【完結】長い眠りのその後で

maruko

文字の大きさ
上 下
33 / 50
第三章 長い眠りのその後で

目覚めの時

しおりを挟む
「ふふふ~ん、ふふふ~ふ~ん」

「アディル様非常に気になりますので心の中でお願いします」

「えっ声に出てた?」

「はい、メロディーが何の曲か気になって集中できません」

「ごめんなさい、私が適当に作った節だから、曲ではないわ」

「左様でございますか、では心の中で」

「はい心の中でね」

執務室で報告書を読んでたら無意識で鼻歌歌ってたみたい。
この一年で以前のナヨナヨしてた馬鹿正直者からすっかり様変わりしたダルトンに、やんわりと注意を受けました。
失敗、失敗。

執務の方もすっかり慣れて領地に友人達を誘い避暑も兼ねて行ったり、テモシーと家政を頑張ったり毎日充実した日々を過ごしております。

最近は良い出来事ばかりで2ヶ月前に私の弟が誕生しました。
悪阻の時は皆をハラハラさせて、父は家を祖父に任せて産まれるまで付き添うほどの献身ぶり。
少し幼い弟に嫉妬してしまいました、少しですよ少し。
皆には内緒です。

王命の事でなかなか結婚できなかったキャンベラも先月ようやく嫁ぎました。
お相手はレイニー公爵様です。後妻ではありますがレイニー様と前妻様は白い結婚で3年経ち離縁されたそうなので、気性の激しいキャンベラは直ぐに実家に帰ってくるのではと祖母が心配しておりましたが、意外に年の離れたキャンベラを公爵様が気に入り仲睦まじくは過ごしているようです。

この婚姻はエンヌ様が間に入ったのも効果があったのかもしれません。

母が結婚式に出なくて良い理由がある時にさせたほうが良いというお義父様のご配慮にもよるものでした。

それでも父には出席して欲しかったようでキャンベラは私に何度も「父が来たら教えて」と言っていました。
私にお願い事をするキャンベラが初めてだったのでアンディーと二人で面食らいました。

父が出席しない事は解っていましたが、来てほしいなと私も願ってましたが、やはり父は来ませんでした。
でも凄く豪華な花束が父母名義で届いてキャンベラが泣いていたのが印象的でした。
キャンベラも静かに泣くんだってその時思ったものです。

そして先日やっと私の庭が完成しました。
出来上がったときは公爵家の庭師のティティと二人で手を取り合いぴょんぴょん跳ねてたら、ドーランにやんわりと手を離されて???となってましたら距離が近いと怒られました。

夜会に偶にマーク様と出席する時もドーラン夫妻が後ろについて回りエスコート以外での接触をことごとく邪魔するので、ドーラン夫妻は社交界で不名誉な噂を撒かれておりましてドーランはともかく奥様がお可哀想で、家政の予算から夜会手当を奥様にお渡ししております。

これがサンディル様が帰ってくるまで続くのかと思うと嘆息してしまいます。

そろそろサンディル様がお戻りになるのでは?と団長様は仰ってましたが、はてさて何時になるのでしょうか?無事に目覚めて下さるといいのですが⋯⋯。


──────────────


本日は私の17歳のお誕生日パーティーの日です。
パーティーなど不要、身内だけでと言ってたのですが何故かお義父様が張り切ってしまって朝から準備が大変です。
アンヌとローリーは交互に休んでましたが、この日は二人揃って私に張り付いております。
DayPartyですので夜明けと共に起こされましたので、とても眠いです。

本日のドレスはエンパイアスタイルの膝下丈のワンピースでお義母様のお見立てで先日作りました。
色は私の髪に合わせた薄いピンクと白。
服に合わせた宝飾品は父と母が贈ってくれました。

みんなの愛に包まれた装いで、いざパーティーへ!

⋯⋯挨拶だけでかれこれ1時間。
いつになったらあの美味しそうなケーキは食べれるのかしら?
などと考えながら色々な方々に挨拶を返します。
何故か私の横に鎮座されてるエンヌ様が
「誰よ、こんなに招待客増やしたのは」とそろそろご機嫌が悪くなりそうで後ろに控えてたテモシーに合図を送るとお義父様に進言しに行ってくれました。

それを合図に立食式になっているお料理の中から厳選毒味した物がエンヌ様に届けられました。
勿論私のもあります。

エンヌ様と二人で美味しいお料理をニコニコしながら堪能していたら、ふと視線を感じてそちらを見るとスノーが憎々しげに私を睨んでおります。

こちらに来て暫くしてから図書室の大改造と称してスノーの前で魔法をぶち上げ(あら端ない)怖がらせたあとも、折りにつけジワジワと私の魔法をお披露目しておりましたら、だいぶおとなしくはなっていたのですが⋯⋯。

あの目は要注意では?

エンヌ様と反対側の横に座られているマーク様に耳打ちしたらそっと立ち上がり何処かへ行かれました。
何らかの対策を立てに行くのでしょうね。

王宮の夜会ほどの招待客にご挨拶して本日のお誕生日会での私の役目は終了です。
あとはご勝手に騒いだり帰ったりそれぞれでしょう。

エンヌ様と退出してサロンに行くとお義父様、ドーラン、テモシー、団長様が既に寛いでおりました。

「ウィル!何なのあの招待客の数」

「ハハッびっくりした?うちに間者を送り込んだ家門の長を呼んでみたんだ。みんな恐れをなしてたよ。あ~愉快、愉快」

「貴方は愉快かもしれないけど挨拶を受ける私達は自由になれなくて、せっかくのアディルのお誕生会だったのに⋯⋯」

「だから来るなって言ったのに来たのは義姉さんじゃないか」

「だって私もアディルのお祝いしたかったのだもの」

エンヌ様が可愛くてつい不敬にも抱きついてしまいましたら応えて下さって嬉しいです。

「なにやってんの⋯⋯で、アディルどうだった?」

「団長様が仰っていた方々の中で魔力を開放済みだったり保有してる方はいませんでしたがスノーに見知らぬ者の魔力の気配が有り、今マーク様が調べていると思います」

「なるほどね。そろそろ仕掛けて来るのかな?」

「まだよ」

エンヌ様がきっぱり言いきりましたが根拠があるのでしょうか?

「陛下の夢見を思い出して」

エンヌ様は皆様に言います。

「あぁそうですね」

団長様が同意して皆も頷いていますが私だけわかりません、誰か教えて下さい。
一人取り残されてキョトンとしているとドーランが教えてくれました。

陛下の夢見で伯爵家の養女が男を連れて謁見の間に現れた時、サンディル様が陛下の後ろに控えていたそうです。

あ~そうですね、サンディル様がまだお戻りではないから、まだと言う事ですね。



それから皆で今後の話と雑談をして部屋に戻ったのは夕暮れ前でした。

あ~疲れた~。自分の誕生日なのにこんなに疲れるなんて、と思っていたらノックです。
ローリーに目配せすると彼女が扉の外へ、それから⋯

「姉上~おめでとうございます~」

「アンディー。どうしたの?ここまでは誰が?」

「義兄上に連れてきてもらいました」

弟の後ろからはマーク様が付いてきております。
私の部屋へは入ったことがないので物珍しそうにキョロキョロしておりますが、その態度は弟にバレちゃいます。

「まぁサンディル様、アンディーを案内して下さってありがとうございます。会場ではゆっくり話せなくて嬉しいです」

二人にソファを薦めているとローリーの部下のアンがワゴンにお茶の用意をして来ました、素早い。

祖父母は先週から『孫の顔見に行脚』をしておりまして、メリルの居るバスティナ伯爵家の領地と父母の居るシンディ医師の元へ行くので本日は欠席すると知らせが来ておりました。ですのでアンディーもてっきりついて行ってるものとばかり思ってたから挨拶に来てくれた時はとても嬉しくて泊まる様にお願いしてたのです。

