらしい服装を整えなさいよ!見た目で物凄い侮られてるじゃナイ!!アンタの釣りは普通の釣りじゃ無いデショ!それに収納力が高すぎて訳わからないわ!中身どうなってるの!街でも作るの!?______...』
リィが我との出会いの所から細かくどこが非常識なのかを突き詰めるが如く片っ端から語り続け、終わる頃には我も大体の血抜きや解体が終わっていた。次は道具の整備をせねばなるまい。さて、その前に。
「リィ、喋りすぎて声に張りがない。水でも飲んで落ち着いてくれ」
『ハァ、…フゥ…。アリガト……』
「リィになら話しておいても良いのかもしれんな。変わらず付いてきてくれるというのなら、長い長い付き合いになるだろうから」
我が元魔王というところは言わなかったが、元令嬢といっても所謂妾の子の為、令嬢としてではなくほぼ使用人として料理長はじめとする使用人達から知識を得たり実践で身に付けてきたことや、義母に毒殺されかけた事、その毒に対抗しようとした結果ちょっと身体が丈夫になり過ぎた事(ということにした。リィが解毒をした人物が誰かという所に拘ったので、そんな人物居ないのだが誤魔化すために致し方なく料理長と答えたら何故か納得された。…すまん、料理長)…と、伝えられるだけ伝えた。流石に急にパワーアップ(?)した理由については誤魔化せないかもと思っていたのだが、
『料理長がアナタを死の淵から超手を尽くして救ったんでショウ?なら納得ヨ。寧ろ人間の形を保ってる事に安心してるワ』
…と、まあ、なんか知らないが腑に落ちたそうだ。リィは料理長を何だと思ってるんだ。
『……色々言わせて貰ったケド、勘違いしないで欲しい事があるワ。確かに常識知らずだし、次々アタシの理解の範疇超えてくるし、物凄く騒ぎを起こしまくるけど、アナタの事は嫌いじゃないシ、ずっと付いていくワ。料理長のせいで付いたらしい変な常識もまあ、アナタを守るためのものである事は確かだし。アタシもついて行くと決めた時、アナタに足りない部分はアタシが補うと決めた。イイ女の決意はブレないノヨ!
それと、こうやってアタシの事を気遣ってくれたり、作業してて聞き流してるように見えてちゃんとヒトの話を聞いて、それにキチンと応えてくれるとこ、……結構好きよ』
驚いて包丁を研いでいた手を止めて、リィを見れば、照れたようにそっぽを向いて寝に入ったふりをしていた。ふっふっふ。可愛い奴め。
それにしても、あの魔物の量はおかしいな。草原やこの砂場にはロクな餌が無いだろうに、燃費が悪いロックバイソンや、そもそも自然に生まれて来るはずもないキメラまでいるとは。
不気味な事この上ない。
この砂漠にだけまた新しい魔物が湧いて出ているようだし。
……下にも何やら大きいのがいるようだな。
『ご主人、来るワよ』
「わかってる」
カサカサと小さな音を立てて、それらは現れた。数が多すぎて周辺の砂漠の砂を掻き上げる音が響き渡る。硬く黒い殻に身を包み、尾には毒を忍ばせたそれは、一般的にサソリと呼ばれる。しかしこの魔物だらけの中で生き残っているということは、それだけではないのだろう。
『牙が鋭いワ。…あらヤダ。牙にも毒があるみたいネ』
「サソリかぁ…。牙にもということは、全身毒だろうなぁ。ただでさえ嫌いなんだぞ。さそり」
『あら、苦手なもの有ったのネ』
「うむ。だって、なぁ」
口籠もった我の言いたい事を察したのか、リィは大丈夫、分かってる。気持ち悪いノヨね。生理的に無理ってやつでショ?というが、うむ。ちがう、そうじゃない。
カサカサ、ガサガサと徐々にそれらとの距離が狭まって行く。
「跳べ!」
我の指示に従って、リィが真上に跳躍する。
リィの足場になるように結界を真上に展開、リィの影だけを消して、大群のそれらの影が我の用意した"障害物"たちの影と繋がった瞬間に仕掛けを動かす。
「《停止》」
影が動きを止めれば、本体の動きも止まる。無理に動こうと体を動かせば悲鳴をあげるのは本体だ。……お。何体か壊れたな。
