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私のせいではありません
【24】
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鳥の囀る音が窓の外から聞こえる。
ユメールは昨夜ベッドに入ってから、体を右へ左へそして仰向けに、はたまたうつ伏せに色々試してみたが全く眠れなかった。
目を閉じるとあの光景が脳裏に浮かぶのだ。
意識などしていないと心では思っているのに何故消えてくれないのだろう。
庭園を歩く姿、笑い合う姿、微笑み合う姿、何かを指差して説明している姿。
たった少しの時間でアントリックは今まで見せた事のない姿を初めて見せてくれた。
ただ、その姿はユメールへの物ではなかった。
ただそれだけだというのに⋯⋯。
胸の辺りがズキズキと疼くのが、認めたくなくて、寝てしまおう!と思っても寝られないジレンマ。
鳥の囀りに朝の訪れは確認したけれど起き上がる気力が湧かない。
こんな事は16年生きて来て初めての事で、その自分自身の有り様に戸惑う。
(如何してしまったの?)
自分のこの症状は病気ではない事は解っている、否ある意味病気だと言う事も解っている。
ただユメールは認めたくないのだ、あんなにも悪態を吐き合い、決して良好な間柄ではなかった学友を異性と認めた途端に、たった一枚のラブレターによって陥落された自分を⋯(私は王女よ、なのにこんな簡単に?)
自分のチョロさを絶対に認めない頑固なユメールは、無理やり眠りに就こうともう一度ベッドカバーを頭から被るのだった。
「おはようございます」
「⋯⋯」
カリーナの声にも起き上がる事が出来ないユメールは、最早抜け殻なのもしれない。
自分がこんなにも弱いなんて、その事が悔しくて涙が溢れる。
この涙は決してアントリックへの恋心などではない、絶対に認めない。
意地になるユメールの心を慮ったのか、カリーナは声をかけずに侍女部屋へと下がった。
それからもただカバーに包まっているだけで決して眠れないユメールは、夜と同じ様に右へ左へ体を動かしていた。
「ユメール様、来客なのですが」
「⋯⋯」
「宰相様からアントリック様がお越しとご連絡が入りました」
「⋯⋯会わないわ」
「⋯宜しいのですか?」
「えぇいいわ、そう伝えて」
「畏まりました」
今この状態で会ってもまともに話す事など絶対に出来ない事は解っている。
でもユメールは自分の立場でそれが許されないことも解っていた。
だけど今だけは、お願いだから今だけは放っといて欲しい。
自分がこんなにも弱いだなんて認めたくないけど認めてあげるから、今は放って置いてお願いだから⋯⋯。
そう思って自分の不甲斐なさを噛み締めていたらうつらうつらといつの間にかユメールは、やっと眠りに落ちていた。
一方面会を断られたアントリックは応接室でアーマリー公爵と宰相へ此度の謀略の説明を始めていた。
「幼馴染ですか?」
「あぁ」
公爵の問にアントリックは相槌を打つ。
「彼女は子爵家の娘で私の幼馴染でそして私の侍女でもある」
「それで?」
何時にないアントリックの態度にイライラを隠せない公爵は遂に上から目線で訊ねた。
本来ならその場で不敬を問われても可笑しくなかったが、アントリック自身もユメールに面会を断られて意気消沈していた。
「私には現在2名の侍女と3名の侍従がいて世話をして貰っていた今回は侍女を連れてくるのは止めていたのだが、彼女は幼馴染の気安さで命令に背き付いてきていた、だが別に問題はないと許してしまった。そして侍従3名が画策して私とユメールの仲を裂こうとしたらしいのだ」
「何故そんな事を?」
「私がユメールを娶るのがモンマルトルのゴリ押しと思ったみたいだ、サリーナの事でそう思ったらしい。私は彼らに胸の内は明かしていなかったからな」
「それで?」
「ユメールに思い知らせるつもりだったと聞いた」
「何をですか?」
「私の思い人は侍女のナリッサだと」
「「⋯⋯」」
「何故何も言わぬのだ」
「不敬になりますので」
「宰相今更だ、言ってくれ」
アントリックは自分の失態を認め宰相へ言葉を促す。
「そういう勘違いをさせるほど親密だったと周りから思われていたんですね」
「⋯⋯そうなんだろうな、留学にも連れてきていた」
「では此方での学園にも?」
「いや彼女は留学はしていない、本人が希望しなかった」
「左様ですか」
そこで公爵が会話に混じる。
「皇子、今後は如何されるのですか?」
「何をだ?」
「ユメールは部屋から出てきません、これは私も初めての事なのです。事の重大さが解っておられますか?ユメールは責任感も強い子ですし、外に関して王女という仮面も外しません、本当に王族らしい娘です。それが貴方が面会に来られて⋯⋯帝国の皇子が来られているというのに部屋から出ないなどと前代未聞なのですよ!それでも何時かは出てくるでしょうが⋯」
話しながら感情が昂りアーマリー公爵こそ常に無い平常心を失っていた。
それほど今回のユメールの引き篭もりは公爵にとってもショックな出来事なのだ。
口を開けば愚痴を言う可愛い姪っ子は、自分の懐に入れた者には素を曝ける事もあるが、我儘を言ったりする娘ではない。
それがこんな阿呆如きに⋯⋯。
公爵は悔しくて(それでも輿入れはさせなければならないのか?)と、己に自問自答している所だった。
ユメールは昨夜ベッドに入ってから、体を右へ左へそして仰向けに、はたまたうつ伏せに色々試してみたが全く眠れなかった。
目を閉じるとあの光景が脳裏に浮かぶのだ。
意識などしていないと心では思っているのに何故消えてくれないのだろう。
庭園を歩く姿、笑い合う姿、微笑み合う姿、何かを指差して説明している姿。
たった少しの時間でアントリックは今まで見せた事のない姿を初めて見せてくれた。
ただ、その姿はユメールへの物ではなかった。
ただそれだけだというのに⋯⋯。
胸の辺りがズキズキと疼くのが、認めたくなくて、寝てしまおう!と思っても寝られないジレンマ。
鳥の囀りに朝の訪れは確認したけれど起き上がる気力が湧かない。
こんな事は16年生きて来て初めての事で、その自分自身の有り様に戸惑う。
(如何してしまったの?)
