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陛下と宰相、そしてアーマリー公爵が見守る中
アントリックとユメールは婚約誓約書にサインをする。

少しアントリックの手が震えているのが気になったユメールはアントリックの顔を見つめる。

「何だ!ずっと夢見た事が叶うのだ、手も震えるだろう、可笑しいか?」

「いえ意外で⋯失礼しました」

「フッ」

何故鼻で笑われたのかちっとも解らぬユメールだったが、その後の早さに付いて行けなくなりそうだった。

「先ずは罪人と罰の確認、調べや判決は付いているか?」

「「はっ」」

宰相とアーマリー公爵が答える。

「ユメールの支度は?」

「直ちに」

(えっとぉ名前呼び許してませんけど⋯)
何時もの如く心の中で反論する。
急に機微機微仕出したアントリックに唖然とするが、やはり帝国皇子の威厳も垣間見えて少し得意になるユメールにアントリックが話しかける。

「昼食は共に摂りたい、それまでは雑用を片付けるので呼ぶまで待っていてくれ」

「解りましたわ、それまで準備の指示でもしておきます」

「あぁ昼食楽しみにしている」

そう言って4人連れ立って応接室を後にした。

残されたユメールは廊下で待っていたミリナと共に部屋に戻ると部屋が大戦争になっていた。

「なにこれ?」

「あぁユメール様お戻りになりましたか」

「ナタリーなにこれ?それに貴方公爵家に帰ったんじゃなかった?」

「急遽呼び戻されました」

「あら、もしかして私の仕度?」

「えぇ輿入れ道具は準備しておりますがユメール様がお持ちになりたい物と、それから此方に残す荷物は別の部屋に移動になりますので、その手配をお手伝いに、ユメール様の侍女は皆初めてですので」

「ありがとう助かるわ」

「いえ1週間後のご出発と聞いて此方も慌てました」

「⋯⋯1週間後ってい・っ・し・ゅ・う・か・んごぉ!!!」

「あらユメール様はお聞きになって居られなかったのですか?」

「えぇあっでも昼食を一緒にって言われたわ」

「それを早く教えてくださいませ!」

その辺で荷物整理をしていたセレナが慌ててテーブルの足に躓いたり、マリーが持ってた箱をひっくり返したり大騒動だ。

ユメールは準備でこれなら前途多難ねと思うのだった。
それからはミリナ中心に磨き上げが始まる。

ナタリーとマリーは輿入れ準備部隊と課して走り回っている間。
カリーナとセレナがミリナの指示で私のマッサージを始めた。

昼だから何時もと違い急ピッチで磨き上げが始まる。

バタバタとドレスを着せられて髪のセット。
そこでナタリーからストップがかかる。
何時もは髪を梳きそのまま流れるように横髪だけを編み込んで後ろに纏める髪型だったのを、前髪をしっかり作って上に盛り上げ旋毛の少し下辺りに一旦纏めて、そこから髪を繰り出し、繰り出した髪を鏝でウェーブを作る。

ナタリーがノートを見ながらミリナに指導する。

今帝国子女の主流の髪型だそうだ。
アントリックの反応を見る為にも、あと帝国で直ぐに対応出来るようにナタリーの指導にも熱が入る。
ユメールは鏝の熱に辟易していた。
同じ熱でも歓迎の熱と、嫌悪の熱、大違いである。

「この髪型が主流なの?時間掛かりそうね」

「帝国は割に女性の地位が高いのです、所謂職業婦人も多く「知ってるわよ」」

ナタリーの講釈に遮るようにユメールが被せる。

「だからこそ家を守る女性は自分の髪型で自身を主張するそうですよ」

「へぇ~詳しいのね」

「此処に書いてあります」

そう言ってノートを見せてくれた。
このノートを作ってくれたアントリックの侍女はモンマルトルここに来ているのだろうか?
ユメールは是非見てみたいと思い、昼食の時に紹介してもらおうと拳を握りしめた。


昼食は庭に設えた四阿にテーブルを持ち込み摂ることになった。
アントリックにエスコートされながら、ユメールも庭の説明をしていく。

昼食のメニューは王宮の料理長が、帝国料理とモンマルトルの料理を一皿ずつに2種類少量ずつ盛り付け、話題に事欠かないように苦心してくれた。
おかげで何時もは憎まれ口を叩きあう二人もお互いの国の料理を堪能しながら、それを話題にできた。

食後の珈琲は帝国産の豆を使ったアントリックの今回持参したお土産からの一品だ。

「フム何時もの香りだ」

「お持ち下さりありがとうございます。いい香りですね」

「あぁこれが私は好きだ」

直ぐ様ユメールの頭の中のメモに書き留める。

「ところでアントリック様と私はお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「ぁ⋯⋯」

「えっ?」

名前呼びの許可を貰っていなかったユメールは早めに了承を得るためにお願いしたのだが声が小さくてつい不敬にも聞き返してしまった。

「申し訳ありません」

「いやいいんだユメールなら、その愛称で呼んでくれないか?」

「愛称ですか?」

「あぁなんでもいい」

「ご家族様はなんと?」

「リックだ、待て!同じのは止めてくれ」

えー考えるの面倒くさいんです~とは不敬になるので言えないが、きっと顔に出ていたのだろう、アントリックはシュンとした顔をして、所謂、耳の垂れた犬の様という表現にピッタリの様相になった。

「考えるのは嫌か?」

「いえ今考えております⋯アンティはどうですか?」

「アンティ?」

「えぇアントリック様のアンとモンマルトルでよく言い換えがあるトをティ呼びするんですが、どうでしょうか?」

「アンティか!よしそれでよろしく頼む」

嬉しそうに微笑む美丈夫は先程まで垂れてた耳は消えていたが、笑った目尻が特に嬉しそうにクシャッとなって、ユメールの母性を擽った。




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