「姉様、今日は沢山の方がお祝いに来てくれてましたね。流石僕の自慢の姉様です」

「フフ公爵家のお客様よ。姉様にはお友達少ないから。でも今度クラリスとタリーとお芝居に行くのそちらの方が楽しみだわ」

「姉様、そういえば僕の近くの方々がザワザワしてて姉様の隣にいた方が王妃様って言うんです。
前公爵夫人ではなかったのですか?」

お義母様はクジでエンヌ様に負けてしまったので本日はテモシーと一緒に裏方をして下さってましたが⋯テモシーが迷惑そうでした。

だってお義父様がいちいち邪魔するので二度手間だったようです。
そんな裏話話せないわ。

「お義母様は連日の準備でお疲れでサロンで休まれてたのよ」

「そうなんですか!姉様の為に頑張って下さったんですね。義兄様あとでご挨拶してもよろしいでしょうか?」

「あぁ夕食の時に紹介しよう。結婚式の時は出来なかったからね」

「ハイお願いします」

私の可愛いアンディーは益々可愛いわ。
14歳にもなった男子に使う表現じゃないかもだけど、だって可愛いんですもの。

三人で食堂に行くとお義父様とお義母様はまだでした。
使用人の皆にアンディーを紹介していたらお二人が来られました。

改めてマーク様がアンディーをお義父様とお義母様に紹介します。
するとお義母様がアンディーに抱きついてしまいました。
一瞬でお義父様の顔色が変わり、その殺気にマーク様が怯み、結局テモシーが二人を引き剥がし「あらら」とつぶやくお義母様をお義父様に押し付けて事なきを得ました。

アンディーの明日が無くなるところだったわ。
お義母様ご注意を!と目配せするとお義母様は自分の咄嗟の行動に気づいたようでテヘヘと笑っておられます。

テヘヘで弟を処分されては叶いませんわ。

夕食が終わりそれぞれ部屋に戻る時にもアンディーがなかなか私を離してくれなくて、何時もよりもかなり遅くサンディル様の部屋に行きました。

魔力を送っていると不意に手首を掴まれました。
目を開けていないサンディル様が

「君は誰だ、チェリーナ様の魔力じゃない。
チェリーナ様は何処だ」

そう言って目を開けたサンディル様が私を見て途端に⋯。

「ぎゃ~~~~~」

と叫んでベッドから飛び降り壁際に蹲りました。

目覚めるなら静かに目を覚ましてくださいませ、旦那様。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

【取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

【取り下げ予定】アマレッタの第二の人生

ごろごろみかん。
恋愛
『僕らは、恋をするんだ。お互いに』 彼がそう言ったから。 アマレッタは彼に恋をした。厳しい王太子妃教育にも耐え、誰もが認める妃になろうと励んだ。 だけどある日、婚約者に呼び出されて言われた言葉は、彼女の想像を裏切るものだった。 「きみは第二妃となって、エミリアを支えてやって欲しい」 その瞬間、アマレッタは思い出した。 この世界が、恋愛小説の世界であること。 そこで彼女は、悪役として処刑されてしまうこと──。 アマレッタの恋心を、彼は利用しようと言うのだ。誰からの理解も得られず、深い裏切りを受けた彼女は、国を出ることにした。 一方、彼女が去った後。国は、緩やかに破滅の道を辿ることになる。

王妃の鑑

ごろごろみかん。
恋愛
王妃ネアモネは婚姻した夜に夫からお前のことは愛していないと告げられ、失意のうちに命を失った。そして気づけば時間は巻きもどる。 これはネアモネが幸せをつかもうと必死に生きる話

ゼラニウムの花束をあなたに

ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

過去に戻った筈の王

基本二度寝
恋愛
王太子は後悔した。 婚約者に婚約破棄を突きつけ、子爵令嬢と結ばれた。 しかし、甘い恋人の時間は終わる。 子爵令嬢は妃という重圧に耐えられなかった。 彼女だったなら、こうはならなかった。 婚約者と結婚し、子爵令嬢を側妃にしていれば。 後悔の日々だった。

伯爵令嬢は、愛する二人を引き裂く女は悪女だと叫ぶ

基本二度寝
恋愛
「フリージア様、あなたの婚約者のロマンセ様と侯爵令嬢ベルガモ様は愛し合っているのです。 わかりませんか? 貴女は二人を引き裂く悪女なのです!」 伯爵家の令嬢カリーナは、報われぬ恋に嘆く二人をどうにか添い遂げさせてやりたい気持ちで、公爵令嬢フリージアに訴えた。 彼らは互いに家のために結ばれた婚約者を持つ。 だが、気持ちは、心だけは、あなただけだと、周囲の目のある場所で互いの境遇を嘆いていた二人だった。 フリージアは、首を傾げてみせた。 「私にどうしろと」 「愛し合っている二人の為に、身を引いてください」 カリーナの言葉に、フリージアは黙り込み、やがて答えた。 「貴女はそれで構わないの?」 「ええ、結婚は愛し合うもの同士がすべきなのです!」 カリーナにも婚約者は居る。 想い合っている相手が。 だからこそ、悲恋に嘆く彼らに同情したのだった。

処理中です...