自分のこの症状は病気ではない事は解っている、否ある意味病気だと言う事も解っている。
ただユメールは認めたくないのだ、あんなにも悪態を吐き合い、決して良好な間柄ではなかった学友を異性と認めた途端に、たった一枚のラブレターによって陥落された自分を⋯(私は王女よ、なのにこんな簡単に?)
自分のチョロさを絶対に認めない頑固なユメールは、無理やり眠りに就こうともう一度ベッドカバーを頭から被るのだった。
「おはようございます」
「⋯⋯」
カリーナの声にも起き上がる事が出来ないユメールは、最早抜け殻なのもしれない。
自分がこんなにも弱いなんて、その事が悔しくて涙が溢れる。
この涙は決してアントリックへの恋心などではない、絶対に認めない。
意地になるユメールの心を慮ったのか、カリーナは声をかけずに侍女部屋へと下がった。
それからもただカバーに包まっているだけで決して眠れないユメールは、夜と同じ様に右へ左へ体を動かしていた。
「ユメール様、来客なのですが」
「⋯⋯」
「宰相様からアントリック様がお越しとご連絡が入りました」
「⋯⋯会わないわ」
「⋯宜しいのですか?」
「えぇいいわ、そう伝えて」
「畏まりました」
今この状態で会ってもまともに話す事など絶対に出来ない事は解っている。
でもユメールは自分の立場でそれが許されないことも解っていた。
だけど今だけは、お願いだから今だけは放っといて欲しい。
自分がこんなにも弱いだなんて認めたくないけど認めてあげるから、今は放って置いてお願いだから⋯⋯。
そう思って自分の不甲斐なさを噛み締めていたらうつらうつらといつの間にかユメールは、やっと眠りに落ちていた。
一方面会を断られたアントリックは応接室でアーマリー公爵と宰相へ此度の謀略の説明を始めていた。
「幼馴染ですか?」
「あぁ」
公爵の問にアントリックは相槌を打つ。
「彼女は子爵家の娘で私の幼馴染でそして私の侍女でもある」
「それで?」
何時にないアントリックの態度にイライラを隠せない公爵は遂に上から目線で訊ねた。
本来ならその場で不敬を問われても可笑しくなかったが、アントリック自身もユメールに面会を断られて意気消沈していた。
「私には現在2名の侍女と3名の侍従がいて世話をして貰っていた今回は侍女を連れてくるのは止めていたのだが、彼女は幼馴染の気安さで命令に背き付いてきていた、だが別に問題はないと許してしまった。そして侍従3名が画策して私とユメールの仲を裂こうとしたらしいのだ」
「何故そんな事を?」
「私がユメールを娶るのがモンマルトルのゴリ押しと思ったみたいだ、サリーナの事でそう思ったらしい。私は彼らに胸の内は明かしていなかったからな」
「それで?」
「ユメールに思い知らせるつもりだったと聞いた」
「何をですか?」
「私の思い人は侍女のナリッサだと」
「「⋯⋯」」
「何故何も言わぬのだ」
「不敬になりますので」
「宰相今更だ、言ってくれ」
アントリックは自分の失態を認め宰相へ言葉を促す。
「そういう勘違いをさせるほど親密だったと周りから思われていたんですね」
「⋯⋯そうなんだろうな、留学にも連れてきていた」
「では此方での学園にも?」
「いや彼女は留学はしていない、本人が希望しなかった」
「左様ですか」
そこで公爵が会話に混じる。
「皇子、今後は如何されるのですか?」
「何をだ?」
「ユメールは部屋から出てきません、これは私も初めての事なのです。事の重大さが解っておられますか?ユメールは責任感も強い子ですし、外に関して王女という仮面も外しません、本当に王族らしい娘です。それが貴方が面会に来られて⋯⋯帝国の皇子が来られているというのに部屋から出ないなどと前代未聞なのですよ!それでも何時かは出てくるでしょうが⋯」
話しながら感情が昂りアーマリー公爵こそ常に無い平常心を失っていた。
それほど今回のユメールの引き篭もりは公爵にとってもショックな出来事なのだ。
口を開けば愚痴を言う可愛い姪っ子は、自分の懐に入れた者には素を曝ける事もあるが、我儘を言ったりする娘ではない。
それがこんな阿呆如きに⋯⋯。
公爵は悔しくて(それでも輿入れはさせなければならないのか?)と、己に自問自答している所だった。
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