手間が省けて助かる。
「《爆ぜろ》」
命令通りの出来事が起こる。我の近くから円を描くように。奴らに感覚というものがあるとするならば、内側から爆発されたように感じただろうな。殻まで粉々になればもう動けまい。
リィが容赦ない…と、ドン引きしてる気がするが、致し方ないだろう。
1匹残らず叩くか踏み潰す。
切り裂く。
影を使って爆破する。
その三択ならこれが1番楽なのだから。
だから、そんなに唸らないでくれ。
「足の踏み場が無いくらい地面が汚れているからと言って、我の事をそんなに威嚇せんでも…」
『違うわよバカ!アンタじゃなくて、その下よ!!』
下。リィが吠えたその瞬間、我を囲うように砂の地面から飛び出た巨大なその尾の先が我の腹に突き刺さった。
0
お気に入りに追加
292
あなたにおすすめの小説
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
転生したらチートすぎて逆に怖い
至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん
愛されることを望んでいた…
神様のミスで刺されて転生!
運命の番と出会って…?
貰った能力は努力次第でスーパーチート!
番と幸せになるために無双します!
溺愛する家族もだいすき!
恋愛です!
無事1章完結しました!
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
悪役令嬢は最強を志す! 〜前世の記憶を思い出したので、とりあえず最強目指して冒険者になろうと思います!〜
フウ
ファンタジー
ソフィア・ルスキューレ公爵令嬢5歳。 先日、第一王子セドリックの婚約者として初めての顔合わせでセドリックの顔を見た瞬間、前世の記憶を思い出しました。
どうやら私は恋愛要素に本格的な……というより鬼畜すぎる難易度の戦闘要素もプラスしたRPGな乙女ゲームの悪役令嬢らしい。
「断罪? 婚約破棄? 国外追放? そして冤罪で殺される? 上等じゃない!」
超絶高スペックな悪役令嬢を舐めるなよっ! 殺される運命というのであれば、最強になってその運命をねじ伏せてやるわ!!
「というわけでお父様! 私、手始めにまず冒険者になります!!」
これは、前世の記憶を思い出したちょっとずれていてポンコツな天然お転婆令嬢が家族の力、自身の力を用いて最強を目指して運命をねじ伏せる物語!!
※ この小説は「小説家になろう」 「カクヨム」でも公開しております。
上記サイトでは先行投稿しております。
異世界定食屋 八百万の日替わり定食日記 ー素人料理はじめましたー 幻想食材シリーズ
夜刀神一輝
ファンタジー
異世界定食屋 八百万 -素人料理はじめましたー
八意斗真、田舎から便利な都会に出る人が多い中、都会の生活に疲れ、田舎の定食屋をほぼただ同然で借りて生活する。
田舎の中でも端っこにある、この店、来るのは定期的に食材を注文する配達員が来ること以外人はほとんど来ない、そのはずだった。
でかい厨房で自分のご飯を作っていると、店の外に人影が?こんな田舎に人影?まさか物の怪か?と思い開けてみると、そこには人が、しかもけもみみ、コスプレじゃなく本物っぽい!?
どういう原理か知らないが、異世界の何処かの国?の端っこに俺の店は繋がっているみたいだ。
だからどうしたと、俺は引きこもり、生活をしているのだが、料理を作ると、その匂いに釣られて人が一人二人とちらほら、しょうがないから、そいつらの分も作ってやっていると、いつの間にか、料理の店と勘違いされる事に、料理人でもないので大した料理は作れないのだが・・・。
そんな主人公が時には、異世界の食材を使い、めんどくさい時はインスタント食品までが飛び交う、そんな素人料理屋、八百万、異世界人に急かされ、渋々開店!?
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる