Summer Vacation

セリーネス

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解け合い7

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「グヴァイラヤーさんの相手はお母さん達に任せて♪」

そう母にそう言われ、ルーも頷いてくれたので久志と私はリビングを出た。
何処で話をするのだろう?と思っていたら、久志は一度キッチンへ行き冷蔵庫から500mlペットボトルのお茶を2つ取りだした。

「…外へ行かないか?」

久志は寛ぎたい時や考え事をしたい時等は、庭の東屋に行くのが好きな人だ。
私が頷くと、玄関から庭に出てやはり東屋に向かった。
空は今日も良く晴れていて暑くなりそうだ。
家から少し離れた所にある木で造られた東屋は、風の通り道を考えて建てられているので、夏でも気持ちの良い風が抜ける。
私が先に通され奥側に座ると、そこからリビングが見えた。ルーは私に背中を向けているので表情は見えないけれど、窓際に立っている弟や向かい側に座る母の表情は明るく笑っているのでホッとした。
久志は私の隣に座りペットボトルを1つ渡してくれた。
そして「少し長くなるが俺の話を聞いてくれるか?」と切り出した。私はコクンと黙ったまま頷いた。

「あのな……」

しばし考え込んでから漸く久志は口を開いた。

「……2年前迄、俺はが好きだったんだ。俺と違って明るくて社交的で、誰に対しても優しくていつも回りに友人がいるお前からずっと目が離せなかったんだ。しかもそこら辺の女子より色が白くて華奢で、髪も猫の毛みたいに柔らかくて眼も大きくてお前は本当に全て俺好みだったんだ。……勿論俺は自分がおかしいって解っていた。いくら幼なじみでいつも一緒にいる奴だからって男を好きになるなんて変だと思っていた。だからなるべく関わらない様にしていた時もあったんだ」

『そっか、だから一時期避けられていたんだ……』

「ところが、2年前のあの夜、お前が本当は女なんだって判って正直ホッとした。でもやっぱり男のお前を好きになったのか女だったから知らずに引かれて好きになったのか判らなくなって、……苦しかった」

俯き、ギュッとペットボトルを握り締め、苦しそうな表情の久志の姿に私も心が苦しくなった。

「……うん」

「だけど、な……」

顔をあげた久志は、じっと私を見つめた。

「10日前の満月の夜、男の姿で寝ているお前を見てやっぱり愛しいと思った。そして僅かの時間だったが封印が弱まって女の姿になったお前を見て綺麗だと感じた。…4日前佳夜の封印が完全に解けた時、佳夜は俺に真名を教えてくれただろう?聞いた瞬間はそれが真名だとは解らなかった。だけど、佳夜が目覚めなくてずっとベッドにいた時に俺は聞いた言葉を無意識に声に出していたんだ。その途端、その言葉が佳夜の真名だって何故か解った。そして佳夜は俺の唯一だと感じたんだ」

「…そうなの?」

あぁ。と久志は頷きお茶を飲んだ。

「……なのに、いきなり目の前で佳夜が拐われて消えてしまったから、俺は喪失感と佳夜を拐った奴への怒りで本気で気が狂ってしまうかと思った。佳夜がどれ程大切な存在かその時初めて実感したよ」

久志は私が消えてしまった後、屋上で私の名前を叫び続け、屋上で起きた異常事態に気付いた全員が駆け付けて雅鷹さんと父が止めるまで久志は魔方陣が浮かび上がっていた場所に両の拳をぶつけ続けていたのだそうだ。

「煌夜が治癒魔法を施してくれたから、もう何とも無いけどな」

その言って軽く笑って私に両手を見せてくれた。
たしかに、久志の手を見ても全く傷は無かった。
聞けば両の指の骨にヒビが入り、皮がズル剥け血だらけになっていたらしい。しかし、おかしくなりかけてしまっていた久志は全く痛み等感じなかったそうだ。
……正直、聞いていた私の方が具合が悪くなりそうだった。

久志はお茶を半分程飲み干しテーブルに戻すと、膝の上に置いていた私の手をそっと握った。そして少し私の側に寄ってきた。

「佳夜…。いや、サランシーラ。正直俺も唯一無二の番の意味って良く判らない。だけど、俺にとって男とか女とか関係無く、サランシーラの全てが大切で好きなんだ」

久志からの言葉に私は涙が溢れた。そして封印が解けた時に想った事を思い出した。
ずっと、私も久志が好きだった。きっと生まれて初めて会った時から。
ルーの時には良く判らなかったけど、今なら唯一無二の番の意味を理解出来る。久志の言う様に全て大切で好き。
久志との想いが通じたからこそ、ルーも私の唯一無二の番なんだと自覚出来た。

「……泣かないでくれ。佳夜に泣かれると俺まで苦しくて辛くなる」

私は流れ続ける涙をそのままに緩く首を横に振った。

「……ずっと逢いたかったの。彰の姿ではなくて、サランシーラとして久志を見つめたくて触れたかったの。だから今、久志の前に居られて、久志から想いを聞かせて貰えて、凄く嬉しい」

「……あぁっ!サランシーラ!!俺も嬉しいよ!」

久志は左手で私の頬を撫で、親指で顎を上に向けると、優しく優しく唇に口付けてくれた。
一度そっと離れると、今度は私の両の瞼に口付けを落とし、舌で涙を拭い、また唇を合わせた。
舌先をそっと私の唇に差し入れ、優しく私の口を開けると、久志の舌は私の口腔内をゆっくり味わう様に上下の歯列、上顎、舌の裏を丁寧に舐め、舌を絡めてきた。
ねっとりと絡み付かれ、私の唇からどちらのとも言えない唾液が零れ、息も漏れてしまった。

「んっ、……ん」

気持ち良過ぎて溶けてしまいそうだった。
一体どれ位の時間久志と口付けていただろう?
いつの間にか久志の右手は私の後頭部に回り優しく頭を捕らえ、顎を捕らえていたはずの左手は私の両手を優しく握り締めていた。

「はぁ……。サラの唇は気持ち良いな。ずっと口付けていたいよ」

自然に愛称で呼ばれて私はとても嬉しくてドキドキしてしまった。

「これ以上口付けていたらベッドに押し倒してしまいたくなるから今は自重するよ」と目の回りを赤らめながら久志は名残惜しそうに私から離れた。

「それにしても、サラが俺だけの唯一ではない事が本当に残念だ」

「……それは俺も同感だ」

「!?」

いつから居たのか、東屋の入り口の柱にもたれかかる様に立つルーがいた。

「チッ!覗くなんて随分無粋な奴だな。……せっかく佳夜と気持ちが通じ合ったんだ。邪魔をしないでくれませんか?」

久志とのキスを見られていた可能性が高くて私は顔から火が出る程恥ずかしくなった。。
そんな私の顔を隠す様に久志は私を優しく抱き寄せ膝の上に座らせた。
これはこれで正直恥ずかし過ぎるので、私は思わず久志の胸に顔を押し付けた。

「……舌打ちとは案外君も柄が悪いね」

「お互い様でしょう?」

……声は穏やかだけど、頭上で火花が飛びまくっている気がする。…うん。絶対に気のせいじゃない。

「…で、何時までお邪魔虫でいるんですか?」

「心外だね。俺はカヤを呼びに来ただけだよ?……カヤ、俺はそろそろ向こうへ帰らないといけないんだ」

「え!?」

ルーの言葉に私は顔を上げた。

「…そうなの?」

「うん。カヤと離れるなんて辛すぎるけど、俺は今日非番だっただけで明日からまた仕事なんだ。だから、そろそろ帰らないと。カヤ、俺の事を見送ってくれないか?」

ルーが帰る。と言った事に無性に寂しくて悲しくなった。
つい数時間前に彼の事を少しだけ知って、やっと番の意味が解って彼を好きになり始めたばかりなのに。これが唯一無二の番への感情と言うものなのだろうか??

「……今度は何時逢える?」

私は自分からそっと久志の膝から降り、ルーの手を握った。

「あぁ…カヤ。そんなに悲しい顔をしないでくれ。次は10日後になってしまうけど、次は2~3日休みを取ってくるし、イルツヴェーグのお土産を買って来るよ」

ルーはそう言うと、優しく私に口付けを落とした。

久志の目の前で!って事に恥ずかしくなり、又もや私は顔が真っ赤になり俯いた。

番への感情とか色々意味がまだ少し謎だから、後で母に話を聞きたいところだけど、……2人は私の番なんだから恥ずかしく感じるのっておかしいのかも知れない。けど!そもそも、こっ、恋人が出来た事が人生初なんだから、仕方がないよね!?
恋人が出来たって自覚する事ですらその場に転げ回りたくなるほど照れてしまう為、心の中の自問自答すら噛んでしまった……。

「それともカヤ?俺とこのままイルツヴェーグに来て一緒に暮らす?」

「もう今直ぐにでも俺はカヤを妻にして全てを俺の物にしたいんだ」……なんてっ、耳に口付けながら蕩けてしまいそうになる声と甘過ぎる笑顔で言わないで~!!!

心臓が保たないから~!

「わっ、私!まだ学生だし!こっちではまだ結婚出来る年じゃないし!未成年だから!まだ駄目だよ!」

「学生?」

「学校って言って、同じ年齢位の子供が1ヵ所に集まって色々勉強する所に通っているの」

「あぁ、俺の世界で言う学舎まなびやの事だね」

ファルリーアパファルにも学校はあり、暮らす町や種族によって習う事や学舎の規模は異なるが、だいたい3歳頃から通い出し、5年程通ったら一応卒業。
その後は農家等実家を継げる者はそのまま実家の手伝い等をして働き始めたり、手に職を付ける為に住み込みで職人の所に働きに出たりする。中には学舎の学長から推薦状を貰ってもっと大きな街の上の学舎に通う者もいるのだそうだ。

「俺は三男だから家を継げない。でもまだやりたい仕事が思いつかなかったし勉強が面白かったから上の学舎に進みたかったんだ。そうしたら幸い推薦状が貰えてね。イルツヴェーグの学舎に進んで縁あってそのまま騎士の道に進んだんだ」

「そうだったのね」

「ふ~ん。じゃあ、騎士様はもう帰る時間ならさっさとお送りしないとね♪」

「……」

久志ってば、ルーの前だと凄く子供みたい!
いつも無表情で大人びた久志の意外な姿が可愛くて私は笑いが込み上げてきた。

「くすくすくす♪」

「「かや?」」

突然笑い出した私に対して2人は睨めっこを止めて声を揃えてこちらに振り返った。

「声も揃えてこっちを向くタイミングも一緒だなんて♪意外と仲良くなれそうね!」

「「はぁ!?」」

「ほら~!!」

面白過ぎて私はアハハハ!と大声で笑った。



※※※※※※※※※※※※※※※※




「またな」

「うん…」

屋上にはルーと久志と私の3人だけ。
次に逢えるのは10日後。と聞いて母達が気を利かせてくれた。
久志もかなり嫌々そうだったが気を利かして屋上の入口で待っていてくれている。
屋上に出る時ルーが久志に話し掛けていた。2人共私より背が高過ぎるので、頭上で何か言っていても私には聞き取れなかった。

「……10日も会えないからサラから口付けして欲しいな」

少し意地悪く笑いながらルーがこそっと耳に囁いた。

「……こんな真っ昼間に無理だよ~!」

「誰も見てないのに?」

「私ルーと久志が初めての彼氏なんだもん。いきなり大胆になれないよ~…」

着ているワンピースを両手で握り締め、涙目で見上げると、ルーはサッと右手で自分の口を覆い顔を真っ赤にした。

「サラ、その顔は反則だよ……」

「……え?」

「…サラが俺と結婚出来る年になるまで沢山あちこちデートしような♪それで、俺に慣れて大胆になってくれるのを期待してるからな❤」

少し早口でそう言うと、ルーはサッと私を抱き寄せた。

「……愛してる。またな」

時間的には短いけど、しっかり舌を絡めたキスをしてルーは私から離れて転移陣の構築呪文を唱えた。

あっという間に足元に魔方陣が現れ、ルーは私に笑顔を見せ軽く手を振ると消えて行った。

『……ヤダ、何で涙が出てきちゃうの?』

10日後にはまた逢えるって解っているのに、頬に涙が伝うのを止められなかった。

「……あいつが、10日間俺に佳夜を独り占めさせてやる代わりにお前を泣かせるな。だってさ」

隣に来た久志は私の頭を撫でて手に持っていたハンドタオルで優しく涙を拭ってくれた。

「それが、さっき2人で話していた事?」

「あぁ。でも、俺じゃなくてあいつが今佳夜を泣かせたよな」

「そうだね!」

久志の少し憮然とした言い方が面白くて、私は少し笑ってしまった。
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