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マリーとミリナが休暇明けの挨拶に来た。
何故か後ろにファイゼンもいる。
(呼んでないし)ユメールの心の声には及びもしないほど、ずっとミリナを見つめている。

この時ユメールが思い出したのはでユメールと騎士達の描かれていた恋の模様。

『彼はじっと彼女を見て微笑んだり悲しみに憂いた目をしたり、時には悔しそうにキリリと唇の端を噛み締めている時もあり、傍目には彼が彼女を思っているのはその双眸がある限り疑う余地はなかった』

あの描写が目の前で起きている。
ファイゼンはユメールにミリナの面影を見ていたと言っていた。
この様子を周りが見れば、どうぞ二人の仲を誤解してください、少なくとも彼は彼女が比翼連理の片割れだと信じて疑ってないですよ。

何て思っても不思議ではない。

噂には噂なりの根拠があるのだと、事実ではない噂の怖さを思い知ったユメール。

噂を真に受けてなんたらかんたらと簡単に苦言を呈すのは止めようと一つ人間として成長した気分になった。
とはいえファイゼンは呼んでもいないのに来ているのでそれは注意せねば示しがつかない。

「ファイゼン貴方何しに来たの?面会の知らせは来ていないけれど」

ユメールの言葉にミリナがギョッとしてファイゼンを睨む。
その睨んだ目も可愛いとばかりに頬を染めるファイゼン。
何を見せられているのかと呆れるユメールと部屋の一同。

「はっ申し訳ございません、侍女殿の護衛を申し仕りまして」

「誰から?」

「はっ御尊父様にて」

なんの事はない、ミリナの父親がおそらく「ミリナを守ってくれ」とでも言ったのだろう、どういったタイミングで言ったのかは知らないがそれを只管実行しているということ。

(怖いな)

ユメールが付き纏いを思い出しているとナタリーがスススと前に出てユメールに耳打ちする。

「私が絞めてきます」

ユメールがコクリと頷くとナタリーはファイゼンの前に立ち「貴殿はこちらへ」と言って別室に連れて行った。

あぁ百戦錬磨のお婆が本領発揮してしまった。
ユメールはファイゼンの無事を赤子の小指の爪先程は心配した。

ミリナに顔を向ければポーカーフェイスを気取り「気にしてません」を装ってはいるがソワソワしているのはマリーとユメールには解った。
解ったが公私の区別は付けなければならないのでマリーがユメールを見る(私にお任せください)と言っているようなので又又コクリと頷くと今度はマリーがミリナを侍女部屋に押し込んだ。

上手く行けばいいなと恋のキューピッドをしたつもりのユメールだったが、こちらも爪が甘かったようだ。

恋とは自分ではままならない思いなのだと、そして人生経験の少ないユメールにとっては人の黍を学ぶお勉強になる材料でもあるのだと知るのは、もう少し先、アントリックが来国してからのお話。

ただユメールはその気持ちは知らなければ良かったと後に思うのであった